名スタジオのモニター環境をヘッドフォンで再現〜WAVES Nx Ocean Way Nashville

名スタジオのモニター環境をヘッドフォンで再現〜WAVES Nx Ocean Way Nashville

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山中 剛
【Profile】山梨県のプライベート・スタジオを拠点に活動するアレンジャー/プログラマー。1980年代より活動し、近年は大手ブランドのCMや映画、TVドラマの劇伴制作にも多数参加している。

ヘッド・トラッキングに対応、頭のサイズやヘッドフォンに合わせた設定も可能

 人が左右2つの耳で音源の方向や距離を認識する仕組みを解析し、ヘッドフォンの中に疑似的な3D空間を構築可能にしたのがWaves Nxというテクノロジー。そのバイノーラルを元にした先進的な技術を用い、世界有数の録音スタジオ、オーシャン・ウェイ・ナッシュビルのモニター環境をヘッドフォンの中にバーチャルに再現したのがNX Ocean Way Nashvilleです。ユニークなのがヘッド・トラッキング機能で、オプションのNx Head Trackerを使用すると、頭の位置情報を検知し右を向けば左側から左を向けば右側からと、まるで実在しないスピーカーが正面にあるような音響のVRを体感できます。なおレスポンスや精度に差はあるようですが、コンピューターの内蔵カメラや外付けWebカメラなどを使ってもヘッド・トラッキング機能は使用可能です。

 

 さて、Nx Ocean Way Nashvilleは基本的にマスター・トラックの最終段にインサートします。インサートすると自動的にヘッド・トラッキング機能に使用するデバイスをコネクトするためのHead Trackerが起動するので、そこで使用機器を選択します(ヘッド・トラッキング機能を使用しないのであれば何も設定しなくても大丈夫です)。

 

 操作はいたってシンプルで、画面左のHR5/HR1のボタンはニアフィールド/ラージのスピーカー切り替え(画面①)。その下は先ほどのヘッド・トラッキング機能に関しての設定で、オン/オフや自分が現在向いている方向を正面とセットするCARIBRATEなどがあります。中央にあるのはROTATE STUDIOセクションで、ヘッド・トラッキング機能をオフにした場合でもスライダーを操作することで”首を回した状態”でモニターでき、それに応じて画面もスタジオの室内をぐるりと360度回転します。

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画面① コンソール上のニアフィールド・モニターHR5と壁面に埋め込まれたラージ・モニターHR1はいずれもOCEAN WAY AUDIOの製品。“オーシャン・ウェイ・ナッシュビルでこれらのモニターを鳴らした音”を再現する

 右上にあるAMBIENCEはセンターがデフォルトの100%で、最少60から最大160の間で設定可能。その下が補正EQプリセットで、現時点で12機種のヘッドフォン用のプリセットが用意されています。一番右下にあるのがHEAD MODELINGで、バイノーラル効果を計算するために重要な頭のサイズを入力するセクション。目の上辺りの頭の外周と後頭部の耳穴から耳穴への半円周を入力します(画面②)。

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画面② 下のHEADPHONE MODELINGでは、CIRCUMFERENCEに頭の外周サイズ、EAR TO EARでは耳から耳までの後頭部周長を入力することで、バイノーラル効果の最適化が図れる。測定結果はプリセットとして保存/呼び出しが可能。上のHEADPHONE EQは、AKG、BEYERDYNAMICS、SENNHEISER、SHURE、SONYなどのヘッドフォン特性がプリセットとして用意。筆者はEQプリセットが用意されているもの1機種と、プリセットの無い2機種、計3台のヘッドフォンでテストしたが、プリセットが無いものでも十分効果と実用性があると感じた

わずかなルーム・アンビエンスが付加され、音像全体を把握しやすい

 “ヘッドフォンでルーム・アンビエンスを含めモニタースピーカーをシミュレートする”というアプローチが一番明確に分かるのが、全体の音像の変化。スピーカーに向き合っているようにやや前方に感じられるその音像感は、今までヘッドフォンで経験したことが無いものです。

 

 通常ヘッドフォンはスピーカーと比較すると音源が近付き、頭を中心に取り囲むように音像が変化します。音楽を鑑賞する上ではその没入感は心地良いものがあるのですが、ミックスなどの制作作業では定位やリバーブなどの奥行き感を判断するのが難しくなる傾向がありました。バイパス状態と聴き比べると若干センターがにじむような感じがしますが、わずかにルーム・アンビエンスが付加された音像は全体を把握しやすく、バランスや定位といった基本的で重要なポイントが判断しやすくなっていると思います。

 

 またニアフィールドとラージの切り替えもそれぞれの特性が反映されていて実用性が高く気に入りました。バイパスも含め、用途に応じて選択すれば、今まで以上に精度の高いミックスやサウンド・クリエイトが可能になると思います。

 

 今後ホーム・スタジオ・ユーザーにとってはマスト・アイテムになるのではないか? そんな予感さえ起こさせます。

 

WAVES Nx Ocean Way Nashville【モニタリング補正】

26,290円

 Requirements 
■Mac:macOS 10.13.6(High Sierra)〜11.2(Big Sur)、INTEL Core I5/I7/I9/Xeon
■Windows:Windows 10(64ビット、2014年以降)
■AAX/AU/VST3プラグイン、SoundGrid

 

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