こんにちは。音楽プロデューサー/DJのDJ PMXです。自分は2015年頃からImage-Line FL Studioを使っており、2017年にリリースした自分のアルバム『THE ORIGINAL III』では、全トラックをFL Studioで制作しました。現在はApple MacBook ProにFL Studioの最新版=バージョン21.2をインストールして使用しています。FL StudioはCPU負荷が小さく、軽快に動作する印象です。また、MIDIやオーディオファイルの編集が柔軟にできるのも特徴で、これらは自分が制作しているウエストコースト・ヒップホップやトラップのビートメイキングにも役立っています。今回は、時短効果が抜群の“オリジナルテンプレート”についてお話ししましょう。
空間系エフェクトはセンドトラックを活用 RenameとColorでトラック内容を瞬時に識別
オリジナルテンプレートとは、いつも決まって使用する特定のソフト音源やプラグイン、ミキサーのルーティング、DAWの設定などを保存したプロジェクトファイルのことを指します。新しいプロジェクトを開始する際にこのオリジナルテンプレートを活用することで、毎回同じ設定を行う手間を省略することが可能です。自分の場合はビートメイキング時の設定やセットアップにかかる時間の効率化になるため、より多くの時間を制作に割けるようになりました。ミキシングは別のDAWで行っていますが、もしFL Studioでミキシングやマスタリングを行う場合は、複数のプロジェクトにわたってエフェクトやルーティング、オートメーションなどの機能を一貫して用いることができるでしょう。
オリジナルテンプレートの作成方法はいろいろなやり方がありますが、今回は自分なりの方法をお伝えします。まずはプロジェクト画面左上にあるメニューから“FILE→New from template→Minimal→Empty with 4 sends”と選択。プリセットとして用意されているテンプレートのEmpty with 4 sendsを開きます。
Empty with 4 sendsは、ミキサーにあらかじめ4つのセンドトラックが設定された空のテンプレートです。ここではトラック122〜125がセンドトラックに自動でルーティングされます。
センドトラックを利用することで、複数のトラックに同じエフェクトをかけることができます。例えば複数のトラックに同じリバーブを適用したい場合は、このセンドトラックに好みのリバーブプラグインを挿入しましょう。次に、各トラックからそのセンドトラックへ信号を送れば、複数のトラックに同一のリバーブを適用することができるようになります。
自分の場合、リバーブはFruity Reverb 2、ディレイはFruity Delay 3をよく使うため、これらをセンドトラックにインサートすることが多いです。ちなみにディレイは1/16、1/8、1/4と、異なるディレイタイムのものを各センドトラックにインサートしています。このように、空間系エフェクトにセンドトラックを活用することでCPUの負荷を軽減しつつ、統一感のあるエフェクト処理を効率的に行えるというメリットがあります。
プラスアルファのTipsとしては、各センドトラックにRename(名前変更)とColor(色分け)機能を用いることが挙げられます。センドトラックを名前と色で分類することで、プロジェクト内における各トラックの役割や内容を瞬時に識別することが可能です。例えば先ほどエフェクトをインサートしたセンドトラックにおいて、リバーブやディレイといったエフェクトの種類別に色を変えることで、作業が格段にやりやすくなるでしょう。特にトラックが数多く存在する大規模なプロジェクトでは、いかに求めるトラックを迅速に見つけ出すことができるかが作業効率に大きく影響します。
RenameとColor機能のやり方は簡単です。任意のトラックの上にマウスカーソルを置き、“control+クリック→Rename, color and icon...”と進みましょう。
すると、名前を入力する黒いパネルが現れるのでトラック名を入力し、パネルの右端にある紫形のボタンをクリック。
Color selectorという画面が出現するので、好みの色を選んだら画面の右下にあるAcceptボタンを押し、先ほどの黒いパネルの左下にある✓マークを押せば完了です。
RenameとColorを適切に使用することで必要なトラックへのアクセスが速くなり、時間の節約につながります。音楽制作のプロセスがより直感的かつ効率的になり、ミスも少なくなるでしょう。
プロジェクトごとに重要な情報を記録できるFruity NoteBook
ここからは、よく使うドラムパーツのワンショット素材やシンセなどのインストゥルメンツをChannel rackに立ち上げていくのですが、ここで紹介したいのがFruity NoteBookという機能。
プロジェクト内で情報を記録するための便利なツールです。テキストで情報を整理することができるため、制作過程で思いついたアイディアや重要な内容を忘れずに保存することができます。自分の場合は、気に入ったインストゥルメンツの名前やプリセット名、そしてそれがどのような音色なのかなどをメモしています。もちろん、各インストゥルメンツを“お気に入り”として登録するのもよいのですが、その音色を確認するために毎回立ち上げのが手間になるため自分はFruity NoteBookを用いることが多いです。
Fruity NoteBookのやり方は、メニューから“ADD→Fruity NoteBook”と選択するだけ。これでプロジェクト内に Fruity NoteBookが表示されます。なおFruity NoteBookに記入した情報は、プロジェクトファイル内に保存されます。つまり、プロジェクトごとに必要な情報を一箇所にまとめて管理することができるということです。作業中にひらめいたアイディアをすぐにFruity NoteBookにメモすることで、あとで忘れてしまう心配もありません。また複雑な作業手順やタスクリストを記録しておくのもよいでしょう。Fruity NoteBookは、音楽制作プロセスをより効率的にするための強力なツールだと言えます。
ここまでできたら、このテンプレートを保存しましょう。メニューから“FILE→Save as template...”と選択し、好きなテンプレート名をパネル内に入力したら、✓マークをクリックして完成です。
なお、このテンプレートの読み込み方法は、メニューから“FILE→New from template→先ほど保存したテンプレート名”をクリックすればOK。これでいつでもオリジナルテンプレートから音楽制作を始めることができます。それでは、また次回お会いしましょう!
DJ PMX
【Profile】日本にウエストコースト・ヒップホップを広めた第一人者であり、ジャパニーズヒップホップのプロデューサー/DJ/洗足学園音楽大学客員教授。日本のヒップホップが産声を上げた1980年後半から数多くのアーティストをプロデュース。アメリカ西海岸のヒップホップの影響を受け、ジャパニーズ・ウエストコースト・ヒップホップのスタイルを構築。現在、5作目のアルバム『THE ORIGINAL V』を製作中。
【Recent work】
『THE ORIGINAL IV』
DJ PMX
(ユニバーサル)
Image-Line Software FL Studio
LINE UP
FL Studio 21 Fruity:22,000円|FL Studio 21 Producer:37,400円 |FL Studio 21 Signature:44,000円|FL Studio 21 Signature クロスグレード:26,400円|FL Studio 21 Signature 解説本PDFバンドル:46,200円|FL Studio 21 クロスグレード解説本PDFバンドル:28,600円
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13.6以降、intel CoreプロセッサーもしくはAPPLE Silicon M1をサポート
▪Windows:Windows 10/11以降(64ビット)intel CoreもしくはAMDプロセッサー
▪共通:4GB以上の空きディスク容量、4GB以上のRAM