センドを使ったルーティング術&MixConsoleにおける音作りのノウハウ 〜kors kが使うCubase Pro 11【第2回】

センドを使ったルーティング術&MixConsoleにおける音作りのノウハウ 〜kors kが使うCubase Pro 11【第2回】

 kors kによるSTEINBERG Cubaseのテクニック紹介2回目です。今回はミキサーとルーティングに着目してみましょう。

サイド・チェイン・コンプなどに使えるルーティングのテクニック

 僕がよく使うルーティング・テクニックを2つ紹介しましょう。まずは定番の“サイド・チェイン・コンプ”(以下SC)です。これは外部の音をトリガーとしてコンプレッサーをかけるテクニックで、僕はキックをトリガーにしています。SCをかける際に、個々のパートごとにかかり具合を調整するとなると、そのトラックの分だけトリガーが必要になるので、MixConsoleのSENDSをうまく使ってルーティングします。まず、SCをかけたいトラックそれぞれに適切なコンプレッサーをインサートし、“Side-Chainを有効化する”をオンにしておきます。これで、SENDSの出力タブの“Side-Chains”の部分にコンプレッサーが表示されるようになりました。

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Cubaseに付属するCompressorの画面。上部赤矢印の“Side-Chainを有効化する”をオンにするとSENDSの出力タブの“Side-Chains”に(左下部の赤枠)にCompressorが表示されるようになる

 その後、トリガーのSENDSからそれぞれのコンプレッサーを選択することで、SCをかけることができるようになります。ただ、センドできるチャンネル数は1チャンネルにつき8つまでと制限があるので、僕は“トリガーのアウトを無限に増やす”という用途でグループチャンネルを使います。“プロジェクト→トラックを追加→グループチャンネル”を選択し、トリガーのハブとなるグループチャンネルを作成後、トリガーのトラックからグループチャンネルへSENDSで音を送ります。このときトリガーのトラックの音は鳴らないように出力をNo Busに設定。さらにトリガーのアウトを増やしたいときは、また新しくグループチャンネルを作成し、ROUTINGで音を送れば、いくらでも増やすことが可能です。

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画面左2つがトリガーとなるキックのチャンネル。右2つはトリガーのハブとなるグループチャンネル(左からSC1、SC2)

 続いて、再生中の音をオーディオ・トラックへレコーディングするテクニックを紹介します。MIDIデータを瞬時にオーディオ・トラックに変換する機能“インプレイスレンダリング”が登場する前のいにしえの技ではありますが、モジュレーションなどを強くかけて再生するたびに音が変わってしまう場合に、適当に録音して後からおいしい部分を編集して使ったりできるので今でも重宝するテクニックです。通常、オーディオ・トラックの入力は別のオーディオ・トラックからの出力をルーティングできないのですが、グループチャンネルからの出力はルーティング可能です。したがってまず、録音したいものが収録されているトラックと新規トラックの間を経由するグループチャンネル(以下Rec Thru)を作ります。録音したいものが収録されているトラックからSENDSでRec Thruへ送り、新規トラックの入力をRec Thruに指定して録音を開始すれば再生中の音が録音されます。Rec Thruは単なる中継地点なので、音が鳴らないように出力をNo Busにしておきましょう。

 

 ほかにもSENDSを使ったルーティングにより“グループチャンネルを2つ作ってパンを左右に振り切り、左右でエフェクトのパラメーターを変えて厚みを出す”といったエフェクティブな音作りをすることもできます。また、独立した複数トラックに同じ処理を行いたいときはQ-Linkが便利です。リンクしたいトラックを選択してQ-Linkをオンにすると、選択したトラックが一時的にリンクしてプラグインの立ち上げや挙動を連携してくれます。

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MixConsole上部に表示されるQ-Link(赤矢印)。オンにすると複数のトラックが一時的に連携し、同じ処理を同時に行うことができる

