AVID MBOX Studioレビュー by 三船雅也(ROTH BART BARON )

AVID M Box Studio × 三船雅也

かつて、AVID Pro Toolsが使えるホームスタジオ向けオーディオインターフェースとして人気を博したMBOXが、MBOX Studioとして復活。ホームスタジオのコントロールセンターとしての機能を満載したこの製品を、三船雅也(ROTH BART BARON )に試していただいた。実は、三船とMBOXには意外な接点があるという……。

AVIDは今の音楽シーンで起きていることをちゃんと見ている 

─ 久しぶりのMBOXの登場です。第一印象はいかがでしたか?

三船雅也(以下、三船) 実は、約10年前に初めて使ったオーディオインターフェースがMBOX 2でした。『化け物山と合唱団』などの自主制作作品で使っていたので、こうやってMBOXが復活したことには特別な思いがあります。当時は、MBOXのおかげでスタジオでしか使えなかったPro Tools環境が自宅でも使えるようになった。オーディオの編集だけでなく、いろんなプラグインも入っていて「自分のスタジオができた!これがあれば何でもできるじゃん!」ってすごくうれしくて。そういう喜びをMBOX 2が与えてくれたんです。

 あれから10年ずっとPro Toolsと一緒に音楽を作ってきたんだなあって、原点に戻ったような懐かしい気持ちになりました。

 現在は、当時に比べてさまざまなオーディオインターフェースが登場していますが、MBOX Studioにはまずその大きさに本気度を感じました。すごく気合が入っているというか。

─ 確かに従来のMBOXのイメージよりもクラスが上がりました。

三船 ちゃんと音楽作れよ!って言われているような迫力があります。でもこの大きさがMBOX Studioという名前の通り、ホームスタジオの中心として据え置きで使うことが意識されていて、とにかく明快ですね。

MBOX Studioのチューナー機能モードで、A(ラの音)を検出している状態のトップパネル

─ 操作面はいかがでしたか?

三船 パネルのデザインがよく考えられています。トップパネルのノブやスイッチは、左に入力、右に出力とまとめられていて操作がとても直感的です。頻繁に抜き挿しする端子はフロント、それ以外の端子はリアに配置されている。アイディアがひらめいてパッと録りたいというときも素早く操作できてストレスが無い。ギターを挿せば自動的にHi-Zへ切り替えてくれるのもすごく楽ですし、フロントに付いているHi-Z OUT TO AMPはリアンプするときに便利です。

AVID MBOX Studioのフロント

フロント左側には、4系統のVariable Z入力のうちHi-Zにも対応する2系統を用意。その横にはリアンプ用出力が並ぶ。右には独立2系統のヘッドフォンアウトも ※

─ リアンプは普段の制作でも行っていますか?

三船 結構使いますよ。録り音にリアンプした音を重ねたり、リバーブの質感を何段階も変えてリアンプしたり、マイクの位置を変えてリアンプして独特なアンビ感を出したりとか。MBOX Studioなら、フロントにアンプ出しがあるのですぐに使えます。近くにアンプがあることを想定されての配置なんでしょうね。

 リアにも本格的なセンド/リターン端子が付いていて、ギタリストだったら録った音をペダルやアウトボードに一度回したりするのもいい。自分で楽器を演奏しながら曲を作る人にとって、こうした外部機器との連携機能を使いこなすと面白いと思います。

AVID MBOX Studioのリア

リアパネル。コンピューターとの接続はUSB-C。FX LOOP用センド/リターンがあり、外部ハードウェアとの組み合わせも想定している ※

─ 外部機器との連携で言えば、MIDI INとOUT端子も1系統ずつ用意されています。

三船 最近はUSB-MIDI機器も増えていますが、多くの電子楽器にはMIDIが付いているので、ここ経由でシンセをDAWのシーケンサーで鳴らしたり、ソフトウェアの演奏用キーボードとして使ったりできます。シンセをMBOX StudioのリアのLINE入力につなぎっぱなしにしておけば、必要に応じてシーケンサーで鳴らした音をDAWに取り込むという、いわゆるプリントもMBOX Studio1台で完結できてしまいます。

─ ミキサー機能が充実していてるので、MBOX Studioはミキサーであるといって過言ではないかもしれません。

三船 デジタル入出力も合わせれば21イン/22アウトと入出力も豊富ですし、MBOX Controlを使えばソフトウェア上でいろんなルーティングもできて、各チャンネルにエフェクトもかけられる。MBOX Studioに入力した音声をここで料理して出力できるというのは、単なるオーディオインターフェースではない、面白さがあります。

MBOX Control

MBOX Control ※

─ Pro Tools以外のソフトでAVIDのロゴを見るのはすごく新鮮が感じがします

三船 確かにそうですね。EQはPro ToolsでおなじみのEQ3とよく似たものが実装していてシンプルですごく使いやすいし、AUXの送り方も一般的なミキサーを使ったことがあればすぐ分かると思います。あと面白いなあと思ったのがBluetooth入力/出力のフェーダーがついているところ。

─ Bluetoothオーディオは同時に入出力が使用できるようになっています。

三船 ミックスバランスを小さなBluetoothスピーカーでチェックすることがあるんですが、スタジオ環境でオーディオをBluetoothで飛ばすっていうのは結構面倒で……。それがMBOX Studioなら直接出せるというのは本当に便利。Bluetooth入力もアイディア次第でメーカーの想定を超えるおもしろい使い方ができそうです。

