TIERRA AUDIO創業者インタビューからNew Twenties & Flavours Preampsの魅力に迫る

TIERRA AUDIO New Twenties & Flavours Preamps

2018年にエスター・グテレス氏とハビエル・パスカル氏により、スペインのマドリッドで創業されたプロ・オーディオ・メーカー=TIERRA AUDIO。このたび、1920年代のカーボン・マイクを思わせるコンデンサー・マイクNew Twenties(トップ写真左)や、7種類の調味料の名前が付けられたインライン・プリアンプ、Flavours Preamps(トップ写真右)が日本に上陸した。同社の製品はすべて“サウンドにカラーを与える”ことをコンセプトに開発されているという。メーカーへの取材を通して、その魅力に迫っていこう。

Photo:Hiroki Obara(トップ写真) Translation:Tomohiro Moriya

ダイバーシティとサステナビリティを意識した製品開発

TIERRA AUDIOの創業者の一人であるハビエル・パスカル氏(写真右側)

 TIERRA AUDIOの創業者の一人であるハビエル・パスカル氏(写真右側)にE-Mailインタビューを敢行。ブランドの成り立ちや製造工程におけるこだわり、日本での販売が開始されたコンデンサー・マイクNew Twentiesやインライン・プリアンプFlavours Preampsへ投入された技術について話を聞いた。

アナログなフレーバーを求める方にお薦めの製品群

TIERRA AUDIOの設立の経緯を教えてください。

 TIERRA AUDIOは、プロ・オーディオの産業にさらなる価値を与えることを目標に掲げて生まれました。数え切れないほどの競合他社があることは分かっていましたが、まだ何かをやれる余地があることを確信していました。2020年中頃まで、私たちの製品はスペイン国内でのみ展開していましたが、翌年にはディストリビューター各社との提携によって18以上の国々で展開を開始しました。現在では26以上の国々で製品を販売しており、日本は最も直近で私たちの製品を届けることができるようになりました。

スタッフ数は何人ですか?

 私たちはとても小さな会社で、現在10人の従業員がいます。3つの主要な部門があり、共同設立者にしてCTOであるエスター・グテレスが率いる生産/製造部門、私が率いるセールス部門、そしてジェイク・ヘンソンが率いるマーケティング/広報/コンテンツ製作部門で構成されています。私たちは共に作業することを好み、互いを常に助け合っています。

プロ・オーディオ・ブランドは数多く存在しますが、その中でTIERRA AUDIOは何を特徴としていますか?

 私たちは、既存の製品とは異なるカラーや機能を提供すること、そして現代の作業環境において使い勝手が良いものにすることを目指しています。例えば私たちは多くの製品に、サウンドへカラーやテクスチャーを与えることができる“Oomph!”という設定値を持たせています。これは、アナログのトランスに由来する“ハーモニクス”のおかげで達成できているのです。私たちは採用するトランスにベストを尽くさなければならないことを明確に意識していて、特にLUNDAHLとは素晴らしい関係を維持しています。彼らのトランスを愛していますし、私たちが追い求めるサウンドにパーフェクトにフィットしているんです。もし、アナログなフレーバーを排した完全にトランスペアレントなサウンドを求めるならば、私たちの製品はお薦めできないかもしれません。従来と異なる音楽的なディストーションを求める方に、ぜひトライしていただきたいです。

製品の製造工程におけるこだわりを教えてください。

 すべての製品をスペインのマドリッドにて、ハンドメイドで製作しています。マドリッドを拠点としたのは、スペイン国内のオーディオ/音楽産業のさまざまな組織とつながっていられるからです。また、私たちは環境への配慮についても心がけています。製品は、可能な限り環境に優しい電子部品や鉛を含有しないハンダを使い、ステンレス・スチールやアルミニウム、竹や桐などの木材など、リサイクル可能な素材で設計しています。そして、可能な限りパラメーターの表示にはペイントを用いず、レーザーで刻むようにしています。もちろんパッケージも完全にリサイクル可能です。しかし、企業活動によって常に二酸化炭素を発生させていることは事実であり、ここまで述べてきた活動だけで十分だとは考えておりません。私たちは製品を1台販売するごと(マイクは5本ごと)に、1本の植樹を行っています。そして、私たちは植樹した木の写真と、その位置を記録したGPS情報を製品のシリアル番号とひも付けて管理しています。

Icicle Equalizerをはじめとするアウトボード(日本未発売)のパネルに木材を採用するなどデザインが特徴的ですが、どのようなコンセプトを掲げているのでしょうか?

