Photo:Hiroki Obara
こんにちはケンカイヨシ(Loyly Lewis)です。今回は、昨年12月に惜しくも21歳で逝去したアメリカのラッパー=ジュース・ワールドの遺作『レジェンズ・ネヴァー・ダイ』に収録された楽曲に注目してみましょう。
ジュース・ワールドはポスト・マローン同様、ロックに強く感化されたヒップホップ・アーティストで、過去のインタビューでは影響を受けたアーティストにフォール・アウト・ボーイを挙げていたことも。また彼の母親は敬けんなクリスチャンであり、彼は幼少期にヒップホップを聴くこと自体を禁止されていたそうです。その代わりロックとポップスは聴いてもOKだったようで、このことが今の彼の音楽性に深くかかわっているのでしょう。
さて『レジェンズ・ネヴァー・ダイ』は、彼と似たような音楽性を持つポスト・マローンの作品と比べても、よりオールドスクールかつメロディアスなポップス/ロックの影響が強いチル・トラップの印象。収録曲「テル・ミー・ユー・ラヴ・ミー」では、トラップ的ドラム・キットを用いながらも、そのドラム・パターンは2000年代初期の2ステップ/UKガラージをほうふつさせたりと、昨今のトレンドとは少し違ったアプローチの楽曲もあって興味深いです。
中でもマシュメロが参加する「カム&ゴー」は、ポップで可愛らしいインディー・ロック調のギター・リフ、トラップ・ビートを用いたEDM的なドロップ、そこにキャッチーなシンギング・ラップが交わるクリエイティブな楽曲。マシュメロとジュース・ワールドのフレッシュな感性が、うまくミックスされたようなトラックです。
この曲で筆者が一番注目したのは、ドロップ前のBメロでボーカルに加わるピッチ・シフター。これが、なかなか絶妙なかかり方をしているんです! メイン・ボーカルを一切邪魔せず、それどころか注意して聴かないと気付かないような存在感。しかしこの処理が無いと、恐らく全く異なった印象のボーカルとなることでしょう。加えて、このピッチ・シフターはBメロで不足する“中域”を補う役割を担っているとも思われます。
そんなボーカル・エフェクトをかけたいときに筆者がお薦めするのが、IZOTOPE VocalSynth 2。ボーカルをロボット・ボイスやハーモニー、ボコーダー、トークボックス・サウンドなどに加工できるプラグインです。画面上段には5種類のエフェクト・モジュールが搭載され、それぞれ自由に組み合わせて使えます。工夫次第では、とてもクリエイティブなボーカル・エフェクトを作り出せるでしょう。
直感的な操作性も特筆すべき点。シンプルな画面構成も加わり、扱っていて難しさを感じさせません。もちろん細かいハーモニーの設定も行えるので、「カム&ゴー」に使われているようなボーカル処理も再現できるでしょう。プリセットも面白いので、ぜひ一度試してみてください。
ケンカイヨシ(Loyly Lewis)
【Profile】東京を拠点に活動する音楽プロデューサー/アレンジャー。ぼくのりりっくのぼうよみとの出会いをきっかけにJポップへ活躍の場を広げる。そのほか香取慎吾と草彅剛のユニット=SingTuyoなどの作品を手掛けている。
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