チャンネル設定のウィンドウでパートごとに音作りが完結

 MixConsoleでは、チャンネルごとにチャンネル設定のウィンドウを開くことができます。これはEQとチャンネルストリップがメインのウィンドウで、音作りや設定をチャンネルごとに完結できる仕様になっています。

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チャンネル設定ウィンドウのEQ。PREセクションと4バンドのEQ設定が可能になっている。また、赤枠部分から比較先のチャンネルを選択することで、別チャンネルの周波数分布を表示しながら編集することができる

 まずEQは、PREセクションに加え4バンドのEQ設定を行うことができます。僕は手軽で使いやすいことから、PREセクションがお気に入りです。このセクションは、ローカット・フィルター/ハイカット・フィルター/ゲイン/位相の設定機能を搭載しています。フィルターはどちらもカーブを6/12/24/36/48dBから選択できるので、まず困ることは無いでしょう。ゲインは-48~+48dBの広範囲をカバーしており、リミッターなどをインサートした後+20dBぐらい過大入力をして、音割れしないようにボリュームを調整すると太くてパツパツな音になったり、音色作りとしても効果を発揮します。また、ウィンドウ上部のボタンから選択することで、別チャンネルの周波数を表示しながら編集できるのも便利なポイントです!

 

 チャンネル・ストリップも洗練された見た目で、手軽に現代的な音処理を施すことができます。ノイズ・ゲート/コンプレッサー/EQ/ツール/サチュレーション/リミッターが搭載されており、左部ツール・バー内でチャンネル・ストリップのモジュールの順番が入れ替え可能になっています。特に、サチュレーションで倍音を付加しリミッターで音圧を稼ぐというプロセスが、チャンネル・ストリップ内で行えるのは大幅な時間のセーブになると思います。インサート・スロットでの音色作りに、さらに集中できますね。

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チャンネル設定ウィンドウのチャンネルストリップ。ノイズ・ゲートやリミッターの処理を行うことができる。画面左部でモジュールの順番が入れ替え可能

トラックをゾーンごとに管理。MixConsoleの配置テクニック

 最後に僕が普段使用しているミキサーの画面をお見せしましょう。左側にはドラム・トラック、右側にはマスター・トラック、中央にその他のトラックというように、ゾーンごとに管理することで多数あるチャンネルを把握しやすくなるように配置しています。MixConsoleのウィンドウ左上部のVisibilityタブを選択し、最下段のZoneタブを開くとチャンネル名の左側に●が3つ表示されるので、そこをクリックして3つのゾーンに分けてチャンネルを管理することができます。

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▲MixConsoleの画面。左側にドラム・トラック、右側にマスター・トラック、中央にその他のトラックがまとめられている。画面左の赤枠部分に表示されている●をクリックすることで、トラックを3つのゾーンに分けて管理できる

 Cubaseはアップデートのたびにトレンドの機能や音色が備わるので“あの曲のあの質感はこういうことだったのか!”と教えてくれることが多くあります。僕はアップデートを早め早めにして、常に最新の状態に保つようにしています。大事ですね!

 

 また、先ほど紹介したEQの“別チャンネルの周波数を表示しながら編集できる”という機能はこの記事を書きながら見付けました。こうして常に新しい機能やショートカットを偶然見付けたりするのもCubaseの楽しさですね。懐の深さが見えないぜ! 次回は制作中に便利なサポート系の機能を中心に紹介したいと思います。

 

kors k

【Profile】ダンス・ミュージックを基軸に多様なジャンルの楽曲制作を行うアーティスト/作曲家。KONAMI『beatmania IIDX』シリーズをはじめ、各種音楽ゲームへ100曲を超える楽曲を提供。1990年代サウンドが特徴のユニット、ハレトキドキがm.o.v.eのMotsuを迎えリリースするシングル『ユーロビートを止めないで/RAVE ON feat.motsu』にリミックスで参加している。

【Recent work】

『ユーロビートを止めないで/RAVE ON feat.motsu』
(HYPER POP RECORDS)

 

製品情報

 

STEINBERG Cubase Pro

オープン・プライス

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