Solid State Logic(以下SSL)から単体ラック型マイクプリアンプとしては久しぶりの新製品、PURE DRIVE QUAD(以下QUAD)とPURE DRIVE OCTO(オープン・プライス/市場予想価格349,800円前後)が発表されました。ポジション/価格帯的に同社のAlpha VHD-Preの後継機とも言えそうな本機は、注目している方々も多いのではないでしょうか? 今回レビューするのはQUAD。4chの32ビットADコンバーター内蔵マイクプリアンプに盛りだくさんの機能を備えているようです。早速チェックしていきましょう。
SSLが誇るSuperAnalogue回路を搭載 入力インピーダンスは4段階で選択可能
昨今のSSL製品に見られるダークグレーの外観。フロントパネル左端にはDIインプットが縦に4つ並び、その横に等間隔でマイクプリセクションが4ch分並んでいます。右端にはスタンバイボタンやサンプリング周波数、クロックソース切り替えとADコンバーターに関するセクションがあります。一番右のメーターでは各チャンネルのレベル表示やサンプリングレートとクロックソースの設定が確認できます。
プリアンプセクションは赤いつまみがゲインとなっており、同社のORIGINに搭載されたSuperAnalogue回路を使用。ゲイン幅は+5〜+65dBの6dBステップ式です。また、外部機材を挟みたいときのセンド&リターンのオン/オフスイッチにもなっています。黒色の出力トリムは±15dB、1dB単位でコントロール可能。こちらは、位相切り替えスイッチ兼用です。グレーのつまみはハイパスフィルター。左振り切りでオフとなります。各つまみがステップ式なのでリコールも容易、現代的です。下部のボタンは、左から48Vファンタム電源オン/オフ、マイク/ライン切り替え、4種の入力インピーダンス切り替え、DRIVEモードのオン/オフ(赤い点滅でクリップインジケーターとしても動作)となっています。
まず、生ドラムでマイクプリを試してみました。ファーストインプレッションはサラッと奇麗な質感。SN比も良好です。空気感より、楽器の実音そのものが前にくる印象。“太い”とか“透明”といった質感というより“そこにいる感じ”を演出することに優れているので、キック/スネアそれぞれのエッジがはっきり聴こえます。ロック/ポップス向きな印象で、音数が多い楽曲でも埋もれず、かつ収まりの良い結果が得られそうだなと思いました。DI入力もクリーン、申し分のない音色です。
次に、DRIVEモードをチェック。素のCleanモードに加え、同社のORIGINと同等のClassic Drive(主に奇数倍音を付加)と、新規開発のAsymmetric Drive(主に偶数倍音を付加)の3種類があります。Classic Drive(黄色に点灯)は、音の厚み/ハイハットの抜け感が増し、スネアのトランジェントピークが抑制できました。ベースにも相性が良く、低域のエネルギーをうまく補助してくれました。DRIVE回路にはスレッショルドはなく、入力レベルに応じて効果が増減するので、トリムが±15dBの範囲で調整できるのは音作りの幅が広がって良いですね。俗に、“頭でつぶす”と呼ばれるオールドスクールテクニック=“わざと過大入力させてトランジェントピークをなだらかにする”を試してみてください。Asymmetric Drive(ボタンを長押しして緑色に点灯)は、より効果が分かりやすくエッジーで明るいサウンドに。さらに入力を上げると、スネアの響きが強調され元気な音になりました。
USBオーディオI/O機能では高域の空気感をキャッチできる
続いてアコギ。こちらも好印象で、オケの中で一歩前に出したいときや、高い弦の響きを強調したいときなどにお勧めです。自分の頭の中での倍音構成、奇数/偶数倍音の印象と若干ズレがありましたが、単純にブーストするだけでなく実用的に考えられた回路なのでしょう。DRIVEモードは、ほんのりとした味付けから大胆に演出することまで可能で、このマイクプリの特色と言えるとても実用性の高い機能です。また、DRIVEはライン入力にも効果を発揮するので、ミックス時の色づけ、ディストーション的なエフェクトとして(ドラムバスにパラレル処理なんて良さそう)重宝すると思います。
4段階の入力インピーダンス切り替えは、レンジ感(主に高域特性)が変わって聴こえ、リボンマイクやビンテージマイクを使用する際以外でもEQのような感覚で使用できます。デフォルトの緑(12kΩ)が一番ワイドレンジでフレッシュでした。もろもろ、ノーマルでは素直で扱いやすい音の反面、ほんの少し物足りなさを感じるかもしれませんが、DRIVEモードや、インピーダンスの切り替えで攻めた音作りも可能です。むしろ、そちらに向いているかと思います。
さて、デジタルセクションを見ていきましょう。まずは、スペック面。AES/EBUやADATの豊富なデジタル出力、そして、32ビット/192kHzまで対応するUSBオーディオインターフェース機能を搭載。早速、Apple MacBook ProにUSBで接続し、録音したアコギを聴いてびっくり。高域の空気感が素晴らしいです。4chあればピアノの弾き語りなどにもよくマッチしそうですね。最近のデスクトップ型オーディオインターフェースにはADAT入力が付いたものも多いので、インプット数増設にもお勧め。1つ注意が必要なことがあるとすれば、QUADはDAコンバーターを搭載していません。DAWによって入力/出力エンジンの切り替えができればよいのですが、筆者が使っているAvid Pro Toolsでは、モニターするためにAux I/O機能を使ったりと設定が少し複雑になります。思い切った割り切りっぷりですが、本機をマイクプリだとすれば理にかなっていますね。
ライン入力でDRIVEを利用してエフェクターのように用いたり、またはADコンバーターとして使用したりなど、シチュエーションによって多彩なキャラクターに変化するQUAD。豊富な出力フォーマットは汎用性が高く、スタジオはもちろん、プライベート環境やリハーサルスタジオに持ち出したりと、さまざまな場所でハイクオリティなレコーディングが可能になるでしょう。そして、この価格は本当に驚きです。ぜひチェックしてみてください。
星野誠
【Profile】ビクタースタジオを経てフリーで活動するエンジニア。クラムボンの曲を多数手掛けたことで知られ、近年はsumika[camp session]、Cody・Lee(李)、MIMiNARIなどのアーティストに携わる。
Solid State Logic PURE DRIVE QUAD
オープン・プライス
(市場予想価格:198,000円前後)
SPECIFICATIONS
▪入力インピーダンス:12kΩ、1.2kΩ、600Ω、400Ω ▪DRIVE:Clean(白)/Classic Drive(黄)/Asymmetric Drive(緑) ▪周波数特性:20Hz〜20kHz(±0.2dB) ▪全高調波ひずみ率:−92dB/0.0025%(マイク入力)、−89.6dB/0.0033%(ライン入力) ▪ノイズ・フロア:−97.3dBu以下(マイク入力)、−89.7dBu以下(ライン入力) ▪最大入力レベル@1kHz:21.5dBu(マイク入力/最小ゲイン)、26.5dBu(ライン入力/最小ゲイン) ▪外形寸法:482.6(W)×88.1(H)×338.4(D)mm(突起物含む) ▪重量:5.9kg