 「プロフェッショナルな現場でBluetoothって要るの? 」っていう懐疑的な目線もあるかもしれません。でも我々や僕らより若い世代はBluetoothと一緒に育ってきたわけで、一般的にもこれだけBluetoothに親しみがある世界になってきたわけじゃないですか。そういった環境下でミックスを仕上げることはとても重要だと思うんです。

 余談ですが、アメリカやヨーロッパのエンジニアに聴くところによると、海外では「サブスクの音楽配信サービスの各媒体によってミックスのレベルの突っ込み方を変えてほしい」という細かいオファーもあったりするぐらいなので。

 AVIDはそういった音楽で起きていることをちゃんと見ているんだなぁと思いました。こういったワイアレスが当たり前になっていくと、将来的にはケーブルレスでの音楽制作が実現するのかも?  今ではまだ信じられませんが、それを見越した設計だと思うと興味深いです。

AVID MBOX StudioのBluetoothオーディオ入力ボタン

トップのそれぞれのセクション中央上に配置されているBluetoothオーディオ選択ボタン(画像は入力セクション)

─ サウンド面に関してはいかがでしょうか?

三船 ベースやボーカルなどを録音してスピーカー環境で聴いてみたんですが、低域の豊かさと中域のカラっとした感じがあってパンチのあるサウンドだなと思いました。ムチっとしていて密度感あるというか。これはプリアンプを通してもラインでも同じ印象を持ちました。当然ですが、昔持っていたMBOX 2とは全く違いますね。

─ 昔のオーディオインターフェースだと今ほどの低域までは再現できませんでしたね。

三船 バンドを始めたころ、「コンピューターで音楽を作っている子たちは高域に寄りがちだ」って先輩アーティストやエンジニアに言われてましたからね。それから技術が発達して、最近のオーディオインターフェースはローエンドまで出せるようになって、高域のチリチリ感もなく低域がどっしりしてパンチがあるものが増えています。MBOX Studioの音質もその傾向に近い印象と感じました。

オーディオインターフェースの選び方でその人のセンスが分かる

─ 普段はどのようにオーディオインターフェースを選んでいますか?

三船 楽器を選ぶのと同じように、楽器店で聴き比べをしてから買うことにしています。オーディオインターフェースの選び方でも、その人のセンスが分かる気がします。あの人はこれを使っているからこういう音なんだなとか、俺と同じものを使っているからこの人とは気が合うなとか。スタジオやライブ会場でみなさんが使っているオーディオインターフェースを見ることがすごく面白いです。

三船雅也(ROTH BART BARON)

三船雅也(ROTH BART BARON)

─ 三船さんならMBOX Studioをどんな方にお薦めしますか?

三船 ビギナーからワンステップ上を目指す人や、やりたいことが増えて自分のスタジオをアップデートしたい人にお薦めしたいですね。楽器やボーカルの録音もリアンプもこれ一台でできるし、ADATインを使えば最大は21chまで入力できるので、プロユースとしても使えると思います。Pro Tools Studioも付いてくるんですよね?

─ Pro Tools Studioと楽譜作成ソフトSibelius Artistの年間サブスクリプションに加えプラグインパッケージのMBOX Ignition Packが付属します。

三船 かなりお得ですね。Pro Tools Studioは、圧倒的にレンジが広くて、特に最新のバージョンはすごくリッチな音がします。僕も別のDAWソフトをラフスケッチや楽器として使うことがありますが、最終的にはPro Tools Studioでミックスしているんです。スタジオで聴き比べるとDAWによって音が全然違うんで。

 オーディオインターフェースにはいろんなコンセプトがあるから面白い。今回のMBOX Studioも、どんなコンセプトなんだろう……どんなアイディアで作ってきたんだろう……って楽しみだったんで、今回こうやって試す機会ができてよかったです。

三船雅也(ROTH BART BARON )
【プロフィール】東京を拠点に活動するシンガーソングライターでROTH BART BARON(ロットバルトバロン)の中心人物。11月9日に5年連続となるオリジナルアルバム『HOWL』をリリースした。

Recent Work

HOWL

HOWL

  • ROTH BART BARON
  • インディー・ロック
  • ¥1833

製品情報

AVID MBOX Studio 116,600円

 パーソナル・スタジオでプロフェッショナルなレコーディングを実現する24ビット/192kHz対応USBオーディオ・インターフェース。

 4つのプリアンプやプレミアム・コンバーター、2ペアのスピーカー切り替えやトークバック、2系統のヘッドフォンアウトを含むモニター・セクション、Bluetoothステレオ入出力、ギターチューナー、アサイナブル・ボタンなど、総計21イン/22アウトを備え、パーソナル・スタジオで求められる機能を統合している。

 DAWソフトPro Tools Studio年間サブスクリプション(Pro Tools Inner Circle等追加ソフト/サービスも含む)に加え、BABY AUDIO.、PLUGIN-ALLIANCE(BRAINWORX)、GAUGEのプラグインやBPM Createのループ素材などを集めたバンドルMBOX Ignition Packが付属する。

 Pro Toolsはもちろん、APPLE Logic ProやABLETON Liveなど一般的なDAWソフトでも使用可能。YouTubeや音楽ストリーミング・サービスの再生、ループバックを用いたライブ配信、Web会議などにも活用できる。

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