松隈ケンタが使う Studio One 第4回

スクリーンショット 2015-10-19 18.05.34

第4回
Studio Oneを使った
ボーカル・レコーディングについて

こんにちは、SCRAMBLES松隈ケンタです! 早いものでこの連載も今月で最終回。連載させていただくことによって、業界関係者やファンの方など、いろいろな方面から“読んだよ”“勉強になりました”と言っていただける機会がたくさんあり、本当にうれしい限りです! さて、今回のテーマはボーカル録音について。僕がプロデュースしている、新生クソアイドル“BiSH”のメンバーにも登場してもらい、実際に普段行っている作業の模様を紹介しますので最後まで楽しんでください!

◀アイナ・ジ・エンド、モモコグミカンパニー、ハグ・ミィ、セントチヒロ・チッチ、リンリン、ハシヤスメ・アツコの6人からなるアイドル・グループ=BiSH。自らを“新生クソアイドル”と呼ぶ。写真は無口担当のリンリン ▲アイナ・ジ・エンド、モモコグミカンパニー、ハグ・ミィ、セントチヒロ・チッチ、リンリン、ハシヤスメ・アツコの6人からなるアイドル・グループ=BiSH。自らを“新生クソアイドル”と呼ぶ。写真は無口担当のリンリン

Studio OneとC-800Gは
相性が抜群に良い

僕のスタジオで一番が愛用しているマイクはSONY C-800G。高音がきらびやかでありながらも中低域にガッツがあり、細くならないので女性ボーカルに最高です。

▲SONY C-800Gを使用してレコーディングを行う、セントチヒロ・チッチ ▲SONY C-800Gを使用してレコーディングを行う、セントチヒロ・チッチ

有名アーティストの愛用者も多い、定番マイクですね。ただし僕の場合、有名なマイクだから使っているわけではありません。マイク自体のレンジの広さを、解像度の高いStudio One(以降S1)で録音することにより細部までモニタリングができ、いろいろ試した中でも相性が抜群なのです。僕は音質より先に、細かい息遣いや、感情、リズムの乗せ方に人一倍こだわるタイプなので、このC-800GとS1の組み合わせはボーカル・ディレクションを高度なレベルで進めてくれます。色付けやブランド感によって“いい音”に聴こえる機材よりも、“アーティストの出す本当の音”を拾うことができる機材が好きなんです!

マイクプリですが、こちらもボーカルの声質や声量、体調、楽曲のアレンジなどに合わせて合うものを選んで決定します。コンプはEMPIRICAL LABS EL-8 Distressorを使用します。細かい設定ができ、効きも派手で、ロックな曲にバッチリです。プラグインでは再現できない、太さ、温かさが出ますので、通すだけでゴキゲンです。

ボーカルの録音作業中、リハーサル・マーク[A]の半分からテイクバックしたいとか、[2B]の最初から録り直したいと思うことがあります。そのときに“えーとBメロは40小節目から始まって……”と、歌い手やオペレーターに説明するのは非常に手間です。そのため、うちのスタジオでは“カーソルキー”の←→でマーカー移動をできるようにショートカットを設定。あらかじめ各セクションの初めと、真ん中の位置にマーカーを打ち込んでおけば矢印を押すだけで移動が楽で、一秒でも時間を短縮できます。レコーディングにはテンポ感が非常に大切です。

▲メニュー<環境設定<キーボードショートカットから、自由にショートカットを設定できる。ここでは、前後へのマーカー移動を、左右の矢印で可能にして、時間短縮を図っている ▲メニュー<環境設定<キーボードショートカットから、自由にショートカットを設定できる。ここでは、前後へのマーカー移動を、左右の矢印で可能にして、時間短縮を図っている

歌が録れたらエディット作業です。通常の楽器と違い、歌は生身なので、歌うたびに表情や声質、テンションが変わっていきます。僕のプロデュースの場合、一つのメロディに対して最低でも10トラック以上に。先月号でも解説したとおり、コンピングが非常にやりやすいので、すべてのテイクを徹底的に聴き直し、時には一文字単位でつなぎ合わせ、歌い手が出してくれた最高の1本を作り上げます。地味でとても時間のかかる作業ですが(しかも評価されにくい)、僕はこここそが音楽プロデュースの核だと思っています。テイクを選ぶ人間によって最終的な出来が大きく変わり、冗談抜きで、ブレス一つで楽曲が輝きを放つこともあるのです!

