
コンサートPAの世界において指向性コントロールの重要性が語られるようになって久しい。垂直方向のみならず、ラインアレイでは不可能な水平方向へのコントロールを可能にした全く新しいアレイ・スピーカー、BOSE RoomMatchが、去る2015年11月に横浜・赤レンガ倉庫ホールで行われた舞台『怪獣の教え』にも導入された。ここではPAエンジニアzAk氏の言葉を元に、導入の経緯と成果をレポートしていく。
水平&垂直指向性を完ぺきにコントロール
『怪獣の教え』は、中村達也(ds)、ヤマジカズヒデ(g)、青木ケイタ(sax、fl)によるTWIN TAILの生演奏が加わる演劇作品。従って通常のバンドPAに準ずる音圧がPAシステムに求められる。zAk氏は、この公演でのメイン・スピーカーにRoomMatchを選択した経緯をこう話す。
「最近のBOSEの音はいいんじゃないかと思っていて。僕はBOSEのヘッドフォンQuietComfortを、PAではL1 Compactを買って使っていました。L1 Compactは僕が出そうとしている音に合っている……うるさくなくて、扱いやすいし、セリフもよく聴こえるし。違う現場でRoomMatchと同じドライバーを使ったRMUを使う機会があって、それも良かったので、今度はRoomMatchを使いたいと思い、規模的にも合う今回の公演で初めて使用してみました」
RoomMatchの最大の特徴は、会場の規模や形状に合わせて指向性の異なるモジュールを選択し、アレイを組むことで、水平/垂直の指向性を完ぺきにコントロールできる点。一般的にラインアレイ・スピーカーは、同じ指向性を持つモジュールをアレイするため、音の遠達性が得られる一方、水平指向性は制御されない。これが屋内空間において、特に空間後方で、過度の残響を生み音質を損ねるが、RoomMatchでは空間形状に合わせ異なる指向性のモジュールでアレイを組むことにより、水平/垂直の理想的なカバレージを実現し、空間に左右されない最適な音質を届けることが可能だ。BOSEではこれをProgressive Directivity Arrayと呼んでいる。
「指向角は事前に計算して、その通りに吊り上げました。アウトプットでシステムEQを通していますが、わずかにローカットを入れただけで、ほとんどEQはしていませんね。すごく使いやすいと思います。もっと多くの本数で音圧を上げた状態でも使ってみたいですが、会場の制限もあるので、今回はこの形になりました」
実際の公演ではもっと多い本数のスピーカーが鳴っているかのような十分な音圧でバンド・サウンドが聴こえたが、その中でも驚くほどはっきりとセリフが聴き取れ、音場が正確にコントロールされていることがうかがえる。



制御された音場へ意図した残響音をプラス
メインとしてのRoomMatchを補うスピーカーとして、L1 CompactやRMU208なども用意された。これらはRoomMatchで指向性をコントロールした分、意図的に残響感を表現するために置かれたという。
「RMU208はサイドフィル的に使っているもので、俳優陣がバンドの演奏や声をモニターできるように置いたものですが、残響音的な役割もあります。客席後方に向けたL1 Compactでは広がって聴こえるための音を出しているんです。前からだけでなく、立体的な音のPAをしたいので」
そうしたzAk氏の意図通り、客席全体が包み込まれるような音場が生まれ、BOSEスピーカーがそうした音響演出に大きく寄与した公演となった。もちろん、メインとなったRoomMatchが、完ぺきにコントロールされた音場を提供してくれたことが、その下地にあることは間違いないだろう。





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[メーカーサイト]
RoomMatch
※サウンド&レコーディング・マガジン2016年2月号より転載