ボーカル処理をまとめて行えるCubase Pro 13の新プラグイン“VocalChain”|解説:JUVENILE

ボーカル処理をまとめて行えるCubase Pro 13の新プラグイン“VocalChain”|解説:JUVENILE

 初めまして。音楽プロデューサー/アーティストのJUVENILEです。サンレコのこちらのコーナーは、僕がsteinberg Cubaseを使い始めた頃からずっと読んで勉強させてもらっていたので、こうして記事を執筆する側になれたことがなんだか感慨深いです。2023年11月にリリースされたばかりのCubase 13に搭載された新機能を軸に、便利な使い方をご紹介できたらと思います。第1回は、ボーカルミックスがはかどる方法をご紹介します。

ボーカルミックスを完結できる“VocalChain”

 特にボカロ楽曲の“歌ってみた”や、ヒップホップアーティストの間で一般的かと思いますが、“2ミックスのオケと自分で録ったボーカルを合わせてミックスする”というようなケースが、昨今とても増えたのではないでしょうか。ボーカルのミックスは、ミックスダウン全体の中において要と言ってよいほど大事な作業で、プロのエンジニアの方をもってしても、奥の深いものだと思います。

 Cubase 13では、ボーカルミックスをスムーズに行う便利な機能が新搭載されました。中でも代表的なものがVocalChainです。

Cubase 13から追加された、歌声の処理に特化したプラグインVocalChain(Pro/Artistに付属)

Cubase 13から追加された、歌声の処理に特化したプラグインVocalChain(Pro/Artistに付属)。使用するエフェクト全体を見渡せるOVERVIEWセクション、ボーカル素材の下ごしらえ的処理をこなすCLEANセクション、積極的な音作りを可能にするCHARACTERセクション、リバーブなどをつかさどるSENDセクションから成り、ボーカルミックスの際によく使われるさまざまなモジュールが用意されている

 ボーカル処理に使うエフェクトがほぼ網羅されたチャンネルストリップ・プラグインで、ボーカルトラックにインサートして使いたいエフェクトを選択して操作していけば、これ一つでボーカルの処理を終えることも可能なとても便利なプラグインです。

 使用するエフェクト全体を見渡せるOVERVIEWセクション、ボーカル素材の下ごしらえ的処理をこなすCLEANセクション、積極的な音作りを可能にするCHARACTERセクション、そしてリバーブなどをつかさどるSENDセクションに分かれています。セクション内のエフェクトチェインは、自由に順番を入れ替えることが可能です。

新搭載されたPultec系EQ & ワンノブ・コンプ

 それではVocalChainについて、CLEANセクションから順に見ていきましょう。このセクションにはデフォルトの状態でCUT FILTER、GATE、PITCH、DE-ESSER I、DYN FILTER Ⅰ、COMPRESSOR Ⅰ、EQ Ⅰの順にエフェクトが並んでいます。この並びも絶対的なものではないので自由に順序を入れ替えられますし、それぞれオン/オフが可能ですが、デフォルトの状態のこの並びも、よく考えられたものだなと個人的には思います。

 プリセットから“Dry Pop Vocal”を選択してみると、非常によくできたセッティングが組まれていることが分かりました。CLEANセクションでは決して元の音から大きく変化するようなパラメーターの設定がされていないのが良いですね。

 続いてCHARACTERセクションでは、再びEQやコンプなどを使うことができます。EQやコンプの種類は選ぶことが可能です。先ほどのプリセット“Dry Pop Vocal”では、CLEANセクションでEQ I、CHARACTERセクションでEQ Ⅱとなっていて、それぞれ使われているEQが異なります。EQ Ⅱには、Cubase 13に新たに搭載されたEQ-M5がインサートされています。これは中域にフォーカスした仕様のPultec系EQで、2つのBOOSTと1つのATTEN(カット)を備えています。Q幅を自分で設定することはできないのですが、比較的広めに設定されているので、ブースト、カットどちらも自然なかかり方が特徴です。

VocalChainのプリセット“Dry Pop Vocal”で、CHARACTERセクションのEQ Ⅱに使用されているEQ、EQ-M5(画面はVocal Chainの中のものではなく、個別のプラグインのもの)。Cubase 13で新たに追加されたプラグインの一つだ(Proのみに付属)。2つのBOOSTと1つのATTEN(カット)を備える

VocalChainのプリセット“Dry Pop Vocal”で、CHARACTERセクションのEQ Ⅱに使用されているEQ、EQ-M5(画面はVocal Chainの中のものではなく、個別のプラグインのもの)。Cubase 13で新たに追加されたプラグインの一つだ(Proのみに付属)。2つのBOOSTと1つのATTEN(カット)を備える

