Photo:Hiroki Obara
こんにちはケンカイヨシ(Loyly Lewis)です。今回はラッパー、ロディ・リッチのデビュー・アルバム『Please Excuse Me For Being Antisocial』をひも解いていきましょう! 同作が全米ビルボードのアルバム・チャートで初登場1位を獲得したことにより、一躍脚光を浴びる存在に。彼は8歳でラップ、16歳でビート・メイキングを始め、その後はギャングの一員として活動していたためか、彼の歌詞からはギャングスタ・ライフな内容が伺えます。
逆に彼のボーカルはスムーズ。ドレイク以降の酔いどれシンギング・ラップを踏襲し、鋭利なリズムやグルーブを持ち併せています。楽曲も“典型的なトラップ”というより、メロウなピアノやギターが奏でる“R&B的上モノを大々的に取り入れたトラップ”という印象です。
例えば筆者が本作で一番好きな「High Fashion(feat. Mustard)」は、トラップ・ビートにアイズレー・ブラザーズ「Between the Sheets」をほうふつさせる官能的なエレピが重なるようなイメージ。このようなアレンジはアルバム全般で言えることで、ロディ・リッチは本作を通し、古き良きR&Bと現代のトラップ・ビートをミックスしたサウンドを作り上げたと言っても過言ではないでしょう。
また本作は、全体的に空間を意識したすき間のあるアレンジによってビートがかなり強く押し出されており、ほかのチル・トラップと一線を画した仕上がりになっているように感じます。特にビート・メイキングにおいてドラム・パーツの選定はかなり繊細な作業で、パーツを一つ変えるだけで楽曲のイメージを大きく左右してしまうことがありますよね? なかなかイメージ通りにいかないときは、パーツをレイヤーしてサウンドをコントロールするのも一つの手でしょう。
ここでお薦めしたいのが、トランジェント・コントロール・プラグイン。トランジェントとは音の瞬間的な立ち上がり(アタック)や立ち下がり(サステイン)のことです。これらをより細かく調整してあげることで、ドラム全体の存在感がはっきりとし、グルーブもより強く押し出すことができるでしょう。またコンプを強くかけ過ぎてアタックがつぶれたときも、後段にこういったプラグインを挿して復活させることが可能なのです。近年ではWAVES Smack AttackやNATIVE INSTRUMENTS Transient Masterなど、さまざまなブランドがリリースしています。
個人的に一番好きなのは、KILOHEARTS Transient Shaper。その理由は、アタック直後の減衰量を調整することができるパラメーター“Pump”があるからです。これ一つ動かすだけでとてもタイトなリズム感をドラム・サウンドに付加することができます。昨今の洋楽のトラップ・ビートの雰囲気を作るならば、こういったエフェクトで音作りするのもよいでしょう。それではまた!
ケンカイヨシ(Loyly Lewis)
【Profile】東京を拠点に活動する音楽プロデューサー/アレンジャー。ぼくのりりっくのぼうよみとの出会いをきっかけにJポップへ活躍の場を広げる。そのほか香取慎吾と草彅剛のユニット=SingTuyoなどの作品を手掛けている。
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