注目の製品をピックアップし、Rock oNのショップ・スタッフとその製品を扱うメーカーや輸入代理店に話を聞くRock oN Monthly Recommend。今回はIMPACT SOUNDWORKSから発売されたドラム音源、Tokyo Scoring Drum Kitsを紹介する。日本のドラム・サウンドをテーマに、エンジニアの相澤光紀氏とドラマー髭白健氏のコラボレーションにより制作されたとのこと。詳細について、クリプトン・フューチャー・メディアの小泉聖道氏と林有希寛氏、メディア・インテグレーションの安田都夢氏から話を聞いた。
Tokyo Scoring Drum Kits
IMPACT SOUNDWORKSがクリプトン・フューチャー・メディアと連携して製作したドラム音源、Tokyo Scoring Drum Kits。エンジニア相澤光紀氏が中心となって設計が行われ、ドラマー髭白健氏の演奏をSound Cityで収録した。NATIVE INSTRUMENTS Kontakt 6.7もしくは無償のKontakt 6.7 Player上で動作する。
●Tokyo Scoring Drum Kitsは、室屋光一郎ストリングスの演奏をキャプチャーしたソフト音源=Tokyo Scoring Stringsに続いてリリースされました。開発の経緯は?
小泉 2020年にアメリカのアナハイムで行われた楽器の見本市NAMM Showで、IMPACT SOUNDWORKSのCEOの一人であるアンドリュー・アベルサから“日本のサウンドをキャプチャーして音源にしたい”という提案を受けたのがすべての始まりでした。アンドリュー自身も作曲家で幼少期から日本のアニメやゲーム音楽が好きなのですが、“日本の音を自分の楽曲に取り入れたくてもできない”という思いを抱いていたそうです。自分と同じような思いを持っている人が世界中にいるはずだということで、まずはTokyo Scoring Stringsの開発が始まり、その第2弾としてドラム音源のTokyo Scoring Drum Kitsを開発することになりました。
●日本のドラム・サウンドにはどんな特徴があるのでしょうか?
林 Tokyo Scoring Drum Kitsは、エンジニアの相澤光紀さんにレコーディングやミックスを手掛けていただいていて、そういったマイキングなどの手法が恐らく日本独特なのではないかと思います。
小泉 日本のメーカーであるriddimのドラムが収録されているのも特徴です。また、Sound Cityでレコーディングされているというのも、日本らしいサウンドになる理由の一つではないかと思います。
●ドラム・キットはDW Allround、DW Jazz、riddim Custom、SL Vintage、SNR Naturalの5種類あります。選定の基準などはあったのですか?
小泉 ドラマーの髭白健さんが自宅にたくさんドラム・キットを保有していらっしゃって、その中からバランスよく選定していただきました。
安田 僕のイチオシはriddim Customです。riddimのドラムを収録した音源はほかにないですね。また、実際にドラム・キットを使ってみて感じたのは、どれもアンビエンスが強めで、生々しいアコースティックな音だということです。やはり劇伴向きの製品になっているのでしょうか?
小泉 劇伴に特化しているわけではありませんが、相澤さんと髭白さんがSound Cityで収録しているので、彼ららしいサウンドになっているのだと思います。
林 ドラム・キットに加え、ドラム・アンサンブルというものもあります。これは、3種類のドラム・キットを一列に並べて同時にたたいたものを収録しているんです。あまり一般的ではないセッティングのように思われるかもしれませんが、劇伴収録のテクニックの一つでもあります。楽曲の中で壮大さを表現するためには非常に強力なパッチです。
●ミキサー・タイプは、Board Mix、Full Mixer、Aizawa Mixの3種類ありますね。
林 Board Mixは、CPUへの負荷を極力抑えたパッチで、効率良く制作を行いたい方向けになっています。Full Mixerは表現の幅が最も広く、ドラムの各パーツごとに最大3種類のスポット・マイク、3種類のアンビエンス・マイク、オーバーヘッドなどを自由にミックスすることができます。Aizawa Mixは相澤さんのアウトボードを実際に通した音で、元々の録り音自体が異なります。サチュレーションをよく使う方なので抜け感を楽しめるミックスかと思いますが、曲によって調整ができるように作り込みすぎていない音になっています。
●ミキサーの自由度が高いのが大きな特徴ですね。実際に使用してみていかがでしたか?
