こんにちは、湯原聡史です。PRESONUS Studio One(以下S1)もついにバージョン5へと進化し、演者に向けたライブ・パフォーマンス機能、エンジニアの方々が活用できそうなクリップ・ゲイン・エンベロープなど多数のアップデートが施され、ますます盛り上がってきました。今回は“作編曲家にうれしい新機能”を重点的に取り上げていきます。
譜面で打ち込みできるスコア・ビュー
ピアノ/ドラム・ビューとの行き来も可
まずは、僕が気になっているスコア機能から紹介します。これはピアノ・ビュー(ピアノロール)やドラム・ビューと同じようにスコア(譜面)をS1の画面上に表示し、制作中の楽曲データをエディットできるというもの。PRESONUSの楽譜作成&作曲ソフトNotionをベースに設計されています。スコアを表示するには、ピアノ・ビューからスコア・ビューに切り替える必要があり、編集ウィンドウ左上のト音記号マークをクリックすると“スコア・ビュー”が登場。ピアノ・ビューなどのMIDIエディターに打ち込んだ情報をそのままスコア化できます。幼少期から音楽に親しんできた演者の方は特にそうだと思いますが、楽譜を見ながらレコーディングした方が楽、という場合はよくあります。僕もギタリストとして参加したセッションで、アレンジャーの方にお願いして譜面を用意してもらったことがありました。楽譜ソフトを別途立ち上げずに済むようになったのは、とても大きいですね。ただし、使える機能はあくまでシンプルで、Notionの一部を持ってきて楽曲制作へ生かせるようにしたというニュアンス。弦楽器や管楽器を譜面ベースで作っていく人にとっても、ストレス無く楽曲制作がはかどりそうです。
試しにNATIVE INSTRUMENTS Session Horns Proを立ち上げ、トランペットのフレーズをスコア・ビューで作ってみました。音符の入力に関しては、ビュー上部の全音符や4分音符などを選択し、五線譜に置いていくような要領。
休符は、音符で長さを指定した後に、右側の休符マークを選んで入力します。アーティキュレーションはビューの左側にあり、強弱やスタッカートなど一通りスタンバイ。8分で食うところなどをタイでつなげば、再生音もその通りになります。そしてスコア・ビューをピアノ・ビューに切り替えると……ちゃんと譜面の通りになっていますね。
ちなみに、ここで打ち込んだMIDIをNotionに送信してみたところ全く同じデータが再現されました。印刷時などはNotionに移せばよいでしょう。
イベントの音量にカーブを描く
クリップ・ゲイン・エンベロープ
昨今のボーカル・サウンドは大変複雑で、ざっと考えてみても録りの段階の音作り(EQやコンプ)、ピッチ編集、タイミング編集、ボリューム・オートメーションなど多大な手間ひまをかけて作られています。例えばそのオートメーションでは、ほんの一部分の音量を少し大きくしたりといった処理が当たり前のように行われていますが、今回S1に搭載されたクリップ・ゲイン・エンベロープは、そうした“ピンポイントな処理”に便利なものだと思えます。
クリップ・ゲイン・エンベロープは、オーディオ・イベントの右クリック・メニューからアクティブにできます。
試しに先日録音した仮歌をエディットしてみました。基本的な使い方はオートメーションと一緒で、音量を変えたい部分に点を打ってドラッグするというもの。選択した部分をピンポイントに動かすこともできれば、段階的に変化させていくこともできます。何よりすごいのが、編集すると即座に波形の大きさも変化するところ。これは分かりやすい。ボリューム・オートメーションはフェーダーにかかりますが、クリップ・ゲイン・エンベロープはオーディオ・イベントそのものの音量を変化させているのです。
クリエイターあるあるかと思いますが、オートメーションで1カ所でも編集したら、全体のボリュームを調整したいときに結構面倒なことになりますよね。ですが今後は“クリップ・ゲイン・エンベロープで細部の微調整をする”“ボリューム・オートメーションでチャンネル全体のレベルを調整する”といった使い分けもできそうです。PRESONUSオフィシャルの機能紹介では、ノイズ・リダクションに利用されていました。弦楽器のエクスプレッションとしても使えるでしょうし、幅広く活用できそうで、これからの作業が楽しみです。
ミキサーの設定を“シーン”として
保存/呼び出しすることが可能に
ミキサーの設定を“シーン”として保存/呼び出しできるようになりました。これで“パターン1とパターン2のどちらが良いでしょう?”といった提案も容易に。また制作中も“どっちのバランスが良く聴こえるだろう?”と比較することが可能です。
S1では元来、ソングのバージョンを保存したり、ソングを別名で保存することはできましたが、ミキサーの設定を独立して保存/呼び出しできるようになったのは初めてです。しかも“選択されているチャンネルのみ”シーンを読み込むことも可能。例えば“ドラムの音色は良いけれど、ギターの音作りだけ前に戻したい”という要望があったとき、従来だと前のソングのバージョンからトラックをインポートするか、バージョンのミキサーの設定をメモって直したりしていたので、そうした部分もストレスフリーになりましたね。
ほかにも新機能があります。例えばリッスン・バス。マスターとは独立したバスで、試聴用のバスとして使用できます。ソロにしたチャンネルのみを送ることができ、レベルはポストフェーダー/プリフェーダーを選択可能。各チャンネルにプラグインが挿さっていても、ドライの状態で聴くことができます。コントロール・ルームでは整ったミックス・バランスで、ブースではドライな音で聴いたりと、さまざまな使い方に対応しそうです。また、リッスン・バスにインサートするエフェクトはマスターに影響を及ぼさないので、音場補正用のプラグインを挿していても書き出しはマスターから行って問題ありません。まさに試聴に適した機能です。S1って、とにかく気が利くソフトだと思います。こういうところが好きです。
僕の担当連載は、次回で最後となります。集大成として、実際に制作した楽曲のソング・データを元に“こんな機能を活用して作っている”というのを紹介できればと思います。
湯原聡史
ANYTHING GOESに所属するプロデューサー/コンポーザー/アレンジャー。耳なじみの良いメロディと安定感のあるアレンジを持ち味とし、JUJUやJ☆Dee’Z、Girls2などに楽曲提供を行っている。テレビ朝日系『musicるTV コライトバトル』にて優勝。ギターやベースの演奏も得意としている。
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※収録曲「P☆KANスタート!」作曲
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