SHIBUYA DIVE|音響設備ファイル【Vol.64】

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渋谷駅から徒歩12分ほどのところに位置するライブ・ハウスSHIBUYA DIVE。テナント入居するビルの設計時からかかわり“ライブ・ハウスを造ることを想定して作られた空間”というのは珍しい。また、導入されたスピーカーはDBTECHNOLOGIESのラインアレイVIOシリーズとVIO-Xシリーズで、この組み合わせでの導入は国内初だという。どのようなシステム構成になったのか、写真とともにレポートしていこう。

Text:Mizuki Sikano Photo:Chika Suzuki

 

ラインアレイでフロア奥まで奇麗な音を送る

 SHIBUYA DIVE(以下DIVE)は渋谷と恵比寿の間に位置するライブ・ハウスで、2020年12月にオープンしたばかり。ビルの設計からかかわり、最適なライブ・ハウス作りに取り組んだと語るのが、同社のライブ・ハウスCLUB CRAWL(以下CRAWL)の責任者を担当した後、現在DIVEの店長を務めている柳内敦夫氏だ。

 

 「CRAWLよりもキャパシティが大きい、400人を収容できるライブ・ハウスを作りたいと考えていたところ、3年前にこのビル(シブロジ)のオーナーから弊社の代表、近藤竹湖に竣工前の情報をいただきました。ビル自体の設計から携わることで、無駄な柱も無い真四角のフロアなど、僕らが理想とするライブ・ハウスを実現できたと思っています」

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左上からエムテック・スタイルの吉野耕二郎氏、ティアック音響事業部の島川大輝氏、アコースティックエンジニアリング高野美央氏、エンター・サンドマンの橋本純平氏、松浦敬一郎氏。左下からティアック音響事業部の内田哲氏、アコースティックエンジニアリング入交研一郎氏、SHIBUYA DIVEの店長=柳内敦夫氏、エンター・サンドマン土橋慎太郎氏

 DIVEの音響設計を務めたアコースティックエンジニアリング代表=入交研一郎氏のところに本計画の話が来たのは、2018年末のことだったという。

 

 「近藤さんと柳内さんからは、フロアの中央とかに柱を設置したくないこと、十分な天高、トイレ数、楽屋数、電力容量の確保、そして400人収容可能であることなど幾つかリクエストをいただいていました。でも相談を受けた当初の設計図はそれらを叶えるものではなかったので、逆梁の提案や階段や入り口の位置も変えた設計図を僕が描いて、ビルの設計側とやり取りを重ねていったんです」

 

 設計が固まったのが2019年3月ごろ。その後、音響システムに取り掛かったという。柳内氏のリクエストは“オール・ジャンルへの高い対応力と十分なパワー感”だった。機材選定を行ったのはエンター・サンドマンの代表、土橋慎太郎氏だ。

 

 「入交さんから設計図を見せていただいた後は、AFMG EASE Focus 3という、スピーカーから放出される音の分布をシミュレーションするソフトを使って、スピーカーの個数/角度/性能を検討しました。フロアの後ろ半分は天井が低くなるので、2階席にも奇麗に音を届けるためにラインアレイのスピーカーにして、1階席にも十分音が行き届くようにディレイ・スピーカーを設置することになりました。そうやってシミュレーションを重ねる中で、さまざまな音楽に対応するフラットな音質、すべてを同じシリーズの製品でそろえられるDBTECHNOLOGIES VIOシリーズに決まりました。設置については、フロアの奥まで音を届けるために、フライングではなくステージに置くことになったんです」

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DBTECHNOLOGIES VIO L210をL/Rそれぞれに6基用意(写真はL側)。土橋氏は「フライングよりもステージに置く方が音響的に良かったのです。また演者が間違って衝突してしまっても倒れないように、アンカーを打って固定しています」と話す

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VIO L210をステージへ床置きした目的は1階席と2階席の奥まで奇麗に音を届けるため。反射面になるサイドと2階席の壁にはグラスウールの吸音材が張られている

 VIOシリーズについて説明を添えてくれたのは、ティアック音響機器事業部の内田哲氏である。

 

 「VIOシリーズはDBTECHNOLOGIESのラインアレイの中で、一番ハイスペックなシリーズになっています。ディレイ・スピーカーやサイド/リップ・フィルは、VIO Xというポイント・ソースのスピーカー・シリーズで、デジタル・アンプとDSPの傾向がラインアレイの流れを汲んだものなので、音の統一感を出すには最適な組み合わせになっているんです。すべてパワード・スピーカーなので、舞台袖でアンプ・ラックのスペースを取る必要がありません。また、同社のAurora Netというソフトを使うと、DSPを客席からリモート・コントロールできるので、インプット/アウトプット/EQやディレイをコンピューター上で総合的に管理できるのも強みです」