 またCOMPRESSOR Ⅱには、Vox Compというプラグインがインサートされていて、こちらもCubase 13で新たに追加されたもの。

Cubase 13で新たに搭載されたコンプレッサーVox Comp。VocalChainのプリセット“Dry Pop Vocal”で、CHARACTERセクションのCOMPRESSOR Ⅱに使用されている。THRESHOLDノブを回すだけで最適なコンプレッションをかけてくれる

Cubase 13で新たに搭載されたコンプレッサーVox Comp。VocalChainのプリセット“Dry Pop Vocal”で、CHARACTERセクションのCOMPRESSOR Ⅱに使用されている。THRESHOLDノブを回すだけで最適なコンプレッションをかけてくれる

 ワンノブタイプのコンプレッサーで、THRESHOLDを動かすだけでボーカルに最適なコンプがかかってくれるとても便利なプラグインです。僕は、細かい設定よりも結果が良ければそれでいいと思うタイプの人間なので、個人的にこういったワンノブの時短プラグインが大好きで、追加されたことがとてもうれしいです。そして、これらのプラグインがVocal Chainに内部エフェクトとして用意されているのはとても便利ですし、驚きですよね。

モノラル/ステレオを瞬時に切り替え可能

 最後はSENDセクションです。こちらにはIMAGER、DELAY、REVERBの3つが用意されており、空間系の処理を担当しています。

 ここで、空間系の処理にも関係する、Cubase 13からとても便利になったアップデートの一つとして、オーディオトラックのモノラル/ステレオを簡単に切り替えられるようになったこともご紹介しておきたいと思います。

 Cubaseでは、モノラルトラックは丸1つ、ステレオトラックは丸2つが重なった“∞”のようなマークが表示されるのですが、Cubase 13では、このマークをクリックすることで、簡単に両者を切り替えることができるようになりました。

Cubase 13では、赤枠のマークをクリックすれば、瞬時にトラックをモノラル/ステレオに切り替えられるようになった(画面はステレオの状態)

Cubase 13では、赤枠のマークをクリックすれば、瞬時にトラックをモノラル/ステレオに切り替えられるようになった(画面はステレオの状態)

 以前はモノラルトラックで処理を進めた後、まさに今から行いたい“インサートでリバーブをかける”“ピンポンディレイをかける”といったようなときに、モノラルトラックのままだと当然ですが左右の広がりを表現できないので、別途ステレオトラックを立ち上げてそちらに素材をコピーするといった一手間が必要でした。これが不要になったのは、大変便利です。通常ボーカルを録るとなればモノラルトラックを使うことが多いと思いますので、ステレオトラックでないと効果が発揮できないエフェクトを立ち上げる際は、こちらを活用して切り替えをしてもらえると、とてもよいと思います。今回“Dry Pop Vocal”のプリセットでは空間系のエフェクトはオフになっていましたが、自分の好みでリバーブを追加してみました。

VocalChainのリバーブの設定画面。赤枠内のリバーブディスプレイには、“PRE-DELAY”パラメーターと“Time”パラメーターの効果が視覚的に表示される

VocalChainのリバーブの設定画面。赤枠内のリバーブディスプレイには、“PRE-DELAY”パラメーターと“Time”パラメーターの効果が視覚的に表示される

 以上のように、新機能VocalChainでは、さまざまなボーカル処理に必要なプラグインが内蔵エフェクトとして取り込まれているという形になっています。これ一つでボーカル処理を終わらせられるくらい追い込むことが可能な、とても便利なプラグインです。

 今回はVocalChain一つ紹介するだけで、内蔵するEQやコンプレッサー、リバーブを並行してご紹介することができました。興味がある方は一つ一つのプラグインも、ご自身で細かく見てみてほしいと思います。

 

JUVENILE
【Profile】独自のCity musicを発信するアーティスト/音楽プロデューサー/トークボックスプレイヤー。2020年より“愛”をテーマにアルバム『INTERWEAVE』プロジェクトを始動。2023年11月29日に日中韓のアーティストをフィーチャリングした第3弾『INTERWEAVE 03』を配信。RADIO FISH「PERFECT HUMAN」の作編曲、舞台『ヒプノシスマイク』の楽曲を担当、活動の方面は多岐にわたる。トークボックスプレイヤーとしても『INTERMISSION』をリリース、精力的に活動している。映画『バックトゥザフューチャー』をこよなく愛す。

【Recent work】

『INTERWEAVE 03』
JUVENILE

 

 

 

steinberg Cubase

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LINE UP
Cubase LE(対象製品にシリアル付属)|Cubase AI(対象製品にシリアル付属)|Cubase Elements 13:13,200円前後|Cubase Artist 13:39,600円前後|Cubase Pro 13:69,300円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 11以降
▪Windows:Windows 10 Ver.21H2以降(64ビット)
▪共通:Intel Core i5以上またはAMDのマルチコアプロセッサーやApple Silicon、8GBのRAM、1,440×900以上のディスプレイ解像度(1,920×1,080を推奨)、インターネット接続環境(インストール時)

製品情報

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