メトロノミー『SMALL WORLD』、ビッグ・シーフ『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』 〜今本 修's ディスク・レビュー

 第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。今本 修氏の今月のセレクトは、メトロノミー『SMALL WORLD』、ビッグ・シーフ『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』です。

メロディやアレンジに特化した作品

メトロノミー『SMALL WORLD』(ヴァージン・ミュージック

メトロノミー『SMALL WORLD』(ヴァージン・ミュージック)

 UKのエレクトロ・バンド、メトロノミーの7作目。フェスの告知におけるバンド名の文字の大きさや出番がトリに近いことは、彼らが積み重ねてきた大きな成果であり結果である。フロントマンのジョセフは近年父親となり田舎町に移住。“生と死”をじっくり考え作ったという。これまでのような凹凸のあるバランス感や彼ら特有のチープさ、狂気じみた部分をそぎ落とし、叙情的なメロディやすんなり切り替わるアレンジに特化したような変化が見受けられる。たくさんのオーディエンスと一緒に歌える楽曲がそろった作品で、今まで以上に音楽を楽しんでいるのがひしひしと伝わってくる。

一発録りの生々しい空気感を収録

ビッグ・シーフ『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』(ビート)

ビッグ・シーフ『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』(ビート)

 一発録りの演奏、録音の素晴らしさを伝える4人組バンド、ビッグ・シーフ。本作は、アメリカ各地で行われたセッションの中から厳選した20曲を収録する。先行シングル「Certainty」と「Sparrow」は8trのテープ・レコーダーを使用。マイクの位置やコンプ、EQなど決して振り返れない覚悟と緊張感、生々しい空気感も含めた素晴らしい録音物だ。グラミーを5度受賞している巨匠、ショーン・エヴェレットが参加する「Little Things」や「Time Escaping」は、やはりメジャー感が一気に膨れ上がる。前作、前々作とともに歩んだエンジニアのドム・モンクスも、今まで通りの安心する音を届けてくれる。少しのリズムの揺れや、ピッチの危うさ、緊張感から生まれた若干のひずみも、すべてひっくるめてこれが音楽だと言わんばかりの説得力満載。傑作である。

今本 修

【Profile】DOGLUS MUSIK主宰。クラブ・ミュージックを熟知した音作りに定評がある一方、ロックの分野でも手腕を発揮するエンジニア