 私の弟は家具職人としても活動するデザイナーで、彼の影響で木材と鉄を組み合わせることが好きになりました。木材はニュアンスや質感を有する素材です。私たちがチャレンジしたのは、過剰なまでに精巧なプラスチックをベースとしたシェイプから脱却することでした。古くから使われ続けてきた木材という材料を用いつつも、モダンな何かをまとったシンプルで魅力的なデザインにしたかったのです。誰もが“これはTIERRA AUDIOの製品だよ”と言ってくれるような、オリジナルのデザインを目指しました。私たちの製品は、どの個体にも独自の個性が宿り、同じものは一つも存在しません。わざわざ工場にやってきて、最も気に入った木材のフロント・パネルを選んでいくお客様もいます。

4バンドEQのIcicle Equalizer(日本未発売)。フロント・パネルには木材が使用されており、パネルの表示はすべてレーザーで刻まれているのが分かる

4バンドEQのIcicle Equalizer(日本未発売)。フロント・パネルには木材が使用されており、パネルの表示はすべてレーザーで刻まれているのが分かる

1920年代にインスパイアされたコンデンサー・マイクと7種類のインライン・プリアンプ

コンデンサー・マイクNew Twentiesについて、1920年代に見られたカーボン・マイクのデザインを踏襲したのはなぜですか? また、どんなサウンドを狙って開発したのでしょうか?

 New Twentiesのインスピレーションを得たのは、エスターと一緒にNetflixの配信映画『マ・レイニーのブラックボトム』を見ていたときのことでした。マ・レイニーと彼女のバンドは、美しい音楽をエレガントなカーボン・マイクの前で、ラフでありつつも堂々と演奏していました。私はこの輝かしい時代と当時のプレイヤーたちへのオマージュとなるものを生み出さなくてはならないと悟ったのです。こういった経緯により、磁力によってセットするポップ・ガードをはじめとする、ユニークな装飾パーツを設計しました。しかし、New Twentiesは単にビジュアル的な要素のみを追求したものではなく、サウンドもとても特別で強烈なキャラクターを持っています。ラージ・ダイアフラム・エレクトレット・カプセルを搭載し、さらにはLUNDAHLのライン・トランスフォーマーを組み込みました。マイクにライン・トランスフォーマーを用いるなんて非常識であることは分かっていますが、重要なのは音が良いか否かです。私たちが作り出したものは温かくクリーミーで、ハーモニクスがリッチである一方、現代のプロダクションにおいて必要とされる存在感や明りょう感を得るために十分なだけのトレブルを持たせています。

New Twenties|オープン・プライス:市場予想価格154,000円前後

New Twenties|オープン・プライス:市場予想価格154,000円前後
1920年代のカーボン・マイクのデザインを踏襲したコンデンサー・マイク。ラージ・ダイアフラム・エレクトレットカプセルを採用した単一指向性のモデルだ。ネオジム磁石でワンタッチ着脱が可能な専用ポップ・シールドが付属する

インライン・プリアンプのFlavours Preampsの開発コンセプトを教えてください。

 Flavours Preampsは私たちが非常に気に入っている製品の一つです。アイディアは2020年に生まれました。私は難しい手術を受けて2週間ほどベッドで安静に過ごしていました。食事について考える時間がたっぷりあったことから、色づけのないサウンドが“フレーバー”によってどの程度変化させられるかについてエスターと話していたんです。その中で、サウンドに“フレーバー”を与える“オモチャ”を作るのに必要なノウハウが自分たちにはあると感じました。そして、7種類の個性ある“フレーバー”、Salt、Pepper、Vanilla、Chilli、Mint、Cocoa、Truffleができました。これらはすべて、それぞれの製品名の“味”から連想されるようなサウンドを得ることができます。

Flavours Preamps|オープン・プライス

Flavours Preamps|オープン・プライス
ダイナミック・マイクやリボン・マイクのゲイン・ブーストに使うインライン・プリアンプ。左からTruffle(市場予想価格:30,800円)、Cocoa(市場予想価格:38,500円)、Mint(市場予想価格:31,900円)、Chilli(市場予想価格:34,100円)、Vanilla(市場予想価格:31,900円)、Pepper(市場予想価格:20,350円)、Salt(市場予想価格20,350円)

現在は、New TwentiesとFlavours Preampsのほかにマイクプリ、EQ、サミング・アンプ、コンプレッサーがリリースされています。

 私たちの製品ラインナップの豊富さは、レコーディングからミックス、マスタリングまで、音楽制作の広い範囲に価値を与えたいという思いを反映したものです。それと同時に、プロ・オーディオ産業に漂う“上級者向け”というイメージからは距離を置きたいと思っています。私たちの製品はエキスパートからビギナーまで、すべての人たちにとって、高い付加価値のあるツールです。音楽や音響の世界に一歩を踏み出そうとしている若い人たちの多くは、自分たちの創造のみならず、音自体にもオリジナリティを求めています。そして、多くの人々がTIERRA AUDIOの製品のサウンドやデザインに独自性を見いだしていて、費用対効果が高いとおっしゃってくれています。“ダイバーシティ”と“サステイナビリティ”が、私たちの活動のすべてに通じる言葉であり、会社として行っていくべきミッションなのです。

レポート後編では、エンジニアのニラジ・カジャンチ氏によるNew TwentiesとFlavours Preampsのレビューを紹介します。

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