ビーム・ステアリング機能で均一に音を伝達
児玉九十記念講堂は、明星中学校・高等学校の前身である明星実務学校の校長を務めた児玉九十先生の生誕120周年、そして同校の創立85周年を記念して2008年に竣工された。1階と2階を合わせて約1,200席を擁し、入学式や卒業式をはじめとした学校行事や学校説明会、部活動の練習や発表などに使用されている。設立から10年以上が経過し、スピーカーを中心とした音響設備に老朽化が見られたことが改修の主たる要因だという。その中でも最も大きなテーマだったのが音の明りょう度の向上だったと東和エンジニアリングの水元将太氏は語る。
「児玉九十記念講堂ではダンス部の練習や発表会などで音楽を流すこともありますが、基本的にはマイクを通したスピーチがメインです。しかし、以前のスピーカーの場合、経年劣化も相まって場所によっては声が聴こえにくく、学校説明会に参加された方のアンケートでそういったご指摘をいただいたこともあったと伺っています。そのため、どこまではっきりと音が届くかという部分に重点を置きながらスピーカーの選定を進めました」
そのような状況の中でたどり着いたのがBOSEのパワード・ラインアレイ・スピーカー、Panaray MSA12X。106(W)×984(H)×206(D)mmのスリムな筐体ながら、2.25インチ・フルレンジ・ドライバー12基とそれを個別に駆動する12chの50W出力アンプを備えたモデルだ。児玉九十記念講堂には、片側につき3台スタックで設置されている。水元氏は、そもそもBOSEのスピーカーにするメリットがあったと言う。
「BOSEの場合、音がどのくらい均一に客席に届くかという音圧分布シミュレーションをはじめとした各種資料をModelerというソフトで作成していただけます。学校側へ分かりやすく説得力のある資料を提示できました。Modelerを参考にしながら、実機を用いたテストを行い、学校の職員の方々にここまで音が届くのであれば十分だとご了承いただいた上で、スピーカーの台数や構成を決めていったんです」
Panaray MSA12XはDSPを搭載しており、デジタル制御で垂直方向の指向性をコントロール(ビーム・ステアリング)できることが特徴の一つだ。この機能がPanaray MSA12Xを採用した決め手だと水元氏は続ける。
「ビーム・ステアリング機能が搭載されているからこそ、学校側に自信を持ってPanaray MSA12Xを薦めることができたと言っても過言ではありません。普通のラインアレイ・スピーカーは筐体の高さで音が直進するため、2階席の高さまでカバーするためには多くのユニットを必要とします。しかし、 Panaray MSA12Xの場合、デュアル・ビームが出せるので、片側3台だけで1階席と2階席に均一に音を届けることができているんです」
先述の通り、Panaray MSA12Xはパワードかつ非常にコンパクトな設計となっている。それに加え、Danteネットワークに対応しているのもトピック。簡潔なシステム構築ができる上、主張し過ぎない見た目であるというのも重要な要素だったと水元氏は語る。
「以前のシステムの場合、ステージ上のメイン・スピーカーのほかに、サイドとプロセニアムにもスピーカーがある大掛かりなセットだったんです。改修にあたり、使いやすさとメインテナンスの簡易さを考慮して、いかにシンプルにするかということが課題でした。何台ものスピーカーを多数のアナログ・ケーブルで結線するのは施工時に大変なだけでなく、運用していく中でもトラブルが起こるリスクが高まりますよね。また、客席の正面に設置するものなので、ステージを見る際に邪魔にならないかという面も配慮しました。総合的に考えてPanaray MSA12Xが最適解だったんです」
自然な響きを実現するEdgeMax EM180
今回の改修にあたり、Panaray MSA12Xに加え2階席にはシーリング・スピーカーのEdgeMax EM180が4台設置された。3台スタッキングした際の伝達距離やビーム・ステアリング機能から考えて、当初はステージ上のPanaray MSA12Xだけで2階席もカバーする予定だったそうだが、児玉九十記念講堂の構造上、どうしてもシーリング・スピーカーを取り付ける必要が出てきたと水元氏は言う。
「2階席の最前列にはガラスのパーテーションが取り付けられており、それによってPanaray MSA12Xからの音が遮られてしまったんです。そこでシーリング・スピーカーが必要になったのですが、その際にもModelerがあったので、学校側に安心感を持っていただける資料を提示できたと思います」
EdgeMaxシリーズは、シーリングでありながら露出型スピーカーのカバレージ・パターンを実現。その中でもEM180は1.3インチ径コンプレッション・ドライバーと8インチ径ウーファーを搭載し、BOSE独自のフェーズガイド・テクノロジーにより、垂直方向に非対称75°、水平に180°のカバレージ・パターンで音を放射できる。この指向パターンにより、自然かつ少ない台数で2階席に音が届けられたと水元氏は語る。
「通常のシーリング・スピーカーの場合、客席の真上から円すい状に音が出るのですが、EdgeMax EM180は75°の指向角により客席前方から音が来ているように感じられるんです。以前は一般的なシーリング・スピーカーが2列分入っていたのですが、EdgeMax EM180はカバー・エリアが広いため1列分の4台だけで済み、コストも削減できました」
こうして刷新された児玉九十記念講堂の音響設備。改修後すぐに学校説明会があり、司会をプロのアナウンサーに依頼したところ、明りょう度はもちろんオフマイク時の声の通りの良さなどの点においても素晴らしいと絶賛されたとのこと。同じく登壇してスピーチした教員からもこれほど話しやすい環境は久々だと好評だったという。明星高等学校で音楽を教え、吹奏楽部の顧問を務める岩﨑このみ教諭も、音質の向上を強く実感しているそうだ。
「以前よりも音がクリアになり、声が格段に聴きやすくなったように感じます。2階席の聴こえ方も大きく改善されました」
さらに今後、卒業式や吹奏楽部の発表会などさまざまな行事が控えているとのことだが、その際にも新しいシステムは信頼できると岩﨑教諭は続ける。
「以前、卒業式の退場時に音楽を流そうとしたところ、スピーカーのトラブルで音が鳴らないということがあり、急きょ私が生でピアノを演奏しましたが、今後はそういった問題は発生しないだろうという安心感があります。また、毎年3月に吹奏楽部が映像と同期したコンサートを行うのですが、そこで音響の面からも何かできるのではないかと思うので、可能性を探っていきたいですね」
●Panaray MSA12Xの問合せ:ボーズ プロシステム事業部
電話:03-5114-2750 https://probose.jp/
※サウンド&レコーディング・マガジン2020年4月号より転載