学園祭ライブ編|セルフPA入門〜機材選び/設置/音出しのポイントがわかる

学園祭ライブ編|セルフPA入門〜機材選び/設置/音出しのポイントがわかる

本特集では、ストリート、カフェ、DJ、学園祭の4つのシチュエーションでライブを行うために必要な機材や設置方法など、“セルフPA”のポイントを紹介。ここでは「学園祭ライブ」を例に、尚美学園大学教授/PAエンジニアの山寺紀康氏が解説します。

学園祭ライブのシステム概要

学園祭ライブのシステム概要

デジタル・ミキサーの使用例

教室での4人編成のバンド演奏

 ボーカル、ギター、ベース、ドラムの4人編成による学園祭ライブのPAシステムを想定しています。客席に向けたパワード・スピーカーはステージの左右に2本用意しました。モニター・スピーカーは前方に4本とドラム用に1本用意。PAオペレートにはデジタル・ミキサーを導入しました。入力はドラム4ch、ベースのライン1ch、ギター・アンプ1ch、ボーカル1ch、コーラス3chの合計10ch、出力はマスター・アウトのほか、モニター用に4ch出力しています。

教室での4人編成のバンド演奏

機材選びのポイント

 マイクは、ボーカル×1本、コーラス×3本、ドラム×4本、ギター・アンプ×1本の合計9本を立てました。ベースはDI経由でライン録りをしています。教室でのライブのPAで重要なのはボーカルを聴かせることなので、ドラムに立てるマイクの本数は多くなくてもよいでしょう。

デジタル・ミキサー

 ここでは、ミキサーにデジタル・ミキサーを採用しました。アナログ・ミキサーだとツマミやフェーダーを使った感覚的な操作が可能ですが、デジタル・ミキサーを使うと、より多くのチャンネルの扱いに対応する、チャンネルEQに加えてモニター・スピーカーの出音全体を調整するためのグラフィックEQやパラメトリックEQ、リバーブなどのエフェクトを内蔵する、セッティングの保存/呼び出しができるなどのメリットがあります。機能や音質により価格幅も大きく異なりますが、学園祭ライブでそこまで多入力、高機能の必要がなければ、低価格帯のものでも十分かもしれません。

【写真の使用例】TASCAM Sonicview16
◎入出力数や必要な機能に合わせて選ぶ
◎グラフィックEQやリバーブなどを1台で集約

パワード・スピーカー

 客席用のスピーカーはウーファーのサイズが12インチのパワード・スピーカーを左右に立てました。外部からの苦情が入らないよう、サブウーファーはなしでプランしています。

【写真の使用例】TURBOSOUND NuQ122-AN×2
◎ステージ左右に2本用意してステレオで出力
◎40〜50人規模の教室でウーファーのサイズが12〜14インチ程度

モニター・スピーカー

 演奏者用のモニター・スピーカーはウーファーのサイズが10インチ程度のパワード・スピーカーを5本用意。ドラム、ギター、ベース、ボーカルの4系統を用意し、ボーカルは2本に同じ音を分配しています。ボーカルをより聴かせたい場合には横からステージに向けて聴かせるモニター(サイド・フィル)を用意します。

【写真の使用例】YAMAHA DBR10
◎演奏者に聴こえるパワー感
◎角度を付けて設置できるもの

設置のポイント

2本のスピーカーで客席全体をカバー

 客席に向けたパワード・スピーカーは、左右2本で会場全体がカバーできるように角度と高さを調整します。モニター・スピーカーは、演奏者が聴こえやすいように配置しましょう。例えば、ドラマーだと、演奏中に体が向く方向に合わせて設置するとよいでしょう。

2本のスピーカーで客席全体をカバー

モニター・スピーカーは、演奏者が聴こえやすいように配置
ドラマーだと、演奏中に体が向く方向に合わせて設置する

ドラムは部屋鳴りに合わせてマイクの本数を決める

 ドラムは、キック、スネア、ハイハット、オーバーヘッドでタムなども含めて4本で収音。本来はそれぞれに立てた方がよいですが、今回は省略しました。ドラマー用にコーラスのマイクを立てる場合には、演奏中に手が当たらない場所に立てるようにしましょう。

ドラムは部屋鳴りに合わせてマイクの本数を決める

 スネアとハイハットは演奏者から“ドラムをモニターに返してほしい”と要望を受けることが多いので立てています。デッドな部屋の場合には、スネアやタムなどの皮モノは吸音されてしまうので立てた方が良いです。キック専用のマイク(下の写真)を使うとより低域が拾えます。教室だとシンバルなどの金物はマイクなしでも聴こえるのでオーバーヘッドで皮モノを中心に収音しました。

キック専用のマイク

ギター・アンプのマイキングはスピーカー位置に合わせる

 ギター・アンプは複数のスピーカーで構成されていることも多く、それぞれ同じ音が出るので、いずれかのスピーカーにマイクを当てて拾います。プロのギタリストだとライン録りをしてイアモニでモニターをする人も多いですが、学園祭ライブの場合にはアンプのみを鳴らすのが一般的だと思います。

