アヤ『im hole』、インジュリー・リザーブ『By the Time I Get to Phoenix』 〜Nagie's ディスク・レビュー

 第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。Nagie氏の今月のセレクトは、アヤ『im hole』、インジュリー・リザーブ『By the Time I Get to Phoenix』です。

さまざまに変化する歌の処理が特徴的

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アヤ『im hole』(ビート)

 アヤはロンドンを拠点に活動するDJ/プロデューサー。ジャンルとしてはエクスペリメンタルIDM(実験的なテクノ)と言うべきか。素直なビートでノリノリなわけでなく、複雑でゆがんだサウンドと変則的なビートの上に彼女のボーカルというかラップが絡む。歌の処理がとても特徴的で、グラニュラー的でザラザラしながらフォルマントが常に変化して女声から男声にくるくる変化している感じで面白い。冒頭からオート・パンがとても効果的。オケがぐるぐる回りスピーカーの真ん中で消失する。次曲からのスロー〜ミッドテンポ曲群は、汚く攻撃的で、未来のSFのようにロンドンの退廃した路地裏を徘徊している気分だ。アップテンポなM⑤「OoBrosThesis」が一番面白いかな。後半のインストもGood。彼女が歌無しでも面白い曲を作れる実力を示している。

メロディとリズムの絡みが混沌として良い

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インジュリー・リザーブ『By the Time I Get to Phoenix』

 今月は同系統の良作が多い。インジュリー・リザーブはアリゾナ出身のラップ・グループ。こちらは若干ポップで分かりやすいが、やはり汚い音の組み合わせで、非常に実験的かつポストロック的。決してよくあるヒップホップではなく、アヤと並べて聴いても同じ気分で居られる。M②「Superman」は、ANTARES Auto-Tuneのかかったポップなメロに、連打するリズムとの絡みが混沌としてとても良い。M④「Foot
work in a Forest Fire」は、ジャズ・ドラム風シンバル・ワークのリズムにゾンビが群がるようなイントロから、叫びを伴う歌とリズムに変化。廃墟を突き進むような気分だ。

 

Nagie

【Profile】ANANT-GARDE EYES、aikamachi+nagie、CM、アニメ、劇伴、映像音楽中心に活動。Vocaloidライブラリー開発も行う