開発者&ユーザーが語るBOSE F1 Systems

2015年8月のリリース以来、世界中で話題を呼んでいるBOSEのパワード・ポータブル・スピーカー・システムF1 Systems。会場や客席の形に合わせて4パターンの指向特性切り替えが可能な“フレキシブル・アレイ”が特徴だ。ここではそのF1 Systemsを開発した米BOSEプロ・オーディオ部門の総責任者と、発売と同時にこのシステムを導入したPAエンジニアのインタビューにより、そのメリットを明らかにしていく。

開発責任者インタビュー:持丸聡
空間の形状に性能が左右されないスピーカーを目指しました

米BOSE本社でプロ・オーディオ部門のゼネラル・マネージャーである持丸聡氏。L1 SystemsやRoomMatchといった既存の製品に加え、このF1 Systems(以下、F1)にも部門の総責任者として開発に携わってきた。Inter BEE 2015に合わせて来日した氏に、F1の開発コンセプトや製品化でのポイントを聞いてみた。

Akira Mochimaru:General Manager, Bose Corporation, Professional Systems Division。工学博士。日本にて東京ドームなどの音響設備設計に従事した後、渡米。スピーカー・メーカー勤務を経て、米BOSE本社にResearch Engineerとして入社。2006年より現職に就任し、プロ・オーディオ部門を率いるAkira Mochimaru:General Manager, Bose Corporation, Professional Systems Division。工学博士。日本にて東京ドームなどの音響設備設計に従事した後、渡米。スピーカー・メーカー勤務を経て、米BOSE本社にResearch Engineerとして入社。2006年より現職に就任し、プロ・オーディオ部門を率いる

F1用に軽量ユニットを新開発

●持丸さんが開発において重視している点は?
◯私は音響設計/施工がバックグラウンドにあり、スピーカーが実際の現場で本領が発揮できるということを大事にしています。従来のラインアレイでは、実際の室内空間の中で本来の性能が発揮できない部分があるので、それを解決するために作ったのがRoomMatchです。F1も同様で、単純に音が広がると空間の形状に左右されてしまうので、フルレンジのF1 Model 812の垂直指向性を空間に応じて変えられるようにしました。

●コンパクトな点もF1のポイントですね。
◯可搬性も重視しました。アメリカではバンドが楽器とPA機器を普通自動車に積んでツアーを回ることが多いですが、18インチ・ウーファーは普通車のトランクに入りません。しかも一人で運べない。そこを解決しようというのが狙いの一つです。そのほか設置の容易さ……スタンドがウーファー本体に収納できて、ケーブルが背面に隠れる、というのもありますが、これは先の指向性や可搬性と比べると、一段下のポイントかもしれませんね(笑)。

●小型軽量化を実現するのは難しいのでは?
◯そこを克服していくのがエンジニアリングの仕事です。F1 Model 812の2.25インチ・ドライバーも、自社の他製品とは中身が全く違うものを新規開発しました。形や大きさは同じでも、コーンの質、ボイス・コイル、マグネット、すべてが違います。F1では軽量化のために、このクラスで一般的なフェライトではなくネオジム磁石を採用しています。少しでも軽い方がいいというお客様からの声があり、そこは頑張りました。

●F1 Subwooferの方はいかがですか?
◯幸運なことにも、10インチ・ユニット・サブウーファーの中でも最もパワフルなものができたと思います。実は目標値を超える出来となり、エンジニアもすごく喜びました(笑)。10インチ×2発という構成が、タイトな低音、つまりトランジェントの再現には有利だと思いますね。軽い分、アタック/リリースがピシっと決まります。

ライブ・バンドでのテストを繰り返す

●アレイ・ポジションの変更とともに、EQも自動的に変わっているのがユニークですね。
◯設定スイッチだと切り替えを忘れるので、アレイ形状の変更を検知して切り替えるようにしています。仕組み自体はシンプルですが、操作性と耐久性を考慮してユニットをロックさせる機構にもネオジム磁石を使っています。こういうのは人間の感覚でテストを繰り返して、適正を探るしかないんですよね。

●BOSE=技術力というイメージがありますが、一方でそうした人間的な感覚も大事にされているのですね。
◯音についても最終的には私が全部聴いてOKを出します。F1に関しては、ライブのバンドに何回もやってもらってテストしています。用途を考えるとそこが大事。やっぱりライブPAだとひずみが出たり共振したりといったことが分かるので、初期プロトタイプの段階からバンドでのテストを繰り返しましたね。F1は開発に3年以上かけていて、構想に1年、着手してからも音作りだけで1年かかっています。時間はかかりましたが、他社のコピーを作るよりはBOSEらしい製品を作る方が大事ですから。

