注目の製品をピックアップし、Rock oNのショップ・スタッフとその製品を扱うメーカーや輸入代理店に話を聞く本連載。今回はECLIPSEのスピーカー、TD307MK3を紹介する。“音楽波形の正確な再生”に基づいて設計されたECLIPSEのスピーカーは、ミックスやマスタリングなど正確な音の再現が求められる現場で高い評価を得てきた。同シリーズでもっともコンパクトなモデルであるTD307が第3世代となり、独自の形状と構造で目指した無色透明なサウンドにより磨きがかかったという。TD307MK3について、デンソーテンの日比野研氏とRock oNの松本章吾氏に語っていただいた。
Photo:Takashi Yashima(メイン)
TD307MK3
27,500円(1台)
●ECLIPSEのスピーカーは今年で20周年ですね。
日比野 2001年からホーム・オーディオに参入したので、そうなりますね。デンソーテンはカー・エレクトロニクスを中心に手掛けてきた会社ですが、その中のオーディオ事業の技術者が“音の無色透明性”を目指して開発がスタートしました。そのコンセプトは変わらずに現在も開発を行っています。
●コンセプトと同じく、卵型の独特な形状も変わっていません。どういう理由からこのような形となったのでしょうか?
日比野 デザインありきで作られたわけではなく、正確な音の再生を追求した結果です。なるべく筐体に面を作らないようにし、内部と外部の両方で音の反射を抑えています。
●その効果はモニターするサウンドで感じられますか?
松本 かなり感じられると思います。以前、四角い他社スピーカーとECLIPSEスピーカーを聴き比べる機会があり、そのときにそれぞれのスピーカーにオルゴールを乗せるという実験が行われました。四角いスピーカーでは筐体が共鳴してオルゴールの音が大きくなったのですが、ECLIPSEはそのままのオルゴールの音が鳴っていたんです。ボディの形状が音へ影響するのを体感できた瞬間でした。
日比野 振動が筐体に伝わってスピーカーの箱の音が鳴ってしまうと、再生される音にそれが乗ってしまうんです。そうなると、再生される音は音源に正確とは言えませんよね。さらに、筐体に面があると再生された音が反射し、不要な余韻も生まれてしまいます。インパルス応答での正確性を追求し、反射を抑えた形状と振動を防ぐ内部構造となりました。
●内部構造としてはどんな特徴を持っているのですか?
日比野 多くのスピーカーでは振動板を筐体にネジ止めしていますが、ECLIPSEは内部のパーツで支えられています。ネジ止めされていると筐体に振動が伝わるためです。振動板の純粋な音を聴いてもらうための構造になっています。
松本 音のことを考えて不要なものをできるだけ排除しようと突き詰めているのがECLIPSEですよね。でも、振動板をネジ止めしている他社製品が振動の悪い影響を受けているというわけではなく、それらは振動の影響も考えて設計し、スピーカーのキャラクターへ落とし込まれています。ECLIPSEはそういったスピーカーとはまた違った路線で音を追求している、強い個性を持ったスピーカー。だからこそ長年使い続けるファンも居るんです。
●フルレンジのドライバーを採用しているのも特徴です。
日比野 周波数特性を考えた場合は2ウェイや3ウェイの方が有利です。しかし、インパルス応答で見ると、ツィーターとウーファーから音が一つのまとまりとして出るのはなかなか難しい。不要な余韻があるような感じに鳴ってしまうんです。フルレンジでは超高域や超低域は不利になりますが、1つのユニットのため音の時間軸の正確性を追求できます。ECLIPSEでは時間軸を優先することで音の無色透明性を目指しているんです。
●実際の音はどのようなキャラクターなのでしょうか?
松本 とにかく定位感が明りょうです。ミックスにおいてバランスを取るときには重宝するでしょう。また、無理をしていないサウンドと言えます。最近では小さいサイズのモニター・スピーカーでも驚くほど低域が出るものがありますが、やはりどこか無理をしている印象も受けるんです。
●新たに登場したTD307MK3は、それらの特徴を持ちつつコンパクトなサイズを実現したスピーカーです。前モデルとどのような違いがあるのですか?
日比野 前モデルのTD307MK2Aと比較すると、少しだけサイズが大きくなっています。高さは17mm、横幅は5mm、奥行きは8mm大きくなり、エンクロージャー内部の容積で言うと200ccほど増えました。また、ドライバーは紙パルプからグラスファイバーへと変更されています。紙パルプはレスポンスが良いのですが、軽いために不要な残響が生まれる場合もありました。グラスファイバーになることで剛性がアップし、残響を低減させることができます。ほかにも磁気回路の見直しや、振動板のセンター・キャップの裏側にバランサーというゴム系素材を貼り付けて不要共振を抑制したりと、細かいこだわりを盛り込んでいます。
●サウンドにはどのような変化が?
日比野 筐体の大きさとドライバーの変更により、以前は100Hzまでだった低域再生能力が80Hzまで向上し、さらに中域と高域の音圧アップにもつながりました。また、振動板の振幅と直線動作領域が拡張したこともあり、サウンドに余裕が出ています。前モデルから温め続けたアイディアの集大成で、私自身も“ここまでするのか”と驚いたほどです。
●TD307MK3はパッシブ・スピーカーですが、無色透明なサウンドゆえにパワー・アンプ選びに悩みそうですね。
日比野 やはりできるだけシンプルなパワー・アンプの方が合うかと思います。余計な回路が入ることで、インパルス応答の正確性に影響が出てきますから。
松本 今はパワードが主流ですし、パワー・アンプの選択肢も狭くなってしまっているので難しいところです。以前はECLIPSEもパワー・アンプを出していましたし、TD307MK3用のものがあるといいかもしれません。あとはパワード・モデルを新たに出してくれるとうれしい。TD-M1というパワード・モデルがありましたが、そちらも無理のない音で素晴らしかったんです。サラウンド・システムにも合うと思いますし、ECLIPSEのパワード・モデルは今後に期待したいですね。
●音の正確性を目指してさらにブラッシュアップされたTD307MK3は、どのような人にお薦めできるでしょうか?
日比野 空間表現に優れていて、アーティストの演奏や歌がよく感じられるんです。ホーム・オーディオとして音楽好きの方に使っていただくのはもちろん、制作をされる方にとってもそのサウンドは生きてくるでしょう。TD307MK3だからこそ感じられる音というのがあるので、自分の表現したい音を作り込む際に力になってくれるスピーカーだと思います。
松本 コンパクトなので、例えば大きい口径のスピーカーをメインにしている人がサブとして使うなども考えられます。歌の聴こえ方のチェックもしっかり行えそうです。また、長時間聴いていても聴き疲れしないため、制作だけでなく動画視聴などの普段使いとしても便利。そして、この見た目ですから、ほかとは違った個性的なスピーカーを選びたいという人にはお薦めしたいです。
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