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Vaundy『replica』インタビュー【後編】〜プライベートスタジオ初披露!「怪獣の花唄」の裏話も

Vaundy『replica』インタビュー【後編】〜プライベートスタジオ初披露!「怪獣の花唄」の裏話も

Vaundyのインタビュー後編では、「怪獣の花唄」再録に至った経緯やリズムの取り方についての考えから、独特のルームリバーブを生み出すプライベートスタジオでの録音作業について語っていただいた。貴重な撮り下ろし機材写真とともにお届けしよう。

Vaundy『replica』インタビュー前編はこちら

リズムのコントラストを考えた曲作り

——ディスク1には「怪獣の花唄 - replica -」が収録されていますね。これは再録バージョンという認識で合っていますか?

Vaundy はい。青葉台スタジオでレコーディングし直しました。音楽において、リズムの取り方にはさまざまなアプローチがあります。このとき、4つの拍子の中でどの拍にアクセントを置くかが重要になってくるのですが、「怪獣の花唄」では完全に1拍目と3拍目にアクセントが来るんです。近年、僕はドラマーのBOBOさんとリズムの取り方についてよく話すんですが、1拍目と3拍目、または2拍目と4拍目というリズムの取り方を曲中で使い分けるようになりました。以前からグルーブ感が変わったので、僕の中で「怪獣の花唄」を再録するという作業はある意味、新鮮に感じましたね。

——曲中でリズムの取り方を使い分けるというのは、非常に興味深い点です。

Vaundy これは僕も大事なところだと思っています。例えば「トドメの一撃 feat. Cory Wong」「融解sink」辺りではAメロ〜Bメロは2拍目と4拍目にアクセントがあって、大事なサビなど印象付けたいメロでは1拍目と3拍目にアクセントが移るんです。このようなリズムのコントラストの付け方は、海外のポップスでも結構取り入れられているテクニックなんですよ。なので、近年は自分もこういったところを考えて曲やメロディを作っていますね。

——そうするとメロディラインも変わってきますか?

Vaundy リズムの取り方が変われば、当然メロディラインも変わってきますよね。それで変わらないなら、もう一度メロディや曲を見直した方がいいと思います。特に近年のポップスはリズムが重要なんですよ。まずはリズムで、その次に和声だと僕は考えています。僕は音楽の起源は大きく2つに分かれると思っていて、南米起源の音楽は石をたたくところから、アジア圏を起源とする音楽は馬の尻尾を弾くところからなんです。日本は中国の影響もあるので後者の流れを持っていると思うんですけど、第二次世界大戦後の高度経済成長期に西洋の音楽が入ってきたため、そこから独自の文化に発展して現在のJポップができていると考えます。だから、海外の人から見たらJポップって不思議な音楽に感じると思いますよ。特にリズムにおいては。

部屋鳴りを生かしたレコーディング

——普段、曲を作るときは、どのように進めていくのですか?

Vaundy メロディと歌詞だったら、僕は絶対にメロディから書くんです。歌詞から書くなんて天地がひっくり返ってもありえないですね。

——最初にメロディを作り、そこに歌詞を置いていくという順番なんですね。

Vaundy 僕からすると、歌詞はメロディが言ってることの翻訳……日本語翻訳なんです。もっと言うと本来、歌詞なんて必要ないんですよ。もともと音楽ってコード進行とメロディだけで“ここは切ないところなんだ”とか“ここは何かを強く言いたいところなんだ”ってのが分かるんで。もし歌詞から作ったら言いたいことが先行してしまって、良いメロディが生まれにくいんです。そしてメロディの引き算もできなくなってくる。“だってこの歌詞、全部必要なんです”ってパターンになりやすいので。もし歌詞の引き算をできる人なら問題ないんですけど、それはなかなか難しいことだと思います。

——ラップについてはいかがでしょうか?

Vaundy 例えば「NEO JAPAN」では、フローから書いた気がします。ラップって基本的にはリリックありきなので、リリックから書かなきゃいけないと思うんですけれど。詞とメロディを行き来する作業を細かくして書き上げていきましたが、ラップは難しかったですね。

——先ほどディスク1とディスク2では曲の作り方が異なるとの話でしたが、その部分について詳しく教えていただけますか?

