Photo:Hiroki Obara
こんにちはケンカイヨシ(Loyly Lewis)です。今回はトロント出身のラッパー、ドレイクが5月に発表した最新ミックス・テープ『Dark Lane Demo Tapes』について考察していきましょう!
まずドレイクと言えば、歌なのかラップなのか分からない独自の歌唱スタイルが特徴的。2010年のデビュー時は、一語一句を大切にするオーソドックスなラップ・スタイルでしたが、2012年のアルバム『テイク・ケア』辺りからだんだん風向きが変わります。熱唱するのでもなく、かと言って単なるラップでもない彼の独特なスタイルは、瞬く間に多くのファンを引き付けました。ドレイク以前にも、ボーン・サグズン・ハーモニーやネリーのようにラップのリズムにメロディを付けて歌うアーティストは居ましたが、ドレイクの場合は歌とラップを絶妙に行き来するスタイルだったので、リスナーは新鮮に感じたのでしょう。
さて、本題の『Dark Lane Demo Tapes』に話を戻します。全体的に本作は、トラップ・ビートに哀愁感漂うキーボード系の上モノが乗り、大きな展開も少ないシンプルなトラックが多い印象。ドラムの音色はROLAND TR-808系ですが、ビート・パターンはブレイクビーツを踏襲し、楽曲にオールドスクールの要素を取り入れているようにも感じます。ブレイクビーツの場合はドラムの細かいゴースト・ノートがグルーブにつながるのですが、本作ではTR-808系キック・ベースの絶妙なリリース具合がグルーブの秘けつになっているのかも知れません。
この作品で特筆したいのは、TR-808系キック・ベースの音がとてもひずんでいる点。中でも「When To Say When」「Desires」「Time Flies」などは“これでもか!”というくらいひずんでいます(笑)。もともとトラップではキック・ベースをひずませ、その存在感やピッチを補強することがあるのですが、これらの楽曲ではそれが顕著に施されている印象です。キック・ベースにサチュレーションを強く施すと低域の量が減るため、そのギリギリのあんばいを狙った音作りをしているのでしょう。
そんな荒々しいキック・ベースを含んだトラックを音楽的にまとめる際に重要なのが、マスター・コンプによるグルー効果。グルーとは接着剤という意味で、これによって書くパートの音を“程良くまとめる”ことが可能です。マスター用と銘打ったコンプならどれでもよいと思いますが、それぞれ特徴がありますのでいろいろ試して好みのものを見つけてください。個人的に激アツなのは、プラグインのPLUGIN ALLIANCE Shadow Hills Mastering Compressor。ほんの薄くかけるだけで音が自然になじむ上、迫力も出せます。トラップのような荒々しいキック・ベースが登場するトラックにはとても有効でしょう。それではまた来月!
ケンカイヨシ(Loyly Lewis)
【Profile】東京を拠点に活動する音楽プロデューサー/アレンジャー。ぼくのりりっくのぼうよみとの出会いをきっかけにJポップへ活躍の場を広げる。そのほか香取慎吾と草彅剛のユニット=SingTuyoなどの作品を手掛けている。
関連記事