レコーディング/ミックス・エンジニアの小森雅仁氏が、ソニーの背面開放型ヘッドホンMDR-MV1をチェック。試用後、導入するまでに至ったが、その理由とは? プロ用ヘッドホンとしての魅力をインプレッションから読み取っていただきたい。
Photo:Chika Suzuki、Hiroki Obara(製品概要の写真)
ローエンドの量感や左右幅まで判断できる
ミックスに試してみたところ、すごく良かったです。ビートが強い打ち込みの音楽から生音のシネマティック系まで、さまざまなジャンルに対応できると思います。
僕は、これまでも新製品のヘッドホンで気になるものがあれば、可能な限り試してきました。一方で、モニター機器は同じものを長く使い込むのが大事という考えもあり、ヘッドホンに関しては長いこと特定の密閉型の機種を使い続けてきたんです。
開放型もいろいろと試してきましたが、密閉型の方がローエンドやトランジェントといったディテールを判断しやすく、自分の使っている機種から乗り換えようと思えるものには出会ってこなかった。でもMDR-MV1は、“このまま制作に取り入れたい”と思ったんです。開放型と密閉型の良いとこ取りみたいなキャラクターで、両者の特長が自然に共存している感じ。従来の開放型と同じく、音楽全体を俯瞰して聴くこともできれば、密閉型のようにディテールも非常によく分かる。一台で幅広い用途をカバーできると思います。
詳細に関しては、まず低域。密閉型さながらの量感があって、30Hzや40Hzもきちんと聴こえます。でも誇張はされておらず、ローエンド~ローミッド辺りの“つながり”もすごく自然。また、左右のドライバーの特性がそろっていて位相が良いからか、量感だけでなくローエンドのステレオ・イメージのジャッジもしやすいです。
高域も、エアーの帯域がしっかりと分かるくらい伸びていて、ミックスがシャカシャカしすぎて耳障りじゃないかどうかといった判断が容易。低域と同様に、誇張されているわけではなく、必要十分に出ているという印象です。
トランジェントのシェイプもジャッジしやすい
トランジェントの見えやすさも出色です。キツい音があればキツいまま再生されるので、ビートのトランジェントがキツすぎないか、逆にアタック感が不足していないかどうかなどを判断しやすい。これは先のローエンドのステレオ・イメージと同じく、ほかの開放型では体験したことのない特長で、本当にすごいと思います。コンプに関しても、例えばアタック・タイムを1ms変えたときの音の変化まで、手にとるように分かるレスポンスの良さです。
装着感については、軽くて長時間つけていても疲れませんし、イア・パッドの質感も良い。ただ軽量化したのではなく強度も維持しているでしょうから、本当に追い込んで開発されたのだろうなと思います。
ヘッド・バンドのスライダーに目盛りが印字されているので、自分のベスト・ポジションを覚えておけば、常に同じ聴こえ方でモニターできる。プロの道具にふさわしい仕様ですね。モニター・ヘッドホンとして非常に性能が高いと思うので、ミックスやマスタリングをされる方には、ぜひ試してみてほしいです。
小森雅仁
フリーランスのレコーディング/ミキシング・エンジニア。米津玄師、Official 髭男dism、藤井風、Yaffle、TENDRE、小袋成彬、iri、AAAMYYY、KIRINJI、cero、浦上想起など多数のアーティストの作品を手掛ける。
ソニー MDR-MV1 製品概要
背面開放型により内部での共鳴を低減し、原音の正確な再現を目指したモニター・ヘッドホン。ドライバーは専用開発の40mm径のもので、低域の再現性を高めつつ超高域再生も可能に。ドライバー背面にはダクトを備え、振動板の動作を最適化。低域の過渡特性を改善し、中域との分離感を維持しつつリズムを正確に再現するという。立体音響制作での使用も想定され、360 Reality Audio認定モデルとなっている。
●形式:背面開放型 ●ドライバー径:40mm ●周波数特性:5Hz~80kHz ●最大入力:1,500mW ●感度:100dB/mW ●インピーダンス:24Ω(1kHzにて) ●重量:約223g(ケーブル含まず) ●付属品:ヘッドホン・ケーブル(TRSフォーン・プラグ)、TRSフォーン→ステレオ・ミニ・プラグ変換アダプター
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