一線のプロが、ソニーの最新ヘッドホンMDR-MV1を評価する理由

一線のプロが、ソニーの最新ヘッドホンMDR-MV1を評価する理由

プロ・エンジニア/クリエイターの方々から、ソニーの背面開放型ヘッドホンMDR-MV1の使用感についてコメントをいただいた。共通する点、独自の見解の両方を楽しみながら、本機がプロに評価される理由を見ていこう。

Photo:Hiroki Obara(製品概要の写真)

Engineer|古賀健一 〜立体音響にも有用な空間&定位の再現力

古賀健一

【Profile】レコーディング・エンジニア。2014年にXylomania Studioを設立。チャットモンチー、ASIAN KUNG-FU GENERATION、Official髭男di sm、D.W.ニコルズらの作品に携わる。スタジオの音響アドバイスも手掛ける。

 友人のエンジニアから“ソニーの新しい開放型ヘッドホン聴きました? すごく良いですよ”と言われた翌日に、このレビューのお話をもらいました。第一印象は“圧倒的に軽い!”。これは重要で、自宅で大きな音が出せないと、自然にヘッドホンの装着時間が増えます。さらに、メガネをかけていて頭が大きな僕にも“フィット感”がとても良い。音以前に、僕はまずフィット感を大切にしています。どんなに音が好みでも、長時間つけられないと仕事になりませんからね。

 次に低音感を気にします。開放型=低音が物足りない、という傾向になりがちですが、そこは世界のソニー。圧倒的な低域の解像度です。僕にはちょっと多すぎるかも!?と思うくらい。だからこそ、メガネによって生じるイア・パッドのすき間から、低音が逃げてしまうという問題も気になりません。むしろ、程よく聴こえるかも。

 最後に音の広がり。近年、立体音響でのバイノーラルのチェックが、僕の仕事でのマストになってきました。ミックスで使えるという意味では有線型のプロ機はとてもありがたく、また開放型でのチェックはとても重要です。本機は定位感が一番、衝撃的でした。僕が使っている開放型のどれよりも、空間やパンニングが捉えやすいです。

Creator|Stones Taro 〜低域の様子やコンプの効果が分かりやすい

Stones Taro

【Profile】京都在住のプロデューサー。2014~15年よりハウスやUKガラージの制作を開始。Time Is Now、Lost City Archives、Breaks 'N' Pieces、Hardline Soundなど英国のレーベルからリリース。レーベルNC4Kを主宰。

 私のような現行UKガラージなどのベース・ミュージックを制作するプロデューサーにとって、40~100Hzのマネージメントはとても重要です。MDR-MV1では、その辺りの帯域が本当にちょうど良く聴こえますね。開放型のヘッドホンでは難しいと感じていた、サイン波系サブベースのモニタリングも素晴らしい。それでいて低域が強調されすぎているわけではなく、冷静に制作を進められる印象です。

 中高域のゆとりも印象的。奇麗に分離して聴こえるため、パーカッションやスネアの輪郭が把握しやすいです。また、それらのオーディオ・サンプルを聴くだけで気持ちが良い。

 UKガラージ系のビートを組んで幾つかのバス・コンプをかけてみたところ、コンプレッションによるグルーブの変化がよく分かるので“よし!この設定!”という決断が速かったです。音の粒立ちが見えづらいモニター環境では延々とやってしまうのですが、MDR-MV1なら素早く決まります。

 装着性については、ドライバーと耳の距離感や側圧の加減が素晴らしく、制作を長時間続けても頭や耳の疲れを感じません。MDR-MV1は、周波数特性や定位などの良さもさることながら、リラックスした状態で長く制作に取り組めるような合理性の高いヘッドホンだと思います。

Engineer|葛西敏彦 〜ラージ・スピーカーで聴く感じに近い

葛西敏彦

【Profile】録音からPA、サウンド・インスタレーションなど多彩なアプローチを続けるエンジニア。蓮沼執太、青葉市子、スカート、岡田拓郎、寺尾紗穂、大友良英らを手掛け、舞台作品への参加やサウンド・プロデュースなども行う。

