Lil'Yukichi 〜KOHHやBAD HOP、あいみょんなどへ楽曲提供も行うベテラン・ビート・メイカー【特集】TRAP MAKERS LAB

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自分たちの好きなようにやって名誉ある賞が獲れちゃうところに
なんだか勇気をもらいますよね

ここからは、トラップ・ミュージックを中心に制作する国内ビート・メイカーたちの登場だ。本特集では彼らにインタビューを実施し、音楽制作のこだわりなどを伺った。一人目は、座談会で登場したベテラン・ビート・メイカーのLil'Yukichi。KOHHやBAD HOP、SALUなどへの楽曲提供のほか、ローファイ・ヒップホップやアンビエントのトラック制作など幅広く手掛けている。

Instagram@lilyukichi.mp3

 RECENT WORK 

『Deech Got Yukichi』
Deech & Lil'Yukichi
(Deech & Lil'Yukichi)

 ビート・メイキングを始めたきっかけ 

 最初はラッパーとして活動していました。当時は海外アーティストのインストゥルメンタル・トラックに自分のラップを乗せてライブするのがアマチュアのシーンでは主流だったのですが、途中からそれがだんだん嫌になり、自分でビートを作りたいと思うようになったんです。初期の機材は、ZOOMのMTRやROLAND SP-404などを使用していましたが、ソウルジャ・ボーイがIMAGE-LINE FL Studioを使っているのを見て、自分も購入しました。FL Studioは生涯アップデート無料というところが良いですね。太っ腹過ぎます。あとFL-Chanのダンスがかわいい!

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Lil'Yukichiのプライベート・スタジオ。メイン・マシンはWindows、DAWはIMAGE-LINE FL Studioを使用する。写真の左端には、モニター・ヘッドフォンのSONY MDR-7506の姿が見える

 ビート・メイキングに影響を与えた楽曲 

 ヤング・ジョック「It's Goin' Down(feat.ニティ)」(『New Joc City』収録)。まず、この曲を作ったのはニティというプロデューサーなのですが、いきなり曲の頭に“This a Nitti Beat”という彼のネーム・タグが入るんです。自分の名前を曲に入れちゃうんだ……と、当時の僕にはとても衝撃的でした。それ以来、僕も自分のネーム・タグをビートに入れるようになったんです。2000年代前半には、リル・ジョンの影響もあってかシンセ・リードを軸としたサウス系ヒップホップがはやりましたが、中でもこの曲は比較的シンプルなアレンジ。だけどとても格好良いんです! よく聴くとドラムが細かく、クラベスやリム・ショット、オープン・ハイハットの組み合わせ方がユニーク。ドラムの抜き差し具合も最高です。

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オーディオI/OのROLAND Duo-Capture EX UA-22

 尊敬するビート・メイカー/プロデューサー 

 スリー・6・マフィアというヒップホップ・グループの中心メンバー、DJポールとジューシーJです。彼らは1990年代初頭から活動していて、今のトラップ・ミュージックの走りみたいな人たち。歌詞の内容はホラー的かつギャングスタ、そしてサウンドはめちゃくちゃ暗くて渋いのですが、彼らはそのスタイルを変えることなく突き進み、2006年にはとうとうアカデミー賞でベスト・オリジナル・ソング部門を獲得するのです。自分たちの好きなようにやって名誉ある賞が獲れちゃうところに、なんだか勇気をもらいますよね。

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デスクの右手には、MIDIコントローラーのAKAI PROFESSIONAL MPK Mini MK2を設置。ノブにソフト・シンセなどのパラメーターをアサインすることが多いのだそう 

 TR-808系キック・ベースのこだわり 

 TR-808系キック・ベースの音源には、ソフト・シンセよりサンプルを使った方が絶対良いと思います。なぜなら、トラップ・ミュージックの著名なビート・メイカーはほぼ全員そうしているからです。またTR-808系キック・ベースを打ち込むときは、数オクターブ高いところで鳴らして一度ピッチを確認するとよいでしょう。プラグインは、基本的にディストーションを用います。これまで幾つかのプラグインを試した中で個人的に最強だと思ったのは、CAMEL AUDIO CamelCrusher。めちゃくちゃ太い音になるので、気になる方はぜひ試してみてください。詳しい設定は秘密です(笑)。

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モニターはIK MULTIMEDIA ILoud Micro Monitor。Lil'Yukichiいわく「コンパクトなサイズ感ながらも、低域が出るところが気に入っています」と話す

 ビート・メイカーとして大切なこと 

 “常に備えよ”です。これは、以前カニエ・ウェストや21サヴェージを手掛けるアメリカ人プロデューサーのピエール・ボーンとスタジオに入ったとき、彼から言われた言葉。ビートは大量に作っておき、何かあったらすぐに送れるようにしておいた方がよいと言っていました。僕自身も日ごろからビートを作ってストックしておくタイプなので、とても納得しましたね。

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上モノに用いるというソフト・シンセ、AIR Hybrid 3

 

【特集】TRAP MAKERS LAB