前に張りつくパワーがあるLCT 240 PRO CONNECT 6はオートセットアップに感動
LEWITT(ルーイット)は、オーストリアのウィーンに本拠地を置くマイクメーカー。本企画では、幅広いラインナップを誇るLEWITTの魅力的な製品群を、エンジニアやアーティストによるレビューも交えながら紹介していく。
笹川真生は、唯一無二の繊細な歌声、そしてポップとストレンジが同居する作風で知られるシンガーソングライター。バーチャルシンガーの理芽をはじめ、さまざまなアーティストへの楽曲提供でも活躍している。そんな笹川にコンデンサーマイクのLCT 240 PROと、オーディオインターフェースのCONNECT 6についてレビューを依頼した。すると、実はLCT 240 PROのユーザーであることが判明。しかも、LCT 940も所有し、作品制作に活用しているとのこと。そこで本稿では、笹川がLCT 240 PROとLCT 940に感じている魅力、そして今回初めて使用したというCONNECT 6についての感想を語っていただいた。
高域の繊細な息の成分も逃がさない
LCT 240 PROは低価格帯でありながら、ボーカルや楽器の収音、配信など用途を問わずに使える製品。まず、笹川がこのマイクを導入したきっかけから伺ってみた。
「2年くらい前に、あるエンジニアの方がボーカル録りでLCT 440 PUREを使っていらっしゃったんです。そのサウンドがすごく良くて、LEWITT製品を試してみようと思い、まずはLCT 240 PROを購入しました。私は、前に出てくる録り音が好きなんです。遠くにある音を近づけるのは大変ですけど、その逆は簡単にできると言えばできるので、録り音はバチっと前に出てきてほしいのですが、その点でLCT 440 PUREは素晴らしい音でした」
では、実際にLCT 240 PROを使ってみて、どのような感想を抱いたのだろうか。
「LCT 440 PUREとは価格も異なるので、全く同じ音というわけではないのですが、前に張りつくようなパワーがありつつ、高域の息の繊細な成分も逃さず奇麗に録れるという点は共通していると感じました」
また、LCT 240 PROはアコースティックギターの宅録にも適しているという。
「宅録でアコギを録るのは難しくて、特に高価なマイクは、不要な部屋鳴りまで録れすぎてしまうことがあります。ボーカルならそれらを後から消せますが、アコギの場合は部屋自体をどうにかしないといけない。その点、宅録では低価格帯マイクのほうが、意外と良い結果になりやすいんです。録り音に気になる箇所が多いと、あまりクリエイティブではない作業に時間を取られてしまいますし。それよりもラフなマイキングでも奇麗に録れるLCT 240 PROのような低価格帯製品のほうが宅録に向いている場合もあると思います」
笹川は2023年3月に2ndアルバム『サニーサイドへようこそ』を発表しているが、この作品では、FETと真空管という2つの回路を搭載したLCT 940が活躍している。このマイクではいずれか片方のサウンドだけではなく、両者をブレンドすることも可能。笹川は「真空管とFETの音を混ぜることができるのが面白すぎる」と感じて導入したという。
「ボーカルのほとんどはLCT 940で、アコギでも使っています。すべて自宅スタジオでのレコーディングです。FET側にすれば、いわゆる奇麗に録れるマイクのような質感を出せますし、真空管側にすれば温かみも出せます。そして両方をミックスして自分の好きな音のバランスにもできてしまう。いわば何でもできてしまうんです。音作りの幅が広いマイクですね。以前は外のスタジオで高価な真空管マイクを使わせていただくこともあったのですが、それよりもむしろLCT 940のほうが自分の声になじむ感じがしています」
“全然これでいけちゃうよ”という音
続いて、CONNECT 6の感想を伺っていこう。この製品はコンピューター用とモバイルデバイス用でそれぞれ専用のUSB-C端子を備えており、両者の音声を転送できるほかループバックも可能という配信にも適した仕様。2系統のマイク/ライン入力のほかにステレオのAUX入力、2系統のスピーカー用ステレオ出力と同じく2系統のヘッドホン出力も搭載。さらにEQやコンプレッサーなどのDSPエフェクトまで内蔵という多機能ぶりが特徴だ。笹川は、その音質について「びっくりしました」と驚きを口にする。
「レビューだからとか、そういうことではなくて“今のオーディオインターフェースってこんなにすごいの?”と思っちゃいました。お返しするのが惜しいくらい(笑)。高価格帯の製品と比べても遜色のない音で、チープさも全く感じません。“全然これでいけちゃうよ”という音がしっかり出ていました」
また、“ゲインの高さ”も印象的だったようだ。
「入力ゲインがめちゃくちゃ高いですよね。これはありがたいです。またヘッドホン出力も大きいんです。最大にしてもそれほど大きくならない製品もあって、もちろん最大で作業するわけではないものの、少し不安になるんですよね。CONNECT 6ではその心配もありません」
さらに笹川が「感動した」と語るのが、オートセットアップ機能。これは数ステップの工程で録音に最適なゲインやDSPエフェクトの設定を自動で行ってくれるというもの。
「一言で言えば“いい感じにしてくれる”機能です。楽器と歌、それにしゃべりでテストしてみたのですが、これはすべてのオーディオインターフェースにあったほうがいいと思いました。私はそれなりに長い宅録経験があるので、狙った音量感にするためのゲイン設定とか、低域が録れすぎてしまうときのローカットといったことは手癖でできるのですが、初心者の方はそうはいかないですよね。ちょうどいい音量に設定したつもりでも、ちょっと力んで弾いてしまったらクリップしてしまったり。これは“あるある”だと思いますが、オートセットアップを使えば、そういう事故は減らせると思います。あと、いくら宅録に慣れていても、その日の体調によって音量は変わってくるので、一度オートセットアップしてから、自分なりに詰めていけるのは楽ですよね」
また、環境ノイズを低減してくれるDSPエフェクトのエクスパンダーも効果的だそう。
「わざとエアコンをガンガンにしてオートセットアップを試したんですけど、エクスパンダーが奇麗な感じにしてくれました。通常、録音ではエアコンを消すと思いますが、配信ではエアコンをつけたままでもしゃべりを奇麗に収録できるのではないでしょうか。コンプも自動でかけてくれるので、これも配信で生きそうです。ゲーム配信ですごく音割れしている方って結構いらっしゃって、あれはあれですごく好きなんですけど、そういうことを狙ってない場合は、コンプをかけることで一定のテンションで配信できると思います」
オートセットアップを含め、レコーディングや配信用のルーティングには、付属ソフトのCONTROL CENTERを使用するが、その使い勝手も「素晴らしい」と笹川。
「階層がないので分かりやすい。これも配信者の方が手軽に使えるポイントだと思います。しかも、USB接続をいったん抜いて、もう一度挿したときにも立ち上げ直す必要がなく、そのまま使える安定性もすごい。DSPエフェクトにマキシマイザーがあるのも配信で便利だと思います。ミックスのバランスを変えずに全体の音量調節ができますから」
「とにかく手間がなさすぎて、優しい」とCONNECT 6を高く評価する笹川の言葉には、LEWITT開発陣の意図するところが集約されていると言えるのではないだろうか。ぜひ、皆さんも機会があれば、その“優しさ”に触れてみてほしい。