 ローエンドまで歯切れ良く、スピード感のある音で再生されるというのがファースト・インプレッション。低音は多めの印象です。また、ステレオ・フィールドがとても広く、その広さを生かすようなミックスが想定されているのではないかと思います。横位置のパンニングの定位が細かいレイヤーのように捉えられるので、そこを作り込みたい人にマッチしそうです。昨今は、さまざまな要素を手前に持ってきて近い音に聴かせるミックスが多い印象で、奥行きよりも左右で細かくすみ分けを図るのが手段の一つと言えます。MDR-MV1を使えば、そういった音作りに対応しやすいでしょう。

 でもシビアなモニタリングに偏った機種ではないと感じていて……使っていて楽しいんです。音量を上げるとラージ・スピーカーで聴く感じに近く、突っ込んだときにひずみにくいのも良い。僕は最近、モニター音量を絞る傾向にあるのですが、MDR-MV1なら久々にデカい音でやりたくなる。“こういう作り方、楽しいんだよな”と、あらためて思います。音楽への高揚感を引き出してくれる機材って、面白いですね。また、ミックスした曲を実空間で大きく鳴らしたときに、どう聴こえるか?というのを想定しやすく、スピーカーを大音量で使えない日本の住環境を考えると、自宅で大音量で鳴らすような音作りに活用できると思います。筐体が非常に軽く、ずっとつけていられるのもストレスフリーで、魅力的なポイントです。

Creator|石若 駿 〜これまで気づかなかった音像の発見がある

石若 駿

【Profile】ドラマー。くるり、CRCK/LCKS、KID FRESINO、君島大空、millennium Paradeなどの作品/ライブに参加し、自身のリーダー・プロジェクトとしてAnswer to Remember、SMTKなども率いる。ポップス・プロジェクトのSongbookでは、作編曲やドラム以外の楽器演奏もこなす。

 箱を開けまして、お!スタイリッシュでかっこいいです。フォーン(メス)からステレオ・ミニ(オス)の変換アダプターが付いています。ヘッドホン・ケーブルは着脱式で、ヘッドホン本体へ挿す側にストッパーがついています。ヘッド・バンドのスライダーには数字が書いてあり、長さをメモリーしやすいです。装着しまして、ふわふわです。これは長時間の作業も心地よくいけそうです。

 作業中のDAWを開きまして、クリックのアタック音を聴いてみると、いつもと全然違います。気持ち良いです。そしてハイからミッドにかけてサラサラときめが細やかな印象。ローの範囲はどこまでも深くカバーされていて、細かな調整がしやすいと思います。定位や左右の空間の範囲もとても広く、把握しやすいです。ピアノ、ギターのピッキング、シンバル・レガートのタッチの微細な変化がくまなく聴き取れます。また、例えばベースのコンプの調整においてトランジェントの追従も正確で、ジャッジに適切です。私は3年、同じヘッドホンを使ってきましたが、やはり新製品では作業のはかどりが違います。

 今度は好きな楽曲たちを聴きますと、シェイカーとタンバリンはここの定位だったのか!などと、今まで気づかなった音像の発見があります。やはりヘッドホンを変えて試すことは大切なのかなと思ったりします。お勧めします。

ソニー MDR-MV1 製品概要

ソニー MDR-MV1|価格:オープン・プライス(市場予想価格:59,400円前後)

 背面開放型により内部での共鳴を低減し、原音の正確な再現を目指したモニター・ヘッドホン。ドライバーは専用開発の40mm径のもので、低域の再現性を高めつつ超高域再生も可能に。ドライバー背面にはダクトを備え、振動板の動作を最適化。低域の過渡特性を改善し、中域との分離感を維持しつつリズムを正確に再現するという。立体音響制作での使用も想定され、360 Reality Audio認定モデルとなっている。

●形式:背面開放型 ●ドライバー径:40mm ●周波数特性:5Hz~80kHz ●最大入力:1,500mW ●感度:100dB/mW ●インピーダンス:24Ω(1kHzにて) ●重量:約223g(ケーブル含まず) ●付属品:ヘッドホン・ケーブル(TRSフォーン・プラグ)、TRSフォーン→ステレオ・ミニ・プラグ変換アダプター


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