L'Arc~en~Ciel『ARENA TOUR 2024 UNDERGROUND』〜センターステージの音作りを探る【コンサート見聞録】

L'Arc~en~Ciel『ARENA TOUR 2024 UNDERGROUND』の音作りに迫る【コンサート見聞録】

これまで披露される機会の少なかった名曲の数々が、センターステージよりド迫力な音像で解き放たれる。その音作りについて探るべく代々木競技場のPA席に足を運んだ

L'Arc~en~Ciel(以下ラルク)の結成30周年を記念して行われた東京ドーム2Days公演『30th L’Anniversary LIVE』から2年の時を経て、『ARENA TOUR 2024 UNDERGROUND』が全国6カ所にわたり開催されることとなった。“UNDERGROUND”という言葉から想像できるように、これまでライヴであまり演奏されてこなかった楽曲を披露するというコンセプトのもと、彼らの魅力を余すことなく味わえるツアーとなっている。今回編集部は3月6日、7日に国立代々木競技場 第一体育館で開催された公演にお邪魔し、PAエンジニアの横瀬政治氏からFOHの音作りについて話を伺った。

※上掲の写真は2月10日公演時のもの

DATE:2024年3月6日(水)、3月7日(木)
PLACE:国立代々木競技場 第一体育館
PHOTO:Takayuki Okada(ライブ写真、人物)、小原啓樹(機材)

センターステージは音をリアルに届けられる

 会場に入ってまず目を引くのは、なんと言ってもアリーナの中央にそびえ立つステージだろう。スピーカーはCLAIRの製品が採用されている。センターステージ特有の音作りについて横瀬氏に尋ねよう。

 「エンドステージの場合よりもスピーカーと客席が近いので、音像をよりリアルに感じていただけると思います。ただ実際は反射もすごいですし、ステージに低域が溜まりやすい状況でもあります。この点については、システムエンジニアの方と相談をしながら、会場ごとに調整しています」

FOHのPA席前から見たセンターステージ

FOHのPA席前から見たセンターステージ

メインスピーカーはCLAIR CO-12×8台で構成されたラインアレイを、各柱に2本ずつ、計8本を設置。パワーアンプはLAB.GRUPPEN、プロセッサーはlakeの製品を使用している

メインスピーカーはCLAIR CO-12×8台で構成されたラインアレイを、各柱に2本ずつ、計8本を設置。パワーアンプはLAB.GRUPPEN、プロセッサーはlakeの製品を使用している。横瀬氏はCLAIRのスピーカーを「音がとても速いです。フェーダー操作や、コンプ、EQのちょっとした調整にも即座に反応してくれます」と評価している

2台のサブウーファーCLAIR Cohesion CP-218×2台の上に、CO8が設置されている

2台のサブウーファーCLAIR Cohesion CP-218×2台の上に、CO8が設置されている。このセットがステージの外周に沿って8つ、等間隔で並べられている。最下部のCP-218は、過剰な低域をキャンセリングするためにステージ側に向けて設置

PAエンジニアの横瀬政治氏(SLIに所属)

PAエンジニアの横瀬政治氏(SLIに所属)。「このツアーは、FOHのケア、モニターオペレート、インプット、ワイヤレスのケアをHIBINO SOUNDの皆さん、アウトプットをCLAIR JAPANの皆さん、FOHのオペレートを私が担当するという、チームで行っています。皆さんとても前向きでプロフェッショナルな方々で、このような素晴らしいチームの中で仕事をさせていただく機会に恵まれていることに、心から感謝しています」と話してくれた
Photo:Takayuki Okada

できるだけシンプルなセッティングを心掛けている

 FOHのコンソールはMIDAS PRO X。2012年にこのコーナーで取り上げた『L’Arc〜en〜Ciel 20th L'Anniversary WORLD TOUR 2012 THE FINAL』の際も横瀬氏がPAを担当しており、当時のコンソールはMIDAS PRO9であった。

 「2012年当時はPRO9でしたが、数年後にPRO Xというフラッグシップモデルにアップグレードされて現在に至ります。今となっては一昔前の卓となりましたが、分離がよくダイナミックレンジも広く、とても好みの音です。アナログ卓の延長線上にある操作性、ダイナミクスやEQ、オートメーションの機能も申し分ありません」

FOHのコンソールMIDAS PRO X

FOHのコンソールMIDAS PRO X。右側のラックにはドラムの音作りに用いられるEMPIRICAL LABS Distressor EL8×3台とEL8-Xの姿が見える。「Distressorはコンプレッサーではありますが、エフェクターのような感覚もあって、直接実機のノブを回して音作りするのが使いやすいと思っています」と横瀬氏

ステージの内部に設置されていた、FOH用のMIDASのステージボックス(上からDL451、DL231×2台)

ステージの内部に設置されていた、FOH用のMIDASのステージボックス(上からDL451、DL231×2台)。実際にはこの下にもう1台 DL231が格納されており、さらにその下にDSPのNEUTRON DL571が入っている。信号はこのラックから光ケーブルでFOHのPRO Xに送られる

 今回のツアーのインプット数は約60ch。各楽器のマイキングについて横瀬氏は、「できるだけシンプルなセッティングを心掛けています」と語る。

 「例えばキックはAUDIX D6の1本のみで収音します。穴に向けたマイクと、中に置いたバウンダリーマイクをミックスする方も多いですが、僕はキックとはそういうものではないと勝手に思っていて(笑)。音が“ドン!”と出てるところにマイクを向けて、その音を出したい、というイメージです」

 yukihiroの複雑なドラムセットをミックスする上で気を付けているのは、どのパーツも同じように聴こえるようにすることだそう。横瀬氏はEMPIRICAL LABS Distressor EL8/EL8-XとWAVESのプラグインで音作りをしている。

