Photo:Hiroki Obara
こんにちはケンカイヨシ(Loyly Lewis)です。今回はイギリスのロック・バンド、ブラーのボーカリスト=デーモン・アルバーンと、世界的なコミック・アーティストのジェイミー・ヒューレットによる覆面プロジェクト、ゴリラズの7作目『ソング・マシーン:シーズン1−ストレンジ・タイムズ』を紐解いてみましょう。
2000年のデビュー時からゴリラズは、不気味な架空のキャラクターと1980年代ニューウェーブにさまざまなサウンドを融合して作り出す個性的な音楽で大勢のファンを魅了してきました。今では“最も成功した架空のバンド”とも言われています。
そんな彼ら、プロジェクト始動時よりサウンド・デザインに関しては一貫した思想を持っているような印象です。例えば、派手さを極限まで抑えたローファイな質感や、1960~70年代のサイケデリック・サウンドをほうふつさせる揺らぎ感、そして骨太なドラム・サウンドなど。これらに絶妙なあんばいでエレクトロ要素を加えるのが、ゴリラズ特有の音世界だと言えるでしょう。
この傾向は今作でも変わっていませんが、「Chalk Tablet Towers (feat. St Vincent)」などの楽曲では、近年のローファイ・ブームをきっかけに人気を集めるビンテージ・シンセ・サウンドを大々的にフィーチャーしており、トレンドにも影響された音作りを感じます。
また、今作は全体的に“ローファイ寄りでありながら、音抜けも良い”印象。これは、ローファイ・ヒップホップやシンセウェーブ系の楽曲に多く見られる“こもった質感をあえて演出するアプローチ”とは一線を画しており、楽曲そのものが持つ情報量はキープしつつも、こもった質感になる一歩手前の“絶妙なポイント”でローファイ感を演出していると推測します。
このニュアンスに近付けられるであろうプラグインとして個人的に思い浮かぶのは、コンプレッサーのGOODHERTZ Vulf Compressor。これはコンプレッサーに、フィルターやワウ・エフェクトが付いているものなのですが、まず気が付くのは“各パラメーターがどう作用しているのかが一目で分かる視認性の良さ”でしょう。スライダーを動かすと、その具合をパーセンテージで分かりやすく表示し、画面中央の上部では波形の状態を確認することができます。
また“LOFI”と記載されたフィルターは、レゾナンスの設定も同時に施されているのか、単なるフィルターではありません。筆者のイメージ通りのこもり方を演出してくれるため、とても気に入っています。このように、Vulf Compressorは『ソング・マシーン:シーズン1−ストレンジ・タイムズ』のようなローファイ・サウンドを再現するにはお薦めのプラグイン。興味のある方は、ぜひ試してみてください。それでは!
ケンカイヨシ(Loyly Lewis)
【Profile】東京を拠点に活動する音楽プロデューサー/アレンジャー。ぼくのりりっくのぼうよみとの出会いをきっかけにJポップへ活躍の場を広げる。そのほか香取慎吾と草彅剛のユニット=SingTuyoなどの作品を手掛けている。
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