ぼやけた輪郭と立体的な空間処理がポイントのビリー・アイリッシュ「everything i wanted」 〜ケンカイヨシの見解良し! Vol.13

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Photo:Hiroki Obara

 

 こんにちはケンカイヨシ(Loyly Lewis)です。今回は、現在世界中で大ブレイクを巻き起こしているビリー・アイリッシュの楽曲「everything i wanted」についてお話ししましょう。第62回グラミー賞では、弱冠18歳ながらも5冠の快挙を達成した彼女ですが、その魅力はなんといっても圧倒的な個性。事実、現行のヒット・チャートにおいて、彼女のような歌唱法や音楽スタイルと同じような楽曲は、どれ一つ見つけられないと言っても過言ではないでしょう。

everything i wanted

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  • ビリー・アイリッシュ
  • オルタナティブ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

 特に彼女のヒット曲「バッド・ガイ」(『ホエン・ウィ・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥ・ウィ・ゴー?』収録)は、テンポ良い4つ打ちトラックではあるものの、ダークでミニマルなアレンジかつ、低重心でドライ寄りの音像。そこにささやくようなボーカルが重なり、当時のエレクトロ・ポップにはない“新しさ”が提示されています。ほかの楽曲でも似たような方法論が貫かれており、ヒット・チャートに既出した楽曲と同じようなものは、“意地でもやるものか”という意気込みが、彼女からは感じられます。

 

 さて「everything i wanted」に話を戻しましょう。同曲ではドラムの4つ打ちキックやピアノの上に、クラップやアルペジオ・シンセ、そして彼女特有のささやくようなボーカルが展開されます。ミックスに関しては、大きく2つのポイントが挙げられるでしょう。

 

 1つ目は“音の輪郭をぼかしていること”。「everything i wanted」ではボーカル以外のほとんどのパートに、程良くローパス・フィルターがかけられています。これにより音像が丸くなり、彼女の魅力的なボーカルを最大限に引き立たせることができるのです。また各パートの中域に耳がフォーカスするようになるため、音数の少ないプロダクションでも曲の密度が高いような印象を与えることができます。ここで使用するローパス・フィルターは通常のEQを使っても十分良いのですが、最近だとダイナミックEQやモジュレーション付きのフィルターもあるので選択肢に入れてみるといいでしょう。動的な変化を与えられるので面白いと思います。

 

 2つ目のポイントは“空間系エフェクト処理”。リバーブ/ディレイなどを使って各パートにほんの少し“奥行き”を与えてあるのですが、それぞれがうまく機能するととても立体的な音像を作ることができます。特にディケイ・タイムやモジュレーションの設定を工夫すると、より緻密(ちみつ)な空間処理が可能となるでしょう。各パートが立体的に配置され、それらが音楽的に機能していることがポイントです。

 

 筆者のお気に入りディレイ・プラグインは、VALHALLA DSP Valhalla Delay。画面左下の“MODE”から10種類のアルゴリズムを選択できるため、幅広い用途に使えます。ぜひ皆さんも、好みのプラグインを使って「everything i wanted」のような立体的な空間作りにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。それではまた来月!

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▲ディレイ・プラグインVALHALLA DSP Valhalla Delay。テープ/ハイファイ/デジタル/ピッチなど、10種類のモードを選択することができる。画面中央にあるCOLORセクションのAgeノブで音色を変化させるのがお気に入り

valhalladsp.com

 

ケンカイヨシ(Loyly Lewis)
【Profile】東京を拠点に活動する音楽プロデューサー/アレンジャー。ぼくのりりっくのぼうよみとの出会いをきっかけにJポップへ活躍の場を広げる。そのほか香取慎吾と草彅剛のユニット=SingTuyoなどの作品を手掛けている。

kenkaiyosi.com

 

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