Pro Tools|Carbonユーザー・レポート 飯尾芳史 自身のワークスタイルを拡張するI/O

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 エンジニア/プロデューサーの飯尾芳史氏。アルファレコードのスタジオ"A"出身で、YMOなどの録音に携わった後、1982年に細野晴臣『PHILHARMONY』でエンジニア・デビュー。以降、矢野顕子、THE BEATNIKS、渡辺美里、藤井フミヤ、竹内まりや、松たか子、のん、スキマスイッチ、矢沢永吉など数多くのアーティストの作品を手掛けている。そんな氏が、昨今のコロナ禍の中で手に入れたのがAVID Pro Tools|Carbonであった。

解像度が上り自然に聴こえる出音

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飯尾氏が所有するPro Tools|Carbon

 飯尾氏といえば、1990年代末、まだPro Toolsが商業スタジオに導入される前から、自身でPro Toolsシステムを持ち、長く使ってきたことでも知られている。

 

 「最初のころはまだスタジオにPro Toolsが無かったので、自分で買って持ち歩いて、移動スタジオみたいにやっていました。今はどこのスタジオにも必ずありますし、自分で持っていく必要も無いなと思っていたんです」

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2002年6月号「Pro Tools|HDの世界」より。1998年にPro Tools|24 Mixを導入した経緯を語っている

 そう語る飯尾氏。エンジニアとしてのレコーディングやミックスはプロとしてのクオリティが担保できるスタジオで行い、自宅に持ち帰るべきではないという考えを長く抱いていた。しかし、2020年からの新型コロナ・ウィルス禍に、その考えを改めざるを得なくなる。

 

 「奇しくもコロナでスタジオに入れない時期もあり、自宅でミックスをしなければいけないみたいなことになってしまった。でも、スタジオに置いてある大量の機材を持って帰るのも変な話だなと。作曲やアレンジのためにCPUネイティブのシステムは以前から自宅に置いていたんですが、自宅でミックスに近いところまでやるとなると、アップグレードしたい。そうは言っても、サブシステムにPro Tools|MTRXは大げさだろうな……と。それでリサーチしたり、同業者に電話して聞いたりして、Pro Tools|Carbonを借りてみたんです。普通に接続して音を出した段階で、音がすごく良かった。本当にびっくりしました」

 

 デジタル・オーディオにおいては、新しい製品こそ性能の良い製品であることが常であるが、飯尾氏はそうは考えていない。自身が納得できないものは、たとえスペック的に向上していても、自らのツールとして導入することはなかった。

 

 「いつも新しいオーディオI/Oが出て、これが良い音だと言われると、確かにそうなんですけど、僕にとって魅力的な音では無いことがこれまで多かったんです。レンジが広がる分、フォーカスのまとまりの無い音になるように感じられて。自分が慣れるしかないし、もちろんミックスの手法もそれで変わるでしょうし、そのときそのときの音を作っていくんですが、使い慣れたものを捨ててまで買い換える必要はないんじゃないかと思っていましたし、今でもそう思います。でも、Pro Tools|Carbonは解像度が上がったけれど、嫌な感じが無くてすごく自然に聴こえる……これなら行ける!と思ったんです」

 

普段スタジオで録っているのと同じような気持ちで録音できる

 こうして導入したPro Tools|Carbonは矢野顕子の最新アルバム『音楽はおくりもの』の制作でも重用された。ミックスの仕込みはもちろん、飯尾氏はエンジニアリング以外に、デモやアレンジなども手掛けている。例えば、『音楽はおくりもの』ではリモート・レコーディングされた「愛を告げる小鳥」のベーシックや、映画『音響ハウス Melody-Go-Round』のテーマ曲アレンジなどは、自宅で打ち込みなどを行っている。

 

 「これまでは、例えば自宅でデモにギターを入れたいなというときに、モニターが遅れてくる。だから、DAWを通ってくる音はカットして、ギターの生音を聴きながら録音していました」

 

 もちろん、ダイレクト・モニタリングできるようにモニター・ミックスを作れば、CPUネイティブのDAWでもレイテンシー無くモニターできる。しかし、飯尾氏が言っているのはそういうことではない。

 

 「レイテンシーのことを考えると、パッパッパッと録れないんですよ。Pro Tools|Carbonがあることで、Pro Toolsからのモニターも遅れが無くなって、普段スタジオで録っているのと同じような気持ちで録音できる。これまでPro Tools|HDXシステムでないとできなかったことが自宅でもできるようになって、ここまでPro Toolsが降りて来てくれたのたか!?と思ったんです」

 

 プリアンプを8基内蔵しているのも、Pro Tools|Carbonの大きな特徴。だからこそこうした飯尾氏の自宅での作業も円滑に行える。

 

 「例えば、矢野さんのアルバムのときにはまだ導入前でしたけど、林立夫さんのご自宅にPro Tools|Carbonを持っていってドラムを録る、といったことも全然できますね。Pro Tools 2021.10から、Pro Tools側からPro Tools|Carbonのゲインなどもコントロールできるので、アプリのPro Tools|Controlを入れたAPPLE iPadをブースに持っていって操作するといったこともできるのは便利そうです。入力インピーダンスの変更もできるし、使い勝手も良いです。そういうことがPro Tools|Carbonで簡単にできてしまうと分かってしまったんです」

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Pro Tools|Carbonは8chのアナログ入力にプリアンプを装備。フロント・パネルのZボタンを押すことで入力インピーダンスの切り替えも行える(マイク入力では3段階)

 そう語る飯尾氏。冒頭で「今はどこのスタジオにもPro Toolsがあるから」と語りながらも、拠点の一つであるモウリアートワークスで作業する際には、APPLE MacBook Pro+Pro Tools|Carbonを持ち込むことも多いらしい。

 

 「自分のMacBook Proにしか入っていないものもあるから、これを持っていくことも増えました。僕はスタジオで集まって、音楽を作るのが楽しいと思っていますが、自分の方法に固執し過ぎて頑固ジジイみたいになるのは怖いですよ。僕らも若いころは“うるせー!ジジイ”って思いながら過ごしていましたが、今となっては“うるせー!ジジイ”って言われたらうれしい(笑)」

 

 最後にそう笑う飯尾氏。スタジオ・マジックを信じながらも、さらなるアプローチへ向かうツールとして、Pro Tools|Carbonも長く使われることになるだろう。

 

12月31日までの購入でAuto-Tune Hybrid&Pro Tools | Ultimateが提供

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 Pro Tools|Carbonを2021年12月31日までに購入すると、ピッチ補正プラグインANTARES Auto-Tune Hybrid(AAX DSP)と、Pro Tools|Ultimateの永続ライセンスが無償提供される。総額30万円相当のバリューを手にできるチャンスだ。

キャンペーン詳細

 

Pro Tools|Carbon製品情報

 

 

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