
8系統の音色モジュールを搭載
各種ツマミでエディット可能
動作環境はMac OS X 10.8以上、Windows 8/7(32/64ビット)で、VST、VST3、Audio Units、またはAAX対応となっています。画面は大きく4つのセクションと、マスター・チャンネルに分かれており、左上が音源部。8系統のモジュールが用意されており、左からバス・ドラム1/2、スネアとリムのミックス、スネアとクラップのミックス、ハイハットのミックス、パーカッション1/2、最後にシンバルという構成です。ROLAND TR-808/909などのリズム・マシンを踏襲するような内容で、各モジュールにエディット用のツマミが割り当てられていますが、逆にこういったドラム・シンセに多いステップ・シーケンサーは搭載されていません。各モジュールには、C1〜G#1までのMIDIノートが最初から割り振られているので、実際のプログラミングでは本製品をDAW上に立ち上げて、MIDIで打ち込んでいきます。DAW上にMIDIを直接打ち込むことで演奏の管理、オートメーションの書き込み/編集なども簡単にできます。シーケンサーを搭載しないことで逆にMIDIチャンネル・アサインなどの煩雑さを回避し、DAWとの親和性をより高めていると感じました。
細かい音作りを進めていくにあたりとても面白いと思ったのはバス・ドラムに用意されたBENDとHARMONICSのツマミです(画面①)。

BENDは発音直後一瞬だけ音程を高くする機能。HARMONICSはその横のキックのモジュールにも装備されており、倍音という名のひずみを加えます。いずれも音像に埋もれがちなTR-808キックを聴き取りやすくするという効果をもたらします。
スネア&リム、スネア&クラップ、ハイハットは、PCM波形とドラム・シンセの2系統の音色をクロス・フェーダーでミックスして音を作ります(画面②)。

音色を選ぶ“TYPE”がつまみになっているため、連続的に音色が切り替わるのがユニーク。またハイハットにはMIDIノートが2つ割り当てられているので、2種類のハイハットを別々に鳴らせることができます。片方はクローズ、もう片方はオープンといった使い方ができるわけです。
パーカッションは2つのモジュールを用意しており、音色は5種類の中からスイッチングで指定します(画面③)。

このモジュールにはTONE、TIME、RANGE、UP&DOWNというエディット項目を用意。簡単に言うと発音から音程を変化させるもので、その変化の量、到達時間などを指定し、ただの打楽器ではないところまで音を作り込むことができます。キックはTR-808/909など、スネア、ハイハットなどはこれに加えてTR-606/707などの音色も再現可能です。1台でいわゆるビンテージ・リズム・マシンのおいしい音を網羅できるよう設計されています。
Heartbeat用にカスタマイズされた
エフェクト・セクションを搭載
画面左下にはミキサーが用意されています。音源部の真下に各チャンネルのボリューム・フェーダー、パン、ソロ、ミュートといった操作子が並んだ、非常にシンプルなものです。エディット用にEQ、PING、後述するリバーブ、エコーへのセンドつまみも用意されています。PINGつまみは発音ごとに左右に音がパンニングされる、いわばトリガー型のオート・パンナー。右に回せば回すほど左右への広がりも大きくなり分離感が増します。ハイハットやパーカッションには特に有用で、シンプルなトラックであっても現代的な雰囲気が出しやすいよう設計されていると感じました。
画面右下は、全体の音色や空間演出に使うエフェクトのセクション。一番上がコンプレッサー/エクスパンダーで、同社の単体プラグインValley People Dyna-miteをほとんどそのまま搭載しています。“ほとんど”と書いたのは、ダッキング(特定の音の入力を受けてコンプレッサーが動作する)スイッチのトリガー元が最初からバス・ドラム、キックに指定されていて、より本製品の目的に特化したものになっているからです。TR-808系のサウンドをミックスする場合、キックの迫力を維持するため特殊な処理を施す必要があるのですが、これが実はミキシングにおけるスキルとなっておりクリエイターにはあまり浸透していません。この処理をワンタッチで実現できるのはありがたい機能だと言えます。
続いてフィルター・ディレイ、リバーブが搭載されています。フィルター・ディレイは本製品で新しく設計されたもの、リバーブは同社の代表的プラグイン“TSAR-1”のアルゴリズムを採用したものです。TSAR-1は単体でも楽曲全体のメイン・リバーブを担当できるプラグインで、本製品のためにカスタムされて実装していますが、この価格帯の製品に内蔵されているのはとてもぜいたくな仕様だと思います。
有機的なリズムを構築できる
AUTO LAYER MACHINE機能
画面右上には“AUTO LAYER MACHINE”という見慣れないセクションがあります(画面④)。

これは、1つのMIDIノートに最大4つのサウンドをレイヤー、または間隔を指定して連打しフィルとすることができる機能。レイヤーするのかフィルとして連打するのかは、ツマミで指定するというのも面白い構造で、回す具合によってレイヤーの場合はボリューム、フィルの場合は連打の間隔が変化します。加えてCHAOSフェーダーも用意されていて、通常上から下に向かって進行するフィル(またはレイヤー)を反復させたり、隣の列または上下左右のサウンドも引っ掛けて鳴らすといったことが可能。文字通りトリガーがどう動くかはやってみないと分からないので、有機的なリズム変化を起こしたいときに重宝します。
最後にマスター・チャンネルのMONO CUTとWIDTHを解説しましょう。MONO CUTは低域から順にモノラル化するもので、低域を真ん中に集めたいときに重宝します。WIDTHはその逆。右に回せば音像が左右に分離していきます。この2つのツマミを調整することで芯があって広がりもある、より近代的な“オールドスクール・ビート”に作り込むことができると思います。
以上かなり駆け足で、気になった機能をピックアップしました。もともとユーザー・フレンドリーな機能で評価されているメーカーだけに、クリエイターや実際の作業のことをよく考えて作りこまれた製品であることが分かります。そのため基本的なサウンドのクオリティを保ちつつ、思い付きでどんどんクリエイティブを盛り込んでいける、そんな簡単さと楽しさがありました。群雄割拠のドラム音源市場においても、これは一目置いておくべき製品が登場したのではないでしょうか。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年10月号より)