大型リボンとアルニコ磁石を使用して復刻されたフランス製リボン・マイク「MELODIUM 42BN」レビュー

大型リボンとアルニコ磁石を使用して復刻されたフランス製リボン・マイク「MELODIUM 42BN」レビュー

 フランス、ブルターニュ地方の村にある古い寄宿学校を改装して作られたKERWAX STUDIOは1940年代までさかのぼるビンテージ機材をそろえており、技術部門では真空管ミキサーやプリアンプのレプリカも製作している。そのKERWAXが愛用しているビンテージ・リボン・マイクを新たに復刻したのがMELODIUM 42BNだ。オリジナルのMELODIUMブランドの商標を獲得し100%地元で製造される正統派レプリカである。

重量感ある2.7kgの大型筐体。つりマイクとしても使えるマウントが付属

 42BNのオリジナル、MELODIUM 42BはRCA 44シリーズを手本に1940年代後半~1960年代までフランスで製造されたリボン・マイク。国営ラジオや映画制作などで活躍した貴重な存在だ。42BN(NはNewの略)はオリジナルと同程度の大型筐体で、RCA 44BXより10mmほど大きく見えるが、厚さが30mm薄いため1kgほど軽い。一般的な3/8インチ・ネジ専用のアダプターも付属しており、普通のマイク・スタンドにそのまま接続可能。ただし重さに耐えられるしっかりしたスタンドを用意したい。筆者はこのサイズのリボン・マイクではなるべくストレート・スタンドを使うようにしている。加えて42BNにはつって使用するためのマイク・マウントが付属し、落下防止のためのワイヤーとしても使える。逆さにつらない場合でも安全のため積極的に併用したい。

f:id:rittor_snrec:20210924165100j:plain

付属のマイク・マウントを取り付けると、逆さにつったセッティングが可能。通常時でも取り付けておくことで、落下防止のためのワイヤーとして機能する

 出力インピーダンスは300Ω(オリジナルは50Ω)。XLR端子なので手持ちのオーディオI/Oに問題なく接続できるだろう。本機は電源を必要としないので、接続する際は48Vファンタム電源がオフなのを必ず確認しよう。

f:id:rittor_snrec:20210924165121j:plain

マイク本体部分の底面にXLR端子を備える

 リボン長の明記はされていないが、可動部分が6cmほどあるように見えるので、44BXより大きい可能性もあるビッグ・リボンだ。2.5μmのアルミの薄膜をつるしたシンプルな構造でわずかな吹かれにも弱い。40cm離れる場合でも必ずウインド・スクリーンを用意しよう。指向性は8の字型の双指向。マイク背面からの音声も前面同様に拾うので、マイクの後ろが壁に近付かないようにセッティングしよう。一方で側面の音はほとんど入らないので、自宅録音ではコンデンサー・マイクより環境音を拾いにくく使いやすい。ただし近接効果は大きいので距離については十分に注意が必要だ。

f:id:rittor_snrec:20210924165142j:plain

木製マイク・ケース、マイク・マウント、3/8インチ・ネジ専用アダプター、アダプター固定ネジが付属

近距離では低域の処理が必要だが、それを補って余りある存在感豊かな音色

 オーディオI/Oのマイクプリに直接接続して音色をチェック。1mの距離で歌声を録音してみると適度にブライトな高域と豊かな中域が好印象だ。オールド・スタイルのリボン・マイクは復刻版でも周波数の山なりが顕著で高域が少なめの特性を持っているのが普通だが、42BNは中でもニュートラルに近いと謳っていることが納得できるバランス。双指向性なので1mではそれなりに環境音も混ざっているが、しっかりした低域が存在して細く感じないのがリボン・マイクの長所だ。

 

 やや低域をカットしてオケと混ぜると、リバーブ無しでとてもうまくなじむ。甘くにじんだ音像は思ったよりもビンテージに近いサウンドに感じた。推測するに、アルニコ600という磁石の存在がキーではないかと思う。強い磁石を使わないことで、クリア過ぎない立ち上がりの遅さが良い味を出しているのだ。それでいて生のギターに合った高域も録れる。この特性ならビンテージよりずっと守備範囲が広いだろう。

 

 次に20~40cmに近付けてみると言葉がはっきりして通常の歌の音像になる。しかしリボンの特性に加えて近接効果による低域増加がかなり多めで邪魔になってしまった。実はオリジナルには装備しているパッシブ・フィルター(ハイパス)が42BNでは省略されているのだ。そのため60Hz辺りをピークにした低域の盛り上がりが顕著で、ローカットが必須というわけだ。44BXにも2段階のフィルターが内蔵されている。

 

 あえてフィルターを付けなかった理由は音質確保のためとのこと。低域の量をユーザー側で細かく調節できるように配慮されている。筆者のオーディオI/Oのマイク入力インピーダンスは3kΩなのでマッチングは的確だと予想されるが、それでもこの距離では中低域が多い。試しに10kΩの単体マイクプリに変えてみると中低域がすっきりとして使える音になってくれた。ただし逆にリボン・マイクらしい味わいは減ってしまうためどちらを採用するかは曲次第だろう。1.2kΩ/300Ωの単体マイクプリにも替えてみたが改善しなかった。筆者は−6dB/octのなだらかなフィルターで100Hzが−10dB以下になるぐらい思い切ってローカットすることで、オーディオI/Oのマイクプリが良いという結論になった。結果的に得られる歌声はビッグ・リボンならではの存在感を持っている。

 

 42BNを使いこなす上で課題となるのはやはり低域のカット。音源に合わせた適度な低域カットを要求されるわけだが、その代わりに有り余るメリットとなる甘い音色が存在することは強調したい。フィルターが無い分音抜けも良い。ビンテージ風のサウンドを手に入れたいなら必ずチェックしたい製品だ。

 

原口宏
【Profile】ムーンライダーズ、細野晴臣、忌野清志郎などを手掛けてきたフリーランス・エンジニア。最近作は『moonriders special live カメラ=万年筆』、細野晴臣『あめりか』のミックス/マスタリング。

 

MELODIUM 42BN

オープン・プライス

(市場予想価格:396,000円前後)

f:id:rittor_snrec:20210924164952j:plain


SPECIFICATIONS
▪形式:リボン(ベロシティ型) 
▪指向性:双指向 ▪出力インピーダンス:300Ω ▪リボン:2.5μm純アルミニウム ▪マグネット:アルニコ600 ▪感度:−50dBv(@1kHz re 1Pa) ▪外形寸法:140(W)×320(H)×50(D)mm ▪重量:2.7kg ▪付属品:木製マイク・ケース、マイク・マウント、3/8インチ・ネジ専用アダプター、アダプター固定ネジ

製品情報

関連記事

www.snrec.jp