忠実に楽器の音を拾いつつ、ハウリングマージンも稼げるマイク
2022年に発表されたNEUMANNのミニチュアクリップマイク・システムMCM(Miniature Clip Mic System)が、PAの現場で好評を博している。サウンドエンジニアの三井崇氏も愛用者の一人で、『薬師丸ひろ子 Concert Tour 2023 ~愛しい人~』では、チェロの収音に利用されているとのこと。取材班は、本番を数時間後に控えた東京国際フォーラム ホールAに三井氏を訪ね、採用に至った経緯や製品の魅力などについてお話を伺った。その際、製品の写真撮影にご協力いただいたチェロ奏者の内田麒麟氏もMCMユーザーであることが判明。コメントをいただいたので、併せて参考にしていただきたい。
撮影:八島 崇
チェロの収音用として採用
まずはあらためてMCMの概要を紹介しておこう。153dB SPLという高い音圧にも対応できるエレクトレットコンデンサータイプのカプセルKK 14を中心に、グースネックや楽器形状にフィットする9種類のクランプ/クリップ、各社のトランスミッターに対応するコネクターを備えた4種類のケーブルなどから構成されるマイクシステムだ。各楽器向けのクランプ/クリップなどが、あらかじめセットになったMCM 114もラインナップしている。
9種類のクリップの内訳は、バイオリン/ビオラ用のMC 1、チェロ用のMC 2、コントラバスのブリッジ付近の弦取り付け用のMC 3、コントラバスの胴体部分用のMC 4、オーボエやクラリネットに適したストラップ固定型のMC 5(セットを含め今後発売予定)、トランペットやサックスをはじめさまざまな楽器に使える汎用性の高いクランプ固定型のMC 6、ドラムのリムに取り付けるMC 7、ピアノのフレーム用でマグネットタイプのMC 8、アコースティックギター用のMC 9というラインナップ。今回、三井氏はMC 2を用いてチェロの収音を行っていた。
『薬師丸ひろ子 Concert Tour 2023 ~愛しい人~』で、三井氏は音響チーフとしてPAシステムのプランニングを行い、FOHのオペレーターを務めている。2022年の薬師丸ひろ子のツアーにも参加しており、その時点でMCMの情報は耳に入っていたものの、当時は発売されたばかりで国内にまだそれほど製品が入ってきておらず、試す機会がなかったそう。三井氏が初めてMCMの音を耳にしたのは2023年に入ってからで、チェロとピアノ、それに箏というアコースティックなライブのPAを担当した際のことだったという。
「このツアーにも参加されているチェロ奏者の内田麒麟さんが、ご自身で所有しているMCMを持ち込まれていたんです。僕は別のマイクを用意していたので両者を聴き比べてみたところ、MCMのほうが圧倒的に良かったんですよ」
三井氏をして“圧倒的”と言わしめるほどの差は、どこにあったのだろうか。
「やはり音質が良かったんですよね。PAというのは常にハウリングの問題がつきまといます。マイクの音質は良くても、ハウリングしやすくて音量を上げられない場合は、EQで問題となる周波数をカットせざるをえません。カットすればするほど、音質は悪くなってしまうわけです。そのため、ゲインを稼げてハウリングしづらいマイクを優先して選ばざるをえない場合もあります。またカブリが多いからといって、指向性が強いマイクを使うと部分的な音しか拾えなくなるのでピーキーになりがちです。MCMに関して、試す前は“音は良いのかもしれないけど、PAにはどうなのかな?”と思っていました。ところが、MCMは忠実に楽器の音を拾いつつ、ハウリングマージンも稼げるマイクだったんです」
落合徹也氏と内田麒麟氏も高評価
こうしてMCMの実力を知った三井氏だが、本ツアーに参加することになった際、バンドマスターであり、ステージではストリングスカルテットを率いるバイオリニスト、弦一徹こと落合徹也氏から、ストリングス収音用のマイクについて相談を受けたそう。そこで “MCMという新しいマイクが出たんですよ”と話したところ試してみることになり、結果、採用されることになったそうだ。