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サイド・フィルの2ウェイ・アクティブ・スピーカー、DBTECHNOLOGIES VIO X15は、L/Rに1基ずつ配置されている。ラインアレイVIO L210の後方のステージ・サイドからステージ中央に向けられているのが分かる

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ステージ中央付近のお客さんにも十分な音量を届けるために、ステージ下に埋め込まれたリップ・フィルのDBTECHNOLOGIES VIO X205-60は2基用意されている

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DBTECHNOLOGIES VIO X205-100を、フロア後方に向けてL/Rに1基ずつ用意。奥の観客にも奇麗な音が届くように工夫された結果だ

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DBTECHNOLOGIESのスピーカー・マネジメント・ソフトAurora Net画面。ベースとなるスピーカー設定はここで行われている

 DIVEの音響担当、木附健太氏はDBTECHNOLOGIES VIOシリーズの音の魅力を一言で表すと「ナチュラルな音を出してくれること」だという。

 

 「高/中域共に無理が無いので、楽器もボーカルも自然に伸びやかに鳴ります。イメージした音が出しやすいスピーカーです。低域は簡潔に言うととてもパワフルで、昨今の音楽のアプローチに合うレンジの広い低音が鳴ります」

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FOHのスピーカーのチューニングに使用しているソフトLAKE Lake Controller画面。「的確に調整できるので細かな音作りが行いやすい」とPA担当の木附氏は語る

 続いて「出演者の方々には、広いステージや天井が高いと褒めていただくことが多い」と柳内氏。ステージの間口の広さや高さの決定には、かなり時間を要したと入交氏は言う。

 

 「間口を広く取るために、サブウーファーは埋め込みになりました。低域の振動に耐え得るステージということで、コンクリートで造っています。また、1階席フロアの天高を考慮して客席はひな壇を造らずフラットにすることが決まると、ステージに十分な高さが必要になりました。あとはバックヤードからステージまでフル・フラットにするコンセプトがあったので、スロープの設置と舞台袖スペースの確保も考慮した結果、ステージの高さは70cmで決着が付きました」

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DBTECHNOLOGIES VIO S218×4は、L/Rで2基ずつステージ下に埋め込まれている

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舞台袖に設置されたアウトボード・ラックには、YAMAHA SWP1-8MMFが2台、Dante対応I/OのYAMAHA Rio3224-D2を用意。ステージ上の演奏はRio3224-D2に入力されて、コンソールのYAMAHA CL5に送られてミックスされた後、TASCAM ML-16DでD/Aされてスピーカーに送られる仕組み。スピーカー・チューニングなどAurora Netで行うためのインターフェース DBTECHNOLOGIES RDNet Control 8やモニター用アンプのPOWERSOFT T304とT302もある

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72モノラル+8ステレオのインプット・チャンネルを持つデジタル・ミキサーのCL5。「ほかの会場でも使用する機会が多い卓で、乗り込みの方も安心して使えるのが魅力だと思います。内蔵エフェクトのPremium Rackはいろいろなアプローチができるエフェクトが豊富にそろっているので使いやすいです」と木附氏はコメントする

デッド/ライブ過ぎないルーム・チューニング

 ルーム・チューニングについては「オール・ジャンルの音楽に対応するように」とのリクエストを受けて、入交氏は“デッド過ぎず、ライブ過ぎず”中庸にすることを意識したという。

 

 「まず、一次反射面になる2階席の壁やスピーカー周りはガチッと吸音するためにグラスウールを使用しています。スピーカー付近で一部木毛セメント板を使ったのは、吸音性がありお客さんが触れても壊れない強度と高域をある程度伸びやかに鳴らすことの2つを考慮した結果です。ラインアレイはスウィート・スポットを広い範囲で作れるので、部屋の音響特性に左右されづらいというメリットがある。だから、あとは適度に反射面を残すのがポイントになりました。防音構造については壁も床も天井も二重のフローティングになっていて、構造体との接合部分には防振ゴムが入っています」

 

 DIVEの内装については「ビルのデザイン・コンセプトに合わせた」と入交氏が話すように、モノトーンを基調とし、ところどころ木の素材を生かした現代的なデザインに仕上がっている。柳内氏は「この内装にはとても満足している」と語る。

 

 「狭い/暗い/怖いが今までのライブ・ハウスの印象でしたが、DIVEはそうしたくなかったんです。ビル全体やその周囲との共存していくという意味でも、このデザインで良かったと思います。新型コロナの影響で音楽シーンが元気の無い中にオープンしたわけですが、皆さまの希望の光になれるようDIVEという場所を提供し続けます」

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照明とスクリーンなどの映像機器はエムテック・スタイルの吉野耕二郎氏が選んでいる。「“オール・ジャンルへの対応”をコンセプトにすると、バキバキな光だけでなく柔らかな光も欲しいと要望いただいたので、LEDの照明にハロゲン・ライトも織り交ぜてシステムを組みました」と吉野氏は話す

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