「ISOVOX Isomic」製品レビュー:EHRLUND特許技術の三角形振動版を採用したコンデンサー・マイク

ISOVOXから発売されたコンデンサー・マイク「Isomic」

 近年、マイクといえばビンテージにインスパイアされたものが多く見受けられますが、そんな中、どちらかと言うと時代に合わせた新しいコンセプトでISOVOXから発売されたコンデンサー・マイクがIsomicです。ISOVOXと言えば大きめのダンボール箱のような形状の簡易レコーディング・ブースIsovoxが印象的なメーカー。メーカー・サイトには、Isomicはナレーションやボーカル・レコーディングに最適とありますが、実際に見ていきたいと思います。

7Hz〜87kHzのワイドな周波数帯域
7dB未満の低ノイズ・レベル

 箱から取り出してみると写真で見るよりも小さく、手のひらに乗るくらいの非常にコンパクトなサイズ。さらに、大きさだけではなく、持ったときの軽さにもびっくり! スペックを見ると重量は206gで、NEUMANNの代表的なマイクU87AIの重量500gの半分以下と言うと、想像が付きやすいかと思います。ボディの裏面にはスウェーデンのメーカーEHRLUNDの刻印。IsomicのカプセルはEHRLUNDの特許技術Triangular Capsule(三角形振動版)で作られており、可聴周波数範囲が7Hz〜87kHzという驚異的なワイド・レンジになっています。U87AIなどの20Hz〜20kHzと比べても広く、特に高域特性に関しては“聴く”というより“感じる”といった範囲の数字かも知れません。三角形振動版は、一般的なマイクに使用されるラウンド型のカプセルに比べ、振動版を三角にすることで自己共鳴が減衰するのを速め、格段に短い振動で音をとらえることができます。つまり、演奏や歌唱で連続して入力される音があったとしても先に入力された音声信号の振動は収まり、次の音に重ならないように素早くキャプチャーされるイメージでしょう。

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ダイアフラムには、EHRLUNDの特許技術である三角形振動版を採用

 実際につないで音を聴いてみます。一聴して分かるのがその音の静かさ。普通、スタジオで歌や声などを録音するとき、ポピュラーなマイクを立てたときは大体のゲインまでマイクプリのゲインを上げるとマイクの持つノイズが聴こえてきますが、Isomicはそのノイズ・レベルが非常に低く、余分なものは事前に排除するスタンスで好印象です。これは、レコーディングの際に、電気的なトラブルへの配慮など、余分な気遣いに時間を割かなくて良くなるということ。エンジニア目線では、アーティストのパフォーマンスをキャプチャーするのに集中できるのは大きなメリットになるでしょう。

声録りに適した滑らかでクリアなサウンド
マイクとの距離が調整可能なウィンド・スクリーン

 ナレーションやボーカルに最適とあるので、はじめに男性の声を聴いてみると、かなりクリアで、BRAUNER VM1をさらに繊細にした感じと言えば聴いたことのある方には伝わるでしょうか。特に、男性の中低域の成分が多くこもりがちな帯域も、滑舌良く滑らかかつクリアに聴こえてきますが、中域の耳障りな硬さは無いといったところ。これは、マイクが持つレンジの広さが音質につながっていると言えるでしょう。直接比べたわけではありませんが、EHRLUNDのマイクの印象からするとクリアさは残したままスッキリして聡明な感じです。

 

 次に、アコースティック・ギターに立てたところ、Isomicの持っているゲインはポピュラーなコンデンサー・マイクより多少大きく、ナレーションやボーカル・レコーディング向きではありますが、アコギのような楽器にも向いています。アルペジオ奏法では、一音一音がバランス良く、シルキー&クリアな音色で1弦から6弦まで心地良く聴こえます。ストローク奏法においては、クリアな分パワー感が少なく聴こえますが、トラックが少ない楽曲や、同じ楽器が重なる曲では差別化を図るのにこのIsomicは十分に効果を発揮しそうです。

 

 Isomicには見た目が少々厚めなウレタン素材のウィンド・スクリーンが付属しています。それをマイク・ホルダーに装着すると、ダイアフラムに対する余分な声の吹きを抑えてくれるので、突発的なノイズにつながることも無いでしょう。さらに、マイク・ホルダーにはこのウィンド・スクリーンとマイクとの距離が調節できるスリットが入っており、声を録音することに特化した細部への心配りも見受けられます。

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Isomic本体のほか、専用ウィンド・スクリーンのIsopop、専用マウントCloudMount、スタンド固定用のジョイント・コネクターが付属する

 使ってみて気付いたのは、冒頭で述べたようにIsomicのボディがコンパクトであることで、ナレーションやボーカルを録るときに、Isovoxの中や限られたスペースでも歌詞(セリフ)が見えやすいという点。その上、音質的に必要な後処理は多少のコンプレッションくらいで、EQやディエッサーなどの細かい処理は必要無いくらいです。コロナ禍でリモート・レコーディングが増えたこともあり、この手の無駄な処理が必要無いマイクは、性能/値段ともにファースト・チョイスになり得ます。同時に、プロのエンジニアもこのIsomicの音色は持っていれば引き出しの一つになるのではないでしょうか。

 

加納洋一郎
【Profile】ミキサーズラボを経てフリーランスのエンジニアとして活躍。LM.Cやシシド・カフカ、GILLEといったアーティストの作品を手掛けてきた。映画やBlu-rayのサラウンド・ミックスもこなす。

 

ISOVOX Isomic

オープン・プライス(市場予想価格:140,000円前後)

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SPECIFICATIONS
▪形式:コンデンサー ▪ダイアフラム:三角形振動版 ▪指向性:カーディオイド ▪周波数特性:7Hz〜87kHz ▪等価ノイズ・レベル:7dB 未満 ▪出力感度:23mV/Pa ▪SN比:87dB ▪最大SPL:116dB(0.5% THD)、122dB(1% THD) ▪外径寸法:55(φ)×135(H)mm ▪重量:206g ▪付属品:Isopop(ウィンド・スクリーン)、CloudMount(マウント・ホルダー)、ジョイント・コネクター

 

製品情報

 

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