またS1は、CELEMONY Melodyne Essentialを属(Professionalのみ)。ピッチ/リズム補正に関してもシンプルで素早く作業ができます。ほかのDAWではできないスピードでのエディットが可能ですので、僕が主宰するスクールでも歌だけはS1を使うのですが、ほかのDAW使う生徒さんも仕上がりの差に驚いております。

▲Studio One 3 Professionalに付属するCELEMONY Melodyne Essential。CELEMONYと共同開発されたARAテクノロジーにより、完全統合を実現している。起動も、波形を選択してCommand+M(WinはControl+M)で可能。ストレスなくMelodyneでの作業を行うことができる ▲Studio One 3 Professionalに付属するCELEMONY Melodyne Essential。CELEMONYと共同開発されたARAテクノロジーにより、完全統合を実現している。起動も、波形を選択してCommand+M(WinはControl+M)で可能。ストレスなくMelodyneでの作業を行うことができる

ミックスに迷ったときは
目指す音像のリファレンス楽曲を用意

最後に少しだけミックスについて。ミックスはとても奥が深いので、一つだけコツを! 自分なりにミックスしたものが、ほかの作品と比べて、貧弱だったり、ローが強過ぎたり、歌がでか過ぎたり……と悩むことがあると思います。いわゆるプロっぽくない音と言われるものですね。原因は、自分の音楽感覚だけを頼りに、“スネアはこんな音”“リバーブはこのくらい!”“このプラグイン買ったから使ってみよー”と言う感じで進めているからだと思います。料理に例えると、自分の好きな食材を好きなように感覚で混ぜ込んで、焼いたり煮たりして、ハンバーグなのかコロッケなのかよく分からない謎の料理が出来上がっているのと同じこと。料理も、音楽も、まず“何を作りたいのか!”決めて、そのお手本となるものと比べて、研究、そこに近付けていくという作業が大事です。そこで僕の場合は必ず、目指す音像のイメージに近いリファレンス楽曲を探してきて、セッション内に立ち上げます。

▲ミックスをする際にオススメは、目指す音像のイメージに近いリファレンス楽曲をインポートして、聴き比べながらやること。画面では紫がリファレンス楽曲となり、緑と黄色がギター、赤がボーカルのフォルダー・トラック、青がドラム、ベースのリズムのフォルダー・トラックとなっている ▲ミックスをする際にオススメは、目指す音像のイメージに近いリファレンス楽曲をインポートして、聴き比べながらやること。画面では紫がリファレンス楽曲となり、緑と黄色がギター、赤がボーカルのフォルダー・トラック、青がドラム、ベースのリズムのフォルダー・トラックとなっている

場合にもよりますが、高いクオリティの洋楽がほとんど。それをよく聴いて、各楽器の音色、音量やパンのバランスを自分の楽曲と比べながら丁寧にミックスを進めていきます。そうすることによって、プロの音質とかけ離れたバランスになりにくいですし、目的の音に近付けるための機材のチョイス、いいバランスの発見など、すごくミックスが楽しくなります!

▲筆者が信頼するスクランブル・スタジオの専属エンジニア、沖悠央。スクランブルズの手掛ける作品のほぼすべてのレコーディングとミックスを担当する。常識にとらわれず、常に新たなサウンドを追求している ▲筆者が信頼するスクランブル・スタジオの専属エンジニア、沖悠央。スクランブルズの手掛ける作品のほぼすべてのレコーディングとミックスを担当する。常識にとらわれず、常に新たなサウンドを追求している

必要最小限の機材でも十分いいクオリティが出せるはずです! ぜひ試してみてください。

全4回でお送りしましたがいかがだったでしょうか。僕の担当は今回までですが、S1や楽曲制作について、もっと詳しく知りたい!と言う方は、僕の音楽スクールもぜひのぞいてみてください! 音楽制作はとても奥が深く、正解がないもの。僕らスクランブルズも、日々研究と失敗を繰り返しながら、先輩方の方法論をたくさん勉強して、自分たちのサウンドを追求し続けています。僕らの見つけたアイディアが、少しでも皆さんのヒントになればいいなと思いながら執筆させていただきました。いつの日か、皆さんの作った音楽を聴かせていただくことがあればうれしいです! またどこかでお会いましょう、ROCK!!

*Studio One 3の詳細は→http://www.mi7.co.jp/products/presonus/studioone/