サンレコのエンジニア・インタビューなどでも、たびたび登場する“パラレル・コンプ”なるテクニック。エレキベースへの処理に続いて、ギターの音作りを見ていきましょう。
連動音源について:各ソースの処理後の音(=“原音+パラレル処理の音”の記載がある音例)は原音と聴感上の音量をそろえ、ビフォー/アフターの差異が分かりやすいようにしています。またパラレル処理のエフェクト音は、原音に対するバランスのまま書き出しています。
ギターへのパラレル・コンプを解説
ギターには、ドラム・ループでも使用したBF76でのパラレル・コンプをほんの少し足しています。トラックにDecapitatorをインサートしてクリスピーな質感にしたのですが、ミックスの中で聴いたらやや物足りなく感じたので、パラレル・コンプでほんの少し陰影のようなものを足すことにしました。演奏のニュアンスや音の立ち上がりの良さなどをキープしたくて、インサートのコンプではなくパラレル・コンプを選んでいます。コンプのサウンドはかなりの小さな音量で加えているため、それこそ補強的な処理と言えます。聴く人によっては、オフマイクを少しブレンドしたように感じられるかもしれません。ちなみに、ギターのパラレル・コンプにもBF76を使うことが多いですね。
AVID BF76 Compressor
コラム:“パラレルEQ”なるテクニック
上の画面は、題材曲「Freedom Ride」のベースでパラレル・ディストーションに併用したEQ、FABFILTER Pro-Q3です。例によってAUXトラックに立ち上げたものですが、パラレルにEQを使うというのはア・トライブ・コールド・クエストなどを手掛けたエンジニア=ボブ・パワーが1990年代に既に実践していたと言われています。
当時はレコードからサンプリングしたネタを元にヒップホップなどのトラックを作ることが多かったので、“低域をもっと効かせたい!”となったらサンプル……つまり2ミックスを加工しなければなりませんでした。そこで、卓に立ち上げたPULTECのEQなどで高域をカットしつつ低域を持ち上げ、元のサンプルに足すような音作りがなされていたようです。インサートEQでの低域ブーストを行わなかったのは、ネタのニュアンスをじかに変えたくなかったからではないでしょうか。ここにもパラレル処理の“元の質感を生かす”というポテンシャルを見ることができます。
【特集】パラレル・コンプ、炸裂!
解説:福田聡
【Profile】フリーランスのレコーディング/ミキシング・エンジニア。ファンクやR&Bといったグルーブ重視のサウンドを得意とし、堂本剛のプロジェクトENDRECHERIやK、オーサカ=モノレール、リベラル、WAY WAVE、Shunské G & The Peas、Keyco、マーサ・ハイらの作品を手掛ける。
連動音源提供アーティスト:Keyco
【Profile】本特集の連動音源にもなった「Freedom Ride」は、シンガー・ソングライターKeycoの楽曲。ネオ・ソウルを軸にさまざまなフィールドで活躍する彼女は、2020年にメジャー・デビュー20周年の記念アルバム『あいいろ』をリリース。椎名純平、COMA-CHI & CHAN-MIKA、PUSHIMなど多彩なゲストを迎え、ソウル~R&B~ダンス・ミュージックを吸収した独自の世界を作り上げている。「Freedom Ride」は『あいいろ』の2曲目に収録。
編集部便り〜パラレル・コンプT、発売中!
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