意味から切り離れされた日本語が無数のホーンから再生される総和
今、羽田空港第2ターミナルにて、ロンドンで活動されているサウンド・アーティスト/エクスペリエンス・デザイナーのスズキユウリさんとの共作サウンド・インスタレーション『Crowd Cloud』を展示しています。キュレーターはMoMAのパオラ・アントネッリでした。パオラの手掛けた展示はMoMAを訪れた際に見ていたので、連絡があったときは本当にうれしかったです。
この作品が公開されたのは2021年2月。コロナ真っただ中での制作でした。ユウリさんはロンドン在住、パオラはNY在住、私は日本で、コンセプト~施工まで作家/キュレーター間のやり取りはすべてリモートで行われました。
本来であればユウリさんも現場で調整し、音については一緒に組み立てていくのがベストですが、当時コロナの状況が悪く入国は叶わず。過去にユウリさんの作品『Sonic Pendulum』に参加して会話できていたことも幸いして、音の方向性はデモ音源のやり取りで固めて、現場調整は任せていただきました。
私は海外で展示したことはまだ無いので(アルスエレクトロニカはオンライン展示だった)現場を見られないメンバーが居る状態でどう進めるのか?、漠然と不安を抱えていたのですが、ユウリさんは大規模な展示でも遠隔で対応されることもあると聞いて、確かに自国以外で発表の場がある作家にとっては、リモートで対応することはそれほどイレギュラーではないのか……と感じたのを覚えています。
空港という、特殊で、海外から訪れる人たちにとって最初に日本らしさへ触れる特別な場所に、どんな作品を置くか。コンセプトはこのようなものです。
空港は多様な言語が集まる場所。音という世界共通のメディアを用いて日本語を再構築し、意味から切り離された音が入国後最初に触れる日本のサウンドスケープを象徴するとともに、さまざまな国から訪れる鑑賞者の言語が混ざり合うことで、その総和によってこの作品は世界の言語のサウンドスケープとなります。鑑賞者はこの作品を構成する重要な1ピースとなり、会場となる空港が一つの大きな作品になる可能性を示しています。
このコンセプトを実現するため、ユウリさんの作品でも象徴的に使われているホーンを用いてビジュアライズしていただきました。ホーンの背の高さや向きはいろいろで、それらが空港に集まる多種多様な人々を体現しています。
また、この作品が置かれている場所は国際線と国内線のちょうど境目で(今はコロナ禍なので国際線のシャッターが下りている状態。実はこれってすごくレアなのでは!?)、海外からの人々が最初に目にする場所です。ホーンの色にこだわれるのならこだわれないかと思い、過去に私の打楽器制作プロジェクトで交流のあった富山県高岡市の職人の皆さんにご協力いただきました。
以前打楽器奏者の石若駿君にも手伝ってもらった、『Atonal Chimes』という、素材の音を展示したいというコンセプトのもと作った鋳物があり、その作品の実現の際にお世話になった林口砂里さんにコーディネートしていただきました。(砂里さんは富山県出身で、職人の皆さんたちからの信頼も厚いプロデューサー! 過去には高木正勝さんのプロジェクトなども手掛けられています)。ちなみに『Atonal Chimes』は作曲家の坂東祐大さんが代表を務めるEnsemble FOVE『SONAR-FIELD』でも使っていただいています(参考:サンレコ2019年6月号)。
今回使用するホーンには、普段は鋳物に使われる2つの技術、研磨と真鍮(しんちゅう)着色を施しています。富山県高岡市にある佐野政製作所の佐野秀充さん(研磨)、杉本美装の杉本和文さん(真鍮着色)、それぞれの工房にお伺いし、研磨の種類の違いや着色のバリエーションや方法などについて親切にご説明いただきました。その色やテクスチャーをユウリさんに共有し、その中から最終的に使用する色を選んでいただきました。作品の中に黒いホーンが幾つかありますが、それは一度真鍮を吹き付けた後に、その真鍮を黒染めしたものです。よく見ると真鍮の色の名残か、ほんの少し茶色く見えるのがまたとても美しく、実際に展示されている場所は光を多く取り込む場所であるので、時間によっても印象が変わって見飽きない仕上がりになっています。
納期の関係上、すべてを高岡で着色しきることができなかったため、一部はスーパー・ファクトリーでメッキ加工をしていただいています。スーパー・ファクトリーは東京都現代美術館などでも活躍している美術作品に特化した施工会社。オラファー・エリアソンの個展も手掛け、美術館に行く大半の方がスーパー・ファクトリーの施工した作品を見たことがあるのではないかと思うほどです。
これにより微妙な風合いの違いが出て良かったなと思っています! 最終的にすべての色が塗装ではなく、素材の色に由来していることになります。エイジングが楽しみです。
コロナ禍で結集! 脇を固める先輩作家陣
キュレーターのパオラから、“ポータビリティを意識した作品にならないか”というコメントが最初にありました。このようなコロナの状況で、いつ何があるか分からない。いつまで作品が展示されているかも分からない。何かあったときにすぐ撤収してしまうのではなく、一部をどこかに移植したり、分解して設置したり、そういった多様性を持たせられないかという意図です。例えばコロナが開けたらJFK空港に置くとか。そういったコンセプトをご理解いただき、見事にシステムで実現してくださったのは、堀尾寛太さん、斉田一樹さん、新美太基さん! 寛太さんと新美さんは、今年のフジロックのEYさんのパフォーマンスの演出チームとして話題になっていました。斉田さんはNTT ICCの無響室展示の先輩でもあります。
こんな先輩作家の皆様にご協力いただけるのはなぜか……? 答えは、コロナ禍です。コロナ禍で皆さんちょうどスケジュールが合わせやすかったタイミングで、奇跡的な布陣で進めることができました。脇が固過ぎて、クレジットを見たら私が完全に脇だよ、という謎の気持ちに負けないよう戦っておりました。私もいつか脇を固くできる人間になる。
来月は、寛太さんチームが作ってくださったシステムと、作品のための録音、現場での音作りについて盛りだくさん記録します。ではまた~!
細井美裕
【Profile】1993年愛知県生まれ。慶應義塾大学卒業。大学在学中からボイス・プレイヤーとして数々の楽曲やサウンド・インスタレーションに参加。2019年、サウンド・インスタレーション作品「Lenna」とこの楽曲を含むアルバム『Orb』をリリース。同年、細井美裕+石若駿+YCAMコンサート・ピース「Sound Mine」を発表。メディア・アート作品の制作やオーディオ&ビジュアル・プロデュースも多数手掛けている