ニラジ・カジャンチ×TIERRA AUDIO New Twenties & Flavours Preamps

ニラジ・カジャンチ

スペインのプロオーディオ・ブランド、TIERRA AUDIO。このたび1920年代のビンテージ機のデザインを踏襲したコンデンサー・マイクNew Twentiesと、7種類の調味料の名前が付けられたインライン・プリアンプ、Flavours Preampsが日本に上陸したので、エンジニアのニラジ・カジャンチ氏に試していただいた。

Photo:Hiroki Obara

テープで録るような質感を狙いつつもモダンな仕上がりに

New Twenties|オープン・プライス:市場予想価格154,000円前後

New Twenties|オープン・プライス:市場予想価格154,000円前後
1920年代のカーボン・マイクのデザインを踏襲したコンデンサー・マイク。ラージ・ダイアフラム・エレクトレットカプセルを採用した単一指向性のモデルだ。ネオジム磁石でワンタッチ着脱が可能な専用ポップ・シールドが付属する

 まずはNew Twentiesを試していただいた際の印象について伺った。ハイミッドのひずみが特徴的なことから、マイクで音に味付けをしたいときに使えると思ったという。

 「1920年代のサウンドを意識したとのことですが、ビンテージ・マイクと比べるとワイド・レンジで音量が大きく、モダンさを感じました。古いアナログ・テープで録音しているような音を狙いつつも、現代的に仕上げたいときに使えるでしょう。特にシンガー・ソングライター系やジャズのボーカルに合うと思いました。金属製のポップ・フィルターがかなり分厚く、ディエッサー的な役割を十分に果たしてくれるので、柔らかい音でレコーディングできます」

 New Twentiesはボーカルだけでなく、音が小さめの楽器に使うのもよさそうだという。

 「ドラムやパーカッションなど音量の大きな楽器より、アコースティック・ベースやアコースティック・ギターなどに合うと思います。このマイクで録音すればパンチのある音になるので、ミックスでの処理がしやすくなるでしょう」

 ニラジ氏は、New Twentiesと併せて、TIERRA AUDIOのリボン・マイクBambooシリーズ(日本未発売)を試す機会があったという。

 「Bambooシリーズの3機種をドラムのルーム・マイクとして使ってみたのですが、どれも古すぎないサウンドのリボン・マイクで、僕が普段使っている他社製品と比べても非常に良い音でレコーディングできました。ドラム以外のどんな楽器に使っても相性が良かったです」

各機種に明確な個性を感じる

Flavours Preamps|オープン・プライス

Flavours Preamps|オープン・プライス
ダイナミック・マイクやリボン・マイクのゲイン・ブーストに使うインライン・プリアンプ。左からTruffle(市場予想価格:30,800円)、Cocoa(市場予想価格:38,500円)、Mint(市場予想価格:31,900円)、Chilli(市場予想価格:34,100円)、Vanilla(市場予想価格:31,900円)、Pepper(市場予想価格:20,350円)、Salt(市場予想価格20,350円)

 続いて7種類のインライン・プリアンプ、Flavours Preampsへの印象を伺った。インライン・プリアンプとは、ダイナミック・マイクやパッシブ・リボン・マイクを使用する際、マイクプリで十分なゲインを得られない場合に、マイクとマイクプリの間に接続して使うゲイン・ブースト用の機器だ。

 「これだけ多彩なラインナップをそろえているメーカーはなかなかありません。イメージする録り音に合わせて使い分けられますし、外観からしても“エンジニアにとってのコンパクト・エフェクター”といった感じですね」

 ニラジ氏はFlavours Preampsをロック・バンドのレコーディングの際に試したそうだ。

 「クリーンなマイクプリの手前にFlavours Preampsを入れて、各メンバーの楽器に試しました。取扱説明書にはSaltが一番ナチュラルだとありましたが、僕の感覚ではPepperが一番フラットで、ナチュラルに感じましたね」

 ベースにはひずませるためにChilliとTruffleを試してみたという。

 「最初にChilliを入れてみると、ローミッドがかなりひずみました。ひずみの成分が低いところにありすぎるかなと思ってTruffleに変えてみたところ、ハイミッドにひずみが現れて、ちょうど良い感じになりました。とは言え、どちらも音がかなり太くなって良かったです」

 アコースティック・ギターを録音する際、マイクの性質に合わせてMintとVanillaを使い分けたという。

 「まずはNEUMANN U67にMintを使ってみたところ、高域の伸びがすごく良くなって、録ったそばから既に処理したような音が得られたんです。次に、U67よりもブライトなBRAUNER VM1にVanillaを使ってみたところ、14kHzより上のピークが抑えられ、バランスの良い音になってくれました」

 Cocoaは、特にコーラス録りで力を発揮するだろうと語る。

 「高域がマイルドになりつつボトムの方に厚みが出るので、日本人の声質にマッチする場合が多いと思います。現場がタイトであっても、Cocoaを使って録音すればメイン・ボーカルと相性の良いコーラスが容易に得られそうなので、頼もしいですね」

 機種ごとに個性が際立つ7種類のFlavours Preamps。これらがもたらす音色変化をEQやマイクと比較しながら、ニラジ氏はこう振り返る。

 「EQをかけると位相感が変わってしまいがちですが、Flavours Preampsならそのリスクを負わずに周波数キャラクターをアレンジできるのが良いですね。例えるなら、マイクを変えることで録り音の特性を変化させるような感じ。録音後のEQを大幅に減らせそうなので、エンジニアにとってもメリットだと思います」

 Flavours Preampsはプロのエンジニアだけでなく、自宅環境で音楽制作に取り組む人にもお薦めできるという。

 「録音後に直せばよい、という考え方がある一方で、Flavours Preampsのように“録りの段階である程度キャラを作っておく”という機材も良いものです。エディットに偏りがちな方は、一度Flavours Preampsを試してみると、普段とはまた違った面白いサウンドに出会えるかもしれません。また、日本では音についてテクニカルなことを考えがちですが、TIERRA AUDIOの製品には遊び心があって、“もっと音楽を楽しめばいいじゃないか”というメッセージを感じました」

 

ニラジ・カジャンチ
【Profile】NYやLAでエンジニアとして活動し、ボーイズIIメンやマイケル・ジャクソンらの作品に携わる。日本移住後は三浦大知、氷川きよし、小曽根真、つじあやの、Newspeak、T-SQUARE、ホロライブ、あんさんぶるスターズ!!などを手掛ける

 

レポート前編では、創業者の一人であるハビエル・パスカル氏へのインタビューを通して、TIERRA AUDIOの魅力に迫ります。

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