プロアマ問わず、多くの野球選手に利用されている鹿児島県鹿児島市の平和リース球場。試合を盛り上げるために欠かせない音響設備が、2020年の春にアップデートされた。導入されたのはPANASONICが手掛けるプロ・オーディオ・ブランドのRAMSA。どのようなシステム構成になったのか、写真とともにレポートしていこう。
Text:Yusuke Imai Photo:Karin Kurino
明りょう度の向上のためラインアレイを導入
鹿児島県民の健康と福祉増進のために作られた鴨池公園内にある平和リース球場。24,059㎡の広さを持ち、外野と内野を合わせて21,000人を収容する。「もともとは鹿児島県立鴨池野球場という名称でしたが、命名権によって今は平和リース球場となっています」と語るのは、平和リース球場を含む鹿児島県体育施設の管理を行うセイカスポーツグループの所長、草野和也氏だ。
「この球場で主に行われているのは高校野球の県予選です。また、プロ野球の試合も開催されており、県内唯一のナイター設備も備えたプロ野球対応の球場として使われてきました。地域の少年野球なども行われるなど、土日の利用率がとても高い場所なんです」
そんな平和リース球場の音響システムが新しくなったのは、国民体育大会がきっかけだったという。
「2020年に国民体育大会が鹿児島県で開催予定となり、この平和リース球場も使われることになりました。それに合わせて設備の改修を行うことになったんです。2020年3月に改修は終えましたが、残念ながら新型コロナ・ウィルスの影響で鹿児島県での国民体育大会は2023年へ延期となりました」
改修の主な理由としては老朽化が挙げられる。球場内には音が鳴らなくなってしまったスピーカーもあったようだ。
「改修でスコアボードもLEDになりましたが、以前は白黒の反転装置でした。映像が出せなかったため、ビジュアルでなく耳で楽しんでもらおうとダイナミックに音響を使っていましたが、リミットを超えて壊れてしまったスピーカーがあったんです。しかし、回線があちこちのボックスを中継していることもあって、問題のある部分を特定するのが難しい状況で、そのままになってしまっていたスピーカーもありました」
以前はスコアボードの左右、そして球場の外周を囲むようにホーン型のスピーカーが設置されていたそうだ。長年そのスピーカー・システムを運用してきたが、求められる音質の水準が高まる中で気になるポイントが幾つも出ていたという。
「開会式や閉会式では、グラウンド上でスピーチなどが行われますが、声が遅れて聴こえてくるため非常に話しづらいという問題がありました。また、観客席の場所……特に内野側のバックネット裏の席では音が聴こえづらかったんです。改修にあたってはそれらの改善を要望していましたね」
音響機器として導入されたのはPANASONICのブランド、RAMSAのシステムだ。草野氏が語る問題点はどのようにして改善されたのか、パナソニック システムソリューションズジャパンの水口栄一氏に尋ねた。
「グラウンド上でのスピーチがやりづらいのは、スピーカーが遠いために音が遅れて聴こえるためです。さらに、壊れてしまっているスピーカーもあったため、音量が小さくなっているという問題も重なっていました。グラウンドで話す方のためにモニター用のスピーカーを出すこともあったようですが、今回は固定で話者用にスピーカーを用意しています。また、内野席のための分散スピーカーは増設し、外野席やグラウンドに向けたスピーカーにはラインアレイを採用して、音の明りょう度を向上させました」
扱いやすさを重視したWR-DX400
スコアボード横に配置されたラインアレイ・スピーカーはWS-LA500AWP。4台を組み合わせたアレイがL/Rでそれぞれ2組ずつ設置されている。WS-LA500AWPは約90°(水平)×約10°(垂直)の指向特性を持ち、独自のリギング金具によって設置時間の短縮を実現したモデル。キャビネットごとの角度も、クイック・リリース・ピンの挿入で素早く調整可能だ。水口氏は配置についてこう語る。
「内野席へ音を届けるのは客席後方の分散スピーカーが担っています。WS-LB311を1本のポールへ3台設置しており、球場内には計30台用意しました。また、バックネット裏の観客席に近い部分に取り付けたスピーカーはWS-LB301です。カバー・エリアの違いで使い分けています」
これらのスピーカーの調整ではRAMSAの音響シミュレーション技術、PASD(Panasonic Acoustics Simulation Designer)が活用された。球場のCADデータを用いてソフトウェアによる事前シミュレーションを行った後、現地でテスト信号をマイクで収音して測定。そのデータをパワー・アンプのDSPへ送ることにより、高精度な音響調整を短時間で行うことが可能だ。日程の限られた改修スケジュールの中で迅速に音響機器を導入できるのはメリットだろう。また、カバー・エリアを精細に設定できたことにより、球場外への音漏れも改修前に比べて軽減されているようだ。草野氏は「客席へクリアに音が届くようになったため、無理に音量を上げる必要が無くなったことも理由の一つかもしれません」と語っていた。
スピーカーのほか、平和リース球場の放送室にはRAMSAのデジタル・ミキサー、WR-DX400が導入された。「RAMSAのフラッグシップ機で、プロだけでなくミキサーに慣れていない方でも扱いやすいように考えられたモデルです」と水口氏。草野氏も、操作性の分かりやすさを求めていたと話す。
「高校野球や少年野球では、生徒や先生が操作することも多いです。主には音量調整と、鳴らすスピーカーのオン/オフくらいですが、プリセットを選択できたり、デフォルトの状態にワンボタンで戻せるというのは非常に助かります」
RAMSAの音響システムによって新たに生まれ変わった平和リース球場。残念ながら2020年は無観客や人数制限での試合が中心となってしまったため、一新されたシステムをフル活用した催しはまだ行えていない。しかし、草野氏はRAMSAのシステムに大きな期待を抱いていると言う。
「スコアボードのLEDディスプレイ化でビジュアル面でも観客に楽しんでもらえるようになりましたが、やはり体感として音の存在はとても重要です。ホームランなどの盛り上がる場面をこの音響システムで演出できればうれしいですね」