安田 ほかの音源だとミキサー画面が別で用意されていて、そこでボリュームなどの調整をするのが一般的だと思うのですが、Tokyo Scoring Drum Kitsはドラム・キットの画面上で、パーツごとに音色の設定ができるようになっているのが印象的でした。個別の音をいじる際に別画面に行く必要がないのは直感的で使いやすいですね。ちなみに、例えばスネアのオーバーヘッドとキックのオーバーヘッドは、また別のパラメーターになっているんですよね?
林 そうですね。なので、スネアだけルーミーな感じにするといったことも可能です。
安田 そこがこの音源独自の部分だと思います。スネアの音を調整する際、アンビエンスもスネア単独でいじれるというのは、ほかの音源にはない新しいパラメーターのあり方だと思いました。個人的には、ドラム全体をキットとして扱うより、キックやスネア単体ごとに音を作っていった方が使いやすいと思いますね。ただ、一つ一つの音が生々しくて、作り込まれていないので、Full Mixerでゼロから音色を作り上げていくのは難易度が高めだとも思いました。
林 確かにやさしくはないと思いますが、NATIVE INSTRUMENTS KontaktのSnapshotにプリセットが幾つか用意されているので、まずはそこからスタートするのも良いと思います。また、作り込まれていない音を自分の好きなようにエディットしていけるというのも醍醐味の一つですね。
小泉 最終的な音像の調整がアンビエンスのマイクで柔軟にできるので、特に劇伴を手掛ける方のニーズを十分に満たせるのではないかと思います。
●最大10種類のダイナミクスで収録されたラウンドロビンが用意されているのも大きな特徴です。
林 ラウンドロビンはCycle、Random、Offの3種類あります。Cycleは、設定された順序で再生されるモードで、再現性が高くて自然な演奏になると思います。Randomは全く再現性のないモード、Offはラウンドロビン無しでCPUへの負荷が抑えられるモードです。マシンガン・エフェクトはもちろんないですし、表現力の高さを感じますね。
安田 スネアを速いテンポで16分で鳴らしたらどうなるか試しましたが、とても自然です。
小泉 ラウンドロビンのバリエーションは相当多いと思います。“レコーディングの際に一打打つたびに待たないといけないから大変だった”という話を髭白さんから聞きました。例えば、ライド・シンバルをたたくとリリースが長いので、完全に鳴り終わるまで待たないといけないんですよ。そういった作業を何十回もやったそうです。
●Tokyo Scoring Drum Kitsはどんな方にお薦めですか?
林 このドラム音源を使うと、日本のアニソンやJポップってこれだよねという音が出せるんです。作曲家の方に使用してもらって意見を聞いてみたところ、“本当に日本の音がする”と興奮しておっしゃっていました。なので、日本の音が欲しいプロの方はマストバイなアイテムになるんじゃないでしょうか。また、海外のドラム音源でデモを作って、いざスタジオに持って行ったら結構ニュアンスが違うということもありますが、そういうことも防げると思いますね。
安田 この音源は、いわゆる“日本のスタジオに行って録ってきたドラムの音”そのものなんですよ。劇伴のレコーディングを見たことがある人なら分かると思いますが、まさにその音が欲しいと思っている人向けの製品です。また、ほかの一般的なドラム音源はジャンルが分かりやすいので、好みのものを選んでしまえばなんとなく曲ができてしまうのですが、これは自分で音を作っていかないといけないので、ドラムの音作りやミックスの勉強をしたい方にとって、もってこいの音源だと思います。
小泉 日本における最高峰の一つと言えるドラムの音を、自宅で手軽に再現できるという意味ではズバリです。さらに、この音源をきっかけに海外から日本のミュージシャンの方へオファーがかかって、リモートでのレコーディングのお仕事などにつながったらすごくいいじゃないですか。そういうワールドワイドな展開も願いとして込めているんですよ。
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