「AMCRON XLS2002」製品レビュー:クロスオーバーの細かな設定を柔軟に行える軽量パワー・アンプ

AMCRONXLS2002
ライブ・ハウスや仮設PA現場ではおなじみのパワー・アンプ、AMCRON XLS DriveCore 2シリーズの新製品が発表されました。出力別に4モデル用意された中から、今回はXLS2002を試聴したいと思います。

多彩な入出力端子を備え
入力感度の変更も行える

2chの入力を持つXLS2002は、4Ωのステレオ時で650W+650Wを出力。会場の仕様によってメイン・スピーカーのほかモニターにも適応できる一般的な容量です。このシリーズは、1チャンネルあたり350〜775Wといった、出力のみが異なるラインナップなので、状況に応じて最適なモデルを選択できます。

従来のXLSシリーズ同様、内蔵DSPにて入力モードの設定が可能です。通常のステレオ・モード、倍の出力でモノラル駆動させたい場合のブリッジ・モード、バイアンプとしてドライブさせたい場合のINPUT-Yモードを選択できます。かつては背面の配線やケーブルの変換で対応していたことが、DSPの設定により完結できることで、ミスや設営時間に対するリスクを軽減できることは非常に前向きな要素です。

ありがたいことに、出力端子にはスピコンだけでなくバインディング・ポストも変わらず用意され、入力端子にはなんとXLR/フォーン/RCAピンまで備えているという徹底ぶり。フォーンはスルー端子としても使用可能です。RCAピンやフォーンで本機に入力しなければいけない場合は、恐らくミキサーのヘッド・アンプで十分に信号を増幅できていないことがあるでしょう。その際は入力感度の変更が可能で、1.4Vと0.775Vより選択可能。多彩な端子を備えている上、この点もしっかり考慮されて、どんな設備環境であっても対応できる心強さに感心しました。

そしてこの新しいXLS DriveCore 2の目玉は、なんといってもAMCRONのカスタムICであるDriveCore 2を搭載した基幹部による“音”です。

レンジに広がりを持たせ
解像度の高い音で奥行きを演出

今回はライブ・ハウスの設備を一部お借りして、AMCRONの過去のシリーズXTIと比較しての試聴となりました。使用したスピーカーはJBL PROFESSIONAL PRXシリーズ(8Ω)。JBLのウェッジ・モニターに組み合わせるのはAMCRON!というイメージは今でも健在ですね。ミキサー経由で音源を再生し、まずは通常のステレオ使用を想定しての検聴から始めます。新旧2製品の聴き比べはDSPの設定をすべてスルーにし、純粋に増幅器として聴感上同レベルの音量で行いました。

際立って違いを感じたのは、XLS2002のローエンドのレンジの広さと全体の奥行きです。解像度の高さが格段に上がり、ウェッジ・モニターであろうとも十分に鑑賞に使用できるレベルで鳴らすことができました。ある程度入力を上げていっても(あるいは極端に下げてみても)、質感に大きな変化や劣化は見られず、効率的にスピーカーが鳴っているということが感じられます。

次に入力モードをINPUT-Yにし、バイアンプを仮定してクロスオーバーの設定を検証してみました。1/12oct単位で段階を細かく調節できるクロスオーバーは操作性に優れ、レスポンスも早いので直感的に音を聴きながらの調整を行えます。24dB/octのリンクウィッツ・ライリー方式のフィルターを採用しているので、クロスオーバーにも違和感がありません。フィルターの設定はNO CROSSOVER/LOW PASS/BAND PASS/HIGH PASSから選べ、可変域も30Hz〜3kHzと相当広いので、自由な使い道を考えられるでしょう。

ブリッジ・モードに関してもディスプレイ上の操作のみで設定を完結できます。リミッターの設定もお忘れなく。

ソフトの面のグレード・アップはもちろんですが、ハードの面でもより使いやすくなっています。重量物というイメージのパワー・アンプを、なんと5kgにまで軽量化し(片手でつかめます!)、運搬の労が軽減されました。いや、むしろ無くなりました。腰上まであるアンプ・ラックは転がすにしても2人がかり、という印象ですが、このシリーズでアンプ・ラックを組んだとしても相当楽に運べるはず。また、通気用に肉抜きされたフロント・パネルは見た目にもスマートです。

細かい機能にも現場に寄せた配慮がなされていて、各シーンで活用できます。例えばPA席などのアンプ・ラックから離れた場所で動作状況をステータス信号により確認したい場合は、リア・パネルの端子から信号を出力できます。また演劇など、ステージ上のシビアな暗転が要求される場合に、ディスプレイやLEDインジケーターの光量を調節可能。そのほか待機電力を抑えるSLEEPモード、不本意なパネル操作を禁止するためのロック機能などが備えられています。さらに、付属電源ケーブルが短い点にも配慮を感じました。結局コンセントはアンプ・ラック内のタップに集合させるので、ケーブルが長いとラック内でかさばってしまいます。

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AMCRONのパワー・アンプがデジタルに移行してから数年がたちますが、日々ブラッシュ・アップされていくテクノロジーには驚くばかりです。アナログ回路につきものの熱問題や重量の問題を取り払い、反対にアナログ回路でないことにより失われてしまったものを取り戻しつつ、デジタルにしかできない利便性をさらに盛り込んでいます。本機を試聴してみて、コストも含め細かい機能の随所に、現場で使用するユーザーの声をもらさず受け止めてくれていることを感じました。

▲リア・パネル。左から、リセット・スイッチ、AUX(3ピン・ユーロブロック)、出力×2ch(スピコン、バインディング・ポスト)、入力×2ch(フォーン、XLR、RCAピン) ▲リア・パネル。左から、リセット・スイッチ、AUX(3ピン・ユーロブロック)、出力×2ch(スピコン、バインディング・ポスト)、入力×2ch(フォーン、XLR、RCAピン)
▲クロスオーバーのフィルターの設定はNO CR OSSOVER/LOW PASS/BAND PASS/HIGH PASSから選べる ▲クロスオーバーのフィルターの設定はNO CROSSOVER/LOW PASS/BAND PASS/HIGH PASSから選べる

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年7月号より)

AMCRON
XLS2002
105,000円
▪チャンネル数:2 ▪出力(ステレオ):1,050W+1,050W(2Ω)、650W+650W(4Ω)、375W+375W(8Ω) ▪周波数特性:20Hz〜20kHz(+0/−1dB) ▪SN比:103dB以上(A-weighted) ▪THD:0.5%以下 ▪ダンピングファクター:200以上(10Hz〜400Hz、8Ω) ▪消費電力:350W(1/8出力、ピンク・ノイズ、2Ω) ▪外形寸法:483(W)×89(H)×285(D)mm ▪重量:5kg