 「WAVES API 2500をドラムの革モノに使用しています。このプラグインはPRO Xと相性が良く、どっしりと安定した感じにまとまるんです。Distressorは、2つのキックをまとめたバスと、スネアやタムをステレオでまとめたバスに薄くかけています。音を整えてくれて、パンチが出ます」

yukihiro(ds)のドラムセット

yukihiro(ds)のドラムセット。写真中央のスネアはトップをAUDIX i5、ボトムをSHURE SM57で、その左側に見えるスネアはSHURE SM57で収音している。ハイハットにはSHURE KSM137、ロートタムにはDPA Microphones 4099、タム、フロアタムにはSENNHEISER e 904、ライドシンバルにはSHURE BETA 181C、オーバーヘッドにはAKG C314(L/R)が立てられている。左手前のミキサーはPreSonus STUDIOLIVE 32SX

yukihiroのドラムセットにはキックが2つあり、どちらもAUDIX D6で収音している

yukihiroのドラムセットにはキックが2つあり、どちらもAUDIX D6で収音している

 続いてtetsuyaのベースとkenのギターの処理についても伺おう。

 「tetsuyaさんのベースは、卓のEQとDistressorで処理しています。kenさんのギターについては、キャラクターの異なる2本のマイクをブレンドしていますが、1対1のブレンドではなく、メインのマイクに別のマイクのキャラクターを少しだけ足すようなイメージです」

tetsuya(b)の機材群

tetsuya(b)の機材群。右奥の3台のアンプヘッドはビンテージのampeg SVT。手前のラックには、パワーディストリビューターのFurman PL-Plus DMC J、FREE THE TONEのアウトプットセレクター、マルチバンドコンプtc electronic TRIPLE CとSA NSAMP PSA-1などが格納されているのが見える

ken(g)の機材群

ken(g)の機材群。中央、上部のアンプヘッドはSuhr ML-100で、左側にはMAGNATONE SUPER FIFTY-NINE M80、FRIEDMAN JJ-100もセットされている。中央のラック内には、デジタルディレイのRoland SDE-2000やt.c.electronic TC 2290などの姿が見え

左が、ひずんだ音色を担ったキャビネットTwo-Rock 2×12 VERTICAL CAB。マイクはSENNHEISER MD 409、sE Electronics VR1の2本をセット

左が、ひずんだ音色を担ったキャビネットTwo-Rock 2×12 VERTICAL CAB。マイクはSENNHEISER MD 409、sE Electronics VR1の2本をセット

クリーントーンを担ったアンプヘッドのTwo-Rock Classic Reverb SignatureとキャビネットKerry Wright 2×12 Open Back Cabinet。マイクは、SHURE SM57のモディファイモデルV.I.R 57TL ACTIVEとKSM313をセット

クリーントーンを担ったアンプヘッドのTwo-Rock Classic Reverb SignatureとキャビネットKerry Wright 2×12 Open Back Cabinet。マイクは、SHURE SM57のモディファイモデルV.I.R 57TL ACTIVEとKSM313をセット

キーボードを担当したTakeyuki Hatanoの機材群

キーボードを担当したTakeyuki Hatanoの機材群。写真奥には上からKORG KRONOS2-88LS、YAMAHA S90 ESが、写真右手には上からRoland JUPITER-Xm、nord nord electroが並ぶ

 hydeのヴォーカルは、PRO X内蔵のコンプで音作り。キャラクターを5種類から選択でき、ここ数年はDRAWMERのコンプをシミュレートしたモードを選んでいるそうだ。

 「しっかりかけてもナチュラルな感じが損なわれず、hydeさんの声に一番合っていると思います。彼の甘い声、ハードな声のどちらにも違和感なく、うまく効いてくれる印象です」

hyde(vo)のマイクカプセルはSHURE SM58 Aで、グリップ部分には美しい彫刻が施されている

hyde(vo)のマイクカプセルはSHURE SM58 Aで、グリップ部分には美しい彫刻が施されている

 ステージ上のスクリーンには薄暗い森と降りしきる雨。開演時刻になると客電が徐々に消灯し、雨音が大きくなっていく。オープニングムービーに続き演奏されるピアノで観客の期待感は一気に高まり、間髪入れずにバンドの轟音が会場全体を怪しげでドープな雰囲気に飲み込む。yukihiroのどっしりとしたドラム、tetsuyaのメロディックなベース、kenの高密度で美しいギター、エッジーで力強く、ときには甘く優しいhydeの歌声。これらが分離よく鮮明に聴こえてくるのは、横瀬氏やシステムエンジニアらのなせる技であろう。“アンダーグラウンド”な名曲から往年のヒット曲まで、ラルクの魅力を隅々まで味わうことができたのは、言うまでもない。

 

 MUSICIAN 

hyde(vo)、tetsuya(b)、ken(g)、yukihiro(ds)

 ADDITIONAL MUSICIAN 

Takeyuki Hatano(k)

 MUSIC 

  1. All Dead
  2. EXISTENCE
  3. THE NEPENTHES
  4. 砂時計
  5. a silent letter
  6. Ophelia
  7. Taste of love
  8. Voice
  9. Vivid Colors
  10. flower
  11. It's the end
  12. shade of season
  13. Blame
  14. 叙情詩
  15. GOOD LUCK MY WAY
  16. Killing Me
  17. 自由への招待
  18. Bye Bye
  19. ミライ
  20. Link
  21. MY HEART DRAWS A DREAM

※上記は3月6日のセットリスト。3月7日は①がTHE BLACK ROSE、⑫がCureless、⑰がNEXUS 4に変更されている

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