Vaundy 例えばレイヤーしたトラックの数について、今回のディスク1とディスク2では大きな違いがあります。ディスク2にはポップス系の楽曲が多いんですが、僕の場合、ポップスってレイヤートラックが多くなる傾向があるんですよ。これに対して、ディスク1ではレイヤートラックをかなり減らしているんです。

——その理由は何だったのでしょうか?

Vaundy 部屋鳴りを生かしたレコーディングを行うことによって、レイヤーをたくさん重ねる必要がなくなるということに気付いたからです。例えば複数の楽器をデッドな環境で録るのと部屋鳴りを生かした環境で録るのでは、当然、後者の方が音の情報量が増え、密度も高くなるじゃないですか。デッドで録ると、どうしてもどんどんレイヤーしたくなってくるんですよ。

——部屋鳴りを生かしたレコーディングをされるということですが、反響については何か工夫されているのでしょうか?

Vaundy 自宅スタジオはリフォームして床だけでなく天井にも無垢材を使用しています。なのでお風呂とまではいきませんが、若干それに近い響き方がしますね。一応、耳の高さには、壁に吸音材を貼り付けています。もしデッドな環境で録るんだったら別にどこのスタジオで録っても同じ音になると思うんです。中には“そうじゃない”っていう人もいるかもしれませんが、曲を作るアーティスト目線からすると同じなんですよ。部屋の響きってすごく個性があって大切だと思うので、家のスタジオはめちゃめちゃ響くようにしているんです。

——そのスタジオで録られたという「常熱」「宮」「黒子」のボーカルからは、独特なルームリバーブ感があるなと感じました。

Vaundy 自宅スタジオの響きを生かした、このルーム感が大事なんです。ほかのスタジオでは絶対に出せない音じゃないですか? だから、この音を聴いたら“Vaundyの部屋だ!”ってなるくらい個性を持ったサウンドにミックスで仕上がっているんですよ。

Vaundy's Private Studio

Vaundy's Private Studio

「美電球」「常熱」「宮」のレコーディングに使用されたという、Vaundyのプライベートスタジオ。リフォームした際、天井と床に無垢材を採用したことで、より部屋が響くようになったとのこと。壁の耳の高さの部分には、吸音材を貼り付けているのもこだわりだと話す

メインデスク。コンピューターはApple Mac Studioを使用。左上に置かれているのは、モニターコントローラーのaudient NEROだ

メインデスク。コンピューターはApple Mac Studioを使用。左上に置かれているのは、モニターコントローラーのaudient NEROだ

モニタースピーカーは、ATC SCM25A Pro

モニタースピーカーは、ATC SCM25A Pro

オーディオインターフェースはUNIVERSAL AUDIO apollo|x8pを使っている

オーディオインターフェースはUNIVERSAL AUDIO apollo|x8pを使っている

デシケーターの上には、カセットデッキのTEAC W-790Rを設置

デシケーターの上には、カセットデッキのTEAC W-790Rを設置

メインデスク右側には、シンセのARTURIA MICROFREAKがスタンバイ

メインデスク右側には、シンセのARTURIA MICROFREAKがスタンバイ

nordのステージピアノ、nord grand。鍵盤タッチや音質が気に入っているのだそう

nordのステージピアノ、nord grand。鍵盤タッチや音質が気に入っているのだそう

「宮」のドラムはオーバーヘッド1本のみで収録

——Vaundyさんのスタジオでボーカルレコーディングをする場合は、どのようなセッティングになっていますか?

Vaundy 僕は情報量を増やすという意味でも、ボーカル録音時には絶対にアンビエンスマイクも立てています。

——つまり、普段はオンマイクとアンビエンスマイクの2本が立っているわけですね。

Vaundy そうです。ボーカルのオンマイクにはコンデンサータイプのMilab VIP-50、アンビエンスにはリボンタイプのAEA KU5Aを使っていて、両者はオーディオインターフェースのUNIVERSAL AUDIO apollo x8pに入力しています。

——マイクにはいろいろな種類がありますが、中でもVIP-50を選ばれた理由は?