●今後の展開は?
◯私は、最もニーズがあるサイズの製品を出して、より大きなものと小さなもの、どちらが望まれているのかを見ています。既に次の製品の構想はありますが、どちらの方向に行くかはユーザーからのフィードバック次第ですね。

F1 Model 812はフルレンジ2ウェイ構成。600Hz以上を担当する2.25インチ・ドライバー×8基のアレイを、会場の形状に合わせて4つの指向性パターンに変形可能。12インチ・ウーファーも備えて、サブウーファーなしでも十分な低域再生能力を誇る。専用スタンドを使わない場合は、一般的なスピーカー・スタンドへポール・マウントすることも可能だ。アンプ出力は合計1,000W。「BOSEでは1,000Wとスペックに書いたら、それはクレスト・ファクターや音の強弱が変化する通常の音楽で実用的にきちんと1,000Wが得られる、という意味です」と持丸氏 F1 Model 812はフルレンジ2ウェイ構成。600Hz以上を担当する2.25インチ・ドライバー×8基のアレイを、会場の形状に合わせて4つの指向性パターンに変形可能。12インチ・ウーファーも備えて、サブウーファーなしでも十分な低域再生能力を誇る。専用スタンドを使わない場合は、一般的なスピーカー・スタンドへポール・マウントすることも可能だ。アンプ出力は合計1,000W。「BOSEでは1,000Wとスペックに書いたら、それはクレスト・ファクターや音の強弱が変化する通常の音楽で実用的にきちんと1,000Wが得られる、という意味です」と持丸氏
F1 Subwooferは10インチ・ドライバーを2基搭載し、100Hz以下を担う。こちらもアンプ出力は1,000W。F1 Model 812をマウントするためのスタンドを内蔵している F1 Subwooferは10インチ・ドライバーを2基搭載し、100Hz以下を担う。こちらもアンプ出力は1,000W。F1 Model 812をマウントするためのスタンドを内蔵している
ストレート・ポジション、Jポジション、リバースJポジション、Cポジション。アレイ形状の変形とともにDSPによる補正用EQも自動的に切り替わる  ストレート・ポジション、Jポジション、リバースJポジション、Cポジション。アレイ形状の変形とともにDSPによる補正用EQも自動的に切り替わる 

ユーザー・インタビュー:金森祥之
F1 Systemsはラインアレイとポール・マウントの
“間を埋める”スピーカー・システムです

1985年にサンフォニックスでPAエンジニアとしてのキャリアをスタートし、数々のアーティストのコンサートや大型イベントの音響を手掛ける。1997年、オアシスサウンドデザインを設立し、メインとなるPAのみならず、スタジオやライブ・ハウスの運営、音響設備設計などマルチに活躍 1985年にサンフォニックスでPAエンジニアとしてのキャリアをスタートし、数々のアーティストのコンサートや大型イベントの音響を手掛ける。1997年、オアシスサウンドデザインを設立し、メインとなるPAのみならず、スタジオやライブ・ハウスの運営、音響設備設計などマルチに活躍

ワンボックス車でまかなえる範囲が拡大

●金森さんがF1で注目された点は?
◯サブウーファーの口径が小さいのは新しい……ハイボックスのウーファーよりサブの口径が小さいというのはこれまで無かったと思います。パワードのサブウーファーは18インチで40kgくらいあるのが普通。でも一人で運ぶには30kgがギリギリなんですよ。その点、F1 Subwooferは25kgを切る。それであれだけの音が出るんですから、それは驚きですよね。エンクロージャーも傷に強くて、傷が入っても目立ちにくい素材で、現場のことがよく考えられています。で、2t車が要る仕事なのか、それともワンボックスなのかというときに、F1ならかなりワンボックスでいけるんです。これは大きいですね。今までは指向性をコントロールするなら、ラインアレイを組むしかなくて、それだとスピーカー・システム全体で1,000万円くらいかかるし、2t車仕事になってしまうんです。そのすぐ下のクラスが無くて、その次はポール・マウントの2ウェイ+サブウーファーまで下がらないといけない。でも意外と現場の量や数では、その“ラインアレイとポール・マウントの間”が多いんです。ついF1をポール・マウントの2ウェイ+サブウーファーと同列に見てしまいますけど、僕はそれよりも少し上に位置するものだと思うんですよ。

