3月10日にリニューアルされて、だいぶ分かりやすくなったCurrents.fmのWebサイト(https://a.currents.fm/)。まずはお気に入りのアーティストの無料チャンネルを見つけてプレイリストを見てみるか、自分のプレイリストを作成してみるとよい。リストとチャンネルの作成は無料だが、チャンネルを有料会員限定に設定することもできる
“分散化”をモットーとした
新たなオンライン・プラットフォームの可能性
コロナ禍で音楽産業のこれまでの構造が揺らぐ中、資本や影響力の“分散化”とコミュニティ形成による互助努力が注目を集めるようになっている。オンライン・プラットフォームCurrents.fmもそんな取り組みの一つだ。発足は2020年初頭で、基本的にはプレイリストを共有することによって、SNSのMySpaceのようにアーティスト同士やファンとの有機的な交流をうながすことを目的とする。さらに、アーティスト個々の“チャンネル”を介して、有料サブスクリプションなど金銭的なサポートをし合うことも可能にするもの。
正直、プレイリストで音楽を聴く習慣があまり無い筆者には、最初ピンと来なかった。使い方も若干分かりにくいのだが、少し時間をかけてWebサイト内を散策してみると、これまでに無かった可能性が感じられる。
まず、プレイリストはApple Musicを中心に、SoundCloud、Bandcamp、YouTube、Spotifyなどさまざまな異なるソースの楽曲を組み合わせることができるのが特徴だ。音源にすぐ飛ぶことができるので、販促にもつなげられる。例えば、Bandcampオンリーでリリースした作品やSoundCloudで公開したDJミックスなども一つのプレイリストにまとめられる。また“コレクティブ”として、例えば複数のアーティストのチャンネルをレーベルとしてまとめて、そのレーベル・チャンネルから発信、サポートを募ることもできる。
もう一つの特徴は、プラット・フォーム主催のバーチャル・フェスティバル“COMMON”を不定期に開催している点。ちょうど今月、これまでで最大規模の“COMMON MULTIVERSE INITIATIVE”が開催された。そのキュレーターの一人で、ベルリンを拠点にするビジュアル・アーティスト兼ディレクターのフローレンス・トーは「Currents.fmは“分散化”をモットーとしているので物理的な“本部”は存在しません。最初はサンフランシスコのメンバーの構想から始まり、現在はオーストラリア、イギリス、インド、台湾など世界中の人々が協力して運営されています。私は昨年Currents.fm協力の元開催されたバーチャル・フェスティバル“MUTEK.SF NEXUS Experience”に出演したのをきっかけに参加するようになりました。私は音楽家ではないのですが、音楽を介していろいろなアイディアを交換する場として可能性を感じています」と話す。
特に音楽制作者にとっては、趣味の合う国外のレーベルやアーティスト、オーディエンスとつながる新たな場になるかもしれない。
3月12〜21日に開催されたCurrents.fm主催のオンライン・フェス“COMMON MULTIVERSE INITIATIVE”。フローレンス・トーがキュレーションをした“INTRVL”のプログラム。パフォーマンスだけでなくトークもある
イギリスのテクノ・プロデューサーSurgeonは、レジデントを務めるRinse FMのラジオ番組で流した曲をプレイリストで公開するのに使用している。各チャンネルには“コーヒー1杯分($2.50を想定)の支援が、Spotifyで1,825回、YouTubeで10万回以上再生された場合のロイヤリティと同じ”と具体的に数字で示されているのも面白い
浅沼優子/Yuko Asanuma
【Profile】2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。近年はアーティストのブッキングやマネージメント、イベント企画なども行っている