Vaundy アルバムのプリプロ作業時に偶然試したマイクがVIP-50だったのですが、温かみとハイレンジを同時に兼ね備えている珍しいタイプで、僕の声にピッタリはまった感じがありました。自分が聴いている声に近い音がするんです。あと、最近僕が作っている曲の雰囲気、嗜好(しこう)に合ったボーカルサウンドで録れるというところが大きいですね。録音時、僕はかなり大きな声で歌うのでSPL耐性が高いマイクが必要になってくるのですが、そんなときにこのVIP-50は有用です。VIP-50のほかにも、LEWITT LCT 540 Sというコンデンサーマイクも持っていて、VIP-50と併用することが多いですね。

Vaundyお気に入りのコンデンサーマイク、Milab VIP-50

Vaundyお気に入りのコンデンサーマイク、Milab VIP-50

写真左からLEWITT LCT 540 S、SLATE DIGITAL VMS専用マイク

写真左からLEWITT LCT 540 S、SLATE DIGITAL VMS専用マイク

——Vaundyさんのスタジオでは、アンビエンスマイクはどのように立てているのですか?

Vaundy 自分より高い位置にKU5Aをセットして、部屋の壁の方に向けていますね。KU5Aは宇多田(ヒカル)さんが使われているのを知ってましたけど、僕自身としては、ボーカルよりアンビエンスに向いている気がするんです。

——それはどういった理由で?

Vaundy KU5Aはリボンマイクらしい音を持っていますが、ほかのリボンマイクと比べてより現代的なサウンドがします。低域をしっかりとキャプチャーしてくれるので、これをドラムのオーバーヘッドにも使っているんですよ。

——ドラムにもKU5Aを使用されているのですね。

Vaundy はい。KU5Aをオーバーヘッドにセットすれば、キックマイクは不要になるんです。実は「宮」のドラムはKU5A 1本で録っているんですよ。

——オーバーヘッド1本でドラムを録ったんですか?

Vaundy そうなんです。最初は3本のマイクを立てていたんですけど“何か違うな”となり、結局オーバーヘッドのKU5Aだけを残したんです。それを照内さんに送って調整してもらいました。

——そのとき照内さんは、何とおっしゃっていましたか?

Vaundy 照内さんは“これで良いんじゃないかな”って話してくれましたね。

——確かに「宮」のドラムは生々しくて興味深い音がするなと思っていたのですが、そういった背景があったのですね。

Vaundy 自分でドラムをたたいているので、マジで下手くそで申し訳ないです(笑)。

ドラムのオーバーヘッドにはリボンマイクのAEA KU5Aを採用

ドラムのオーバーヘッドにはリボンマイクのAEA KU5Aを採用

スネアにセットしたのはaudio-technica AT4040

スネアにセットしたのはaudio-technica AT4040

ギターアンプにはSHURE SM57を使用する

ギターアンプにはSHURE SM57を使用する

ギターペダル周り。上段左からiSP Technologies DECIMATOR II(ノイズリダクション)、WAMPLER CORY WONG COMPRESSOR(コンプレッサー)、BOSS VB-2W 技 WAZA CRAFT(ビブラート)、PS-6(ハーモニスト)、下段左からSOURCE AUDIO ULTRA WAVE(マルチエフェクト)、electro-harmonix STEREO MEMORY MAN(エコー/コーラス)

ギターペダル周り。上段左からiSP Technologies DECIMATOR II(ノイズリダクション)、WAMPLER CORY WONG COMPRESSOR(コンプレッサー)、BOSS VB-2W 技 WAZA CRAFT(ビブラート)、PS-6(ハーモニスト)、下段左からSOURCE AUDIO ULTRA WAVE(マルチエフェクト)、electro-harmonix STEREO MEMORY MAN(エコー/コーラス)

ハモリはファルセットで歌う

——Vaundyさんの楽曲は、サビでのコーラスワークが印象的ですが、ボーカルはどのように重ねているのですか?

Vaundy 基本的には、上のハモリと1オクターブ上のハモりです。そして、1オクターブ上のハモりは基本的にファルセットで歌っています。なぜかと言うと、1オクターブ上のハモりで必要なのはファルセットの帯域部分だけだから。地声でしっかり歌う必要はないんです。なのでファルセットかつ、自分でローカットを入れるイメージで歌っています。

——そういったファルセットやハモリを録る際、マイクとの距離もご自身でコントロールしている?