●既にF1を現場で使われていますよね?
◯客席数800、2階席ありというアコースティック編成のコンサートでもバッチリでしたね。パワーは十分で、マスター・ボリュームを10dBくらい下げました。

●実際のサウンドはいかがですか?
◯一般的な2ウェイだと、ホーンで指向性をコントロールするのは高域だけで、それが2.5kHzより上の帯域。逆に言えば2.5kHzより下はコントロールされていないわけです。F1では2.25インチの中高域ドライバーが担当するのは600Hzより上なので、声の中心帯域である1〜2kHz辺りも含めて指向性がコントロールされている。この違いは大きいです。

●低域については?
◯F1 Subwooferも、小口径のユニットの使い方が上手だなと思います。10インチ・ダブルだから、80Hzや60Hzのレスポンスが良くて、タイトなローで勝負できるウーファーですよね。F1 Model 812の方にも12インチ・ウーファーが入っているから、男性だったら160Hz付近、女性だったら220Hz付近の、ボーカル帯域の一番下はほぼF1 Model 812でまかなえて、Subwooferは主にローエンドを担当する。理にかなっているし、コード感やルート感の分かる低音が出せると思います。一方でF1 Model 812だけで再生したときも、素性の良い低域が聴けるんですよね。だから僕は、F1 Subwooferは、5.1chシステムの“0.1ch”みたいなとらえ方をしています。

音が遠くに飛ぶので弱音が生きてくる

●今回の発表会ではバンドのPAもされていましたが、音作りのポイントは?
◯実は全くEQしていないんです。もちろんハコの特性も多少はあるのでそこはグラフィックEQで調整しましたが、やはりフレキシブル・アレイで指向性をコントロールができるので、最小限で済みます。後はローカットでサブウーファーへの送り量をコントロールしていただけ。F1のリミッターは優秀で、当ててしまえば“あ、ここね”と分かるし、このクラスのスピーカーにはありがちな“ぶざまに崩れる”ことがないんです。バランスさえ取れればまとまるということを、発表会だからこそ見せたかったんですよね。でもEQで例えばキックの4kHzを上げると、6dB、4.5dB、3dBの違いがちゃんと分かるスピーカーなんですよ。

●それもクロスオーバー周波数に関係あるのですか?
◯同じ2kHzでも、ツィーターに任せるのとウーファーで鳴らすのとでは音色が全然違う。そういった意味では600Hzから上が2.25インチに任せられているということでの音作りのしやすさはあります。また、アンプもDSPも専用のもの、つまり最適化したものが入っているのも大きいですね。F1 Model 812で指向性を変えたときも、ユニットのカバー・エリアの重なりが減った分だけ高域が持ち上がるのも理にかなっている。僕が担当するのはハイファイな現場も多いのですが、F1は小さい音量でも音が飛ぶので、弱音が生きてくると思うんです。良いコンデンサー・マイクとアコギやピアノの組み合わせをどう再生できるかに、期待しています。今回はロック・バンドのパワフルなところを聴かせましたが、その意味ではF1はアーティスティックなミュージシャンにもウケが良いスピーカーだとも思うんですよね。

▲Inter BEEとタイミングを合わせて幕張のホテルフランクス内Bar TURTLE CLUBで行われたF1発表会の様子。F1の解説やCDの試聴、ポジションによるカバー・エリアの違いなどに加え、バンド演奏でのデモも行われた。客席数100程度でF1なら余裕でカバーできる上、垂直方向の指向性コントロールによって、カバー・エリアに対して余すところなく、かつ余計な反射を避けるようセッティングできるのが強みだ(レポートの詳細はこちら) Inter BEEとタイミングを合わせて幕張のホテルフランクス内Bar TURTLE CLUBで行われたF1発表会の様子。F1の解説やCDの試聴、ポジションによるカバー・エリアの違いなどに加え、バンド演奏でのデモも行われた。客席数100程度でF1なら余裕でカバーできる上、垂直方向の指向性コントロールによって、カバー・エリアに対して余すところなく、かつ余計な反射を避けるようセッティングできるのが強みだ(レポートの詳細はこちら

製品の特長については、既に以前のエントリーで紹介しているので以下のURLリンクも参考にしていただきたい。

[関連リンク]
2015年6月22日 BOSEの新PAスピーカーF1がサウンドフェスタで聴ける!

BOSE F1 Flexible Array Loudspeaker System 新製品発表会 in 幕張レポート

[メーカーサイト]
F1 Model 812 Flexible Array Loudspeaker
F1 Subwoofer

PresentedbyBose