ギター・アンプのマイキングはスピーカー位置に合わせる

ケーブルは動線の邪魔にならないように

 ステージ上のマイクやスピーカーなどのケーブルは、出入り口からの動線上に極力敷かないようにまとめましょう。

ケーブルは動線の邪魔にならないように

 ステージ上の楽器やスピーカーとミキサー間の信号のやりとりに役立つのが、マルチボックスです(下の写真下部に設置)。これは複数の入出力を集約して1本のケーブルで送出できる装置で、ステージ横とミキサー下に1台ずつ置き、その間を1本のケーブルのみでやりとりすることで、取り回しがしやすくなります。デジタル・ミキサーがDanteなどのデジタル・オーディオ・ネットワークに対応していれば、LANケーブルでより取り回しがしやすく、伝送の精度も高めることができます。

写真下部に設置したマルチボックス

音出しのポイント

ボーカルは観客向けとモニター用で音作りを変える

 まずはボーカルの音量をどこまで出せるか判断します。上限は、ハウリングを起こさないギリギリの音量です。客席での聴こえ方を確認するために、本番で使用するボーカル・マイクをミキサーまで持ってきて音がきちんと出るか確認しましょう。コーラスが入る場合、その音量はメイン・ボーカルを上回らないように注意してください。

ボーカルは観客向けとモニター用で音作りを変える

 客席に聴かせる音では、コンプをかけて高域を伸ばすように設定すると気持ち良く聴かせられます。演奏者のモニターははっきり聴き取れる必要があるので、コンプやリバーブなしの素に近い音を作ります。観客が聴く“ソトオト”用のボーカルとモニターに送る“ナカオト”のボーカルは、ミキサー上で使うフェーダーを分けるとより調整しやすいでしょう。

ミキサー

 モニターでは、コーラスの人にも、メイン・ボーカルやほかのコーラスが聴こえる必要があります。その場合、ボーカリストの声は床に置いたモニターから返し、サイド・フィルがある場合はコーラスも含む全体を返すことが多いです。

ドラムは生音とスピーカーの出音をつなげる

 音出し確認の順番として、自分でボーカルをチェックした後は、低音の楽器から順にチェックしていきます。ここでは、ドラム→ベース→ギターの順に行いました。低音はまとめにくいので先に作り、その上に音を乗せていくイメージです。

 ドラムは教室くらいの広さだと生音とスピーカーから出た音が両方聴こえます。しかし、生音だけだと物足りないですし、スピーカーから出し過ぎるとボーカルが埋もれてしまいます。ですので、スピーカーからの出音と生音がつながって聴こえて、境目が分からないような感じを目指すとうまくいくことが多いです。

ドラムは生音とスピーカーの出音をつなげる

キックがベースを押し出すように低音を作る

 ベースはDIを経由してラインで出します。ラインで出すのは、ベースの芯を出すためですが、太めの音や空気感が欲しい場合は、スピーカーからの出音をマイクで拾った方が良い場合もあります。

 低音部はキックとベースで作っていきます。両者の関係として、キックに音程が付いたような感じでベースを出せるのが良いと思います。キックの低音部とアタックの間がベースで埋まるイメージです。キックがベースを押し出してくれる感じになると低音が心地良く感じられます。ベースが埋もれる場合はベースのラインの音量を大きめにしましょう。

キックがベースを押し出すように低音を作る

ギターとボーカルの兼ね合いを調整

 ギター・アンプは意外と遠鳴りするので、近くよりも遠くの方がよく聴こえて客席に響きます。ギターはボーカルと同じような音域で鳴るため、両者のバランスをうまく調整するのがなかなか難しいかもしれません。ボーカル・マイクをハウリングさせずに上限まで上げるためには、EQを使ってスピーカー・チューニングを丁寧にする必要があります。ギター・アンプの音量がどうしても必要な音楽もありますので、ハウるから、アンプを下げるという安易な方法をとらずに努力してみましょう。

ギターとボーカルの兼ね合いを調整

楽器別に聴きたい音をモニターする

 モニターの音作りでは、全部の音を鳴らしながら調整します。単体で鳴らして問題なく聴こえても、全体で聴くと低音がたまって聴こえてしまう場合があるので、全部の音を鳴らして聴きながら確認するのが大事です。

 各楽器でモニターの聴こえ方は異なるので、それぞれの場所で聴きたい音が聴けるかどうかを確認します。例えば、ギターとベースがステージの反対側にいる場合、ギターはベースが聴こえにくく、ベースはギターが聴こえにくいので、それらがうまく聴こえるようにモニターに返します。ドラマーは自分のドラムの生音が耳に入ってくるので、ドラム以外の全部の音が聴こえるように返しましょう。

楽器別に聴きたい音をモニターする


【特集】セルフPA入門〜機材選び/設置/音出しのポイントがわかる

 

講師:山寺紀康

講師:山寺紀康
PAエンジニア。40年のキャリアを持ち、現在も新谷祥子、磯貝サイモン、井上苑子、武藤彩未などのPAを担当。ライブ・ハウスからアリーナまで多様な現場をこなしてきた。現在は、尚美学園大学情報表現学科で教授を務めている。

取材協力:尚美学園大学 音楽と音響を愛する仲間たち

取材協力:尚美学園大学 音楽と音響を愛する仲間たち

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