「今回のツアーでは、バイオリンとビオラはオフマイクで拾っていて、チェロだけはオフマイクとMCMの音を混ぜているんです。全体の質感はオフマイクで収音しつつも、チェロの低音部分はオフマイクでは拾いきれなかったので、MCMも併用することにしました。このオフマイクも落合氏からの提案です。ステージ上でのドラムの位置がストリングスカルテットから遠いことや、演奏者が全員イヤモニを使用しているのでステージ上の音を最小限に抑えられているから実現できたことでした。ただ、リハーサルスタジオでMCMを試したときは、“すごく良い音だから、もうMCMだけでもいいんじゃないか”と落合さんがおっしゃるほどの評価だったんです。でも、せっかくオフマイクも用意していたので、結局は両方を使うことになったんですけどね」
では、三井氏がMCMを使用するきっかけとなったチェロ奏者の内田麒麟氏にもお話を伺ってみよう。まず音質について尋ねると「すごくいいですね」と好印象の様子。
「周囲からの評判もいいですよ。これを使うともう元には戻れない感覚があります。特にアコースティックな要素が多いライブの現場で生きるのではないでしょうか。周波数特性的にフラットなんですよね。中域が豊かな魅力的な音色で、もともとのチェロのサウンドに近い音を出してくれます。ロックな現場で高域の抜けを出すためには、少しEQをいじる必要があるかもしれません。でも、もともと僕たちはマイクの音がフラットであることを望んでいるんです」
この内田氏の発言を受けて、三井氏もMCMがフラットであるが故に「音作りしやすいマイク」と語る。さらに、このツアーでは鍵盤ハーモニカにもMCMが使用されていた。「もともと使う予定はなかったんです」と三井氏。
「しかし、どうしても演奏者が動いてしまうので、コンタクトマイクを付けたほうがいいなということになりました。ちょうどもう1個、MCMを購入していたので。使ってみると、温かい感じの良い音を得ることができました。ちなみに、会社の別のスタッフが2つのMCMでピアノを収音したそうなのですが、それもすごく良かったと言っていましたね」
クリップやグースネック、ケーブルなどのマイク本体以外の使い勝手も気になるが、それらも問題ないと三井氏。
「グースネックもセッティングに支障はありませんし、ケーブルも太くて安心感があります。耐久性に関しては、これから使い続けてみてわかることだとは思いますが、作りとしてはしっかりした印象がありますね」
三井氏は、今後はピアノやブラス、ギターなどでも使っていきたいと語る。また、「レンジが広くて自然な感じの音なので、特に音質が重要視される放送用の収録にも適しているのではないでしょうか」とのこと。
「NEUMANNというと高価なマイクというイメージで、PAではなかなか使わせてもらえませんが(笑)、MCM自体は思ったほどの価格ではないですから、音質のことを考えたら、今後ユーザーは増えていくんじゃないかなと思います」
コンタクトマイクの新たな選択肢として、その存在感を示しはじめたMCM。ぜひそのサウンドを体感してみてほしい。
MCMパーツ製品リスト
※各パーツは個別に購入可能
- KK 14(オープンプライス:市場予想価格47,300円前後):カプセル
- MCM 100(同16,830円前後):アウトプットステージ
- SH 150(150mm/同30,360円前後):グースネック
- WS 110(同2,640円前後):ウィンドスクリーン
- AC 31(1.8m/同6,600円前後):3.5(φ)mmコネクターケーブル
- AC 32(1.8m/同14,850円前後):LEMOコネクターケーブル
- AC 33(1.8m/同13,420円前後):MicroDotコネクターケーブル
- AC 34(1.8m/同10,010円前後):ミニXLRコネクターケーブル
- MC 1(同10,010円前後):バイオリン/ビオラ用クリップ
- MC 2(同10,010円前後):チェロ用クリップ
- MC 3(同10,010円前後):コントラバスのブリッジ付近の弦用
- MC 4(同16,500円前後):コントラバス胴部分用
- MC 5:オーボエ/クラリネット/フルートなどに適したストラップ固定型(今後発売予定)
- MC 6(同10,010円前後):さまざまな楽器に使える汎用クリップ
- MC 7(同10,010円前後):ドラムのリム用
- MC 8(同10,010円前後):ピアノ用マグネット型
- MC 9(同10,010円前後):ギター用