Vaundy はい。メインのボーカルを録るときは10㎝くらいマイクから距離を取りますけど、もっと近いときもあります。ハモリやファルセットを録るときは50〜60㎝で、ダブルを録るときは1m以上離れたところから歌うんです。ここでのポイントは、ミックスするときにどんな距離感、配置にしていくか……それを考えてレコーディングすることです。レコーディングにおける僕の考え方は、録音後にミックスで調整するのではなく、録りの段階でなるべく音を完成させること。つまり、理想としては、録ったテイクをミキサーに立ち上げた時点で既にミックスが完成しているというイメージを持っているんです。普通ならボーカルを2本録って、片方にダブラーやイメージャーとかのプラグインを挿して……ってやるところを、録音の段階で作ってしまうということですね。

——アンビエンスマイクを立てるということは、部屋を反響させられるだけの声量も必要になってきますよね。まさにVaundyさんならではのアプローチだと思います。

Vaundy そうですね。部屋中の空気を振動させてなんぼだと思うんです。ドラムやベースを録るときも、その部屋自体を鳴らすんです。その上で、その鳴りが一番よく録れるところにアンビエンスマイクを立てます。青葉台スタジオでも同じです。一番広い部屋で、何もデッドにしないで録るんですよ。僕は奇麗に録って、奇麗にミックスすることが正解だとは全く思わない。逆に言うと、ヘタでも空気感が伝わればかっこいいんですよ。だから、もっと録音時の空気や熱をパッケージするべき。一生懸命やっているその空気が大事なんです。本来、ミックスはそのときその場でアーティストがやっていることを、そのままみんなに伝えるために生まれたものじゃないですか。それがいつのまにか、ごまかすためのプロセスになっちゃっているように感じるんです。

——録音時におけるVaundyさんのアプローチは、ミックスしたことのある人の視点が生かされているとも思いました。

Vaundy ミックスしたことがある人じゃないとマイキングができるわけないんですよ。また自分で歌うときも、このテイクが良いって判断できないと思うんです。僕は録りの段階からNEUMANNのヘッドホンNDH 30を付けています。そうでないと、ミックス時を想定してジャッジできませんからね。今度は“森デッド”をやろうと思っているんですよ。森って広すぎて音が反射しないんです。つまりめちゃくちゃデッドな環境なんですよ。次の作品は、ぜひこの環境で音楽を作ってみたいと思っています!

NEUMANNの開放型ヘッドホン、NDH 30。Vaundyはレコーディング時からモニターとしても活用している

NEUMANNの開放型ヘッドホン、NDH 30。Vaundyはレコーディング時からモニターとしても活用している

Vaundy『replica』インタビュー【前編】〜「踊り子」DAW画面を公開!アルバム制作の手法を語る

Vaundyが『replica』を解説!

Vaundy『replica』を手掛けたエンジニア照内紀雄が語るレコーディング秘話

Release


『replica』Vaundy SDR / ソニー:VVCV 6-8(完全生産限定盤/2CD)

『replica』
Vaundy
SDR / ソニー:VVCV 6-8(完全生産限定盤/2CD)、VVCV 9-10(通常盤/2CD)

Musician:Vaundy(vo、g、ds、prog)、TK from 凛として時雨、hanna、TAIKING、生形真一、田渕ひさ子、Cory Wong(g)、マーリン・ケリー、上ちゃん、吉田一郎、有江嘉典、小杉隼太(b)、BOBO、av4ln / Kent Watari(ds)、常田俊太郎、須原杏、亀井由紀子(vln)、三品芽生、小林知弘(vla)、村岡苑子、林はるか(vc)、TAIHEI、江﨑文武(p)、安藤康平(sax)、真砂陽地(tp)、川原聖仁(tb)、武嶋聡(fl)
Producer:Vaundy
Engineer:照内紀雄、米津裕二郎、澤本哲朗、諏訪佳輔
Studio:プライベート、青葉台スタジオ、446、E-NE、SOUNDCREW、Tanta、Endhits、prime sound studio form、Studio A-tone Sound Valley、他

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