ロード『ソーラー・パワー』、ジョイ・オービソン『still slipping vol.1』 〜今本 修's ディスク・レビュー

 第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。今本 修氏の今月のセレクトは、ロード『ソーラー・パワー』、ジョイ・オービソン『still slipping vol.1』です。

ボーカルが引き立つ高度なミックス

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ロード『ソーラー・パワー』(ユニバーサル)

 前作から4年を経て新作を出したロード。環境問題の一環としてCD無しでダウンロード・カードの入ったパッケージにも驚いたが、趣向としてはこれも時代なのだろう。プロデューサーは、FUN.のメンバーでありテイラー・スウィフトやラナ・デル・レイなどでも知られる女性アーティストのヒット・メーカー、ジャック・アントノフ。大好きなFUN.のバック・トラックにロードの美しい歌声が乗るという筆者にとって得しかないアルバムだ。一聴するにシンプルなギター・サウンドだが、実は録音されたものが丁重にエディットされ音も展開ごとに加工されており、ただただ感心するばかり。構成ごとに変化する極端なパンニングやアタックも抑えめで、インストゥルメントとエフェクトの帯域を近くしてボーカルを引き立たせる高度なミックスに仕上がっている。「ソーラー・パワー」を得て、コロナ終息に向かって歩き始めて行こう。

過激とも言える音の位相と広がり

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ジョイ・オービソン『still slipping vol.1』(ビート)

 UKガラージで今最も面白そうなのが、DJ/プロデューサーのジョイ・オービソンである。トライバル・ドラムンベースの鬼才レイ・キースを叔父に持ち、ジャケットに写る従姉妹のリーアンもドラムンベース界ではちょっとした有名人。本作は、ダンス・ミュージックに特化した血縁の記録と言える。ヘロンやバテ、タイソンなど、彼の一声で新進気鋭のアーティストも多数参加している。クリアであり、過激とも言える音の位相と広がり。エレクトロニカやハウス、ドリルまでも自在に操り、独特の個性が集結したアルバムだ。

 

今本 修

【Profile】DOGLUS MUSIK主宰。クラブ・ミュージックを熟知した音作りに定評がある一方、ロックの分野でも手腕を発揮するエンジニア