IK MULTIMEDIA ILoud Precision MTM レビュー:キャリブレーション機能を搭載するモニター・スピーカー

IK MULTIMEDIA ILoud Precision MTM レビュー:キャリブレーション機能を搭載するモニター・スピーカー

 IK MULTIMEDIAは、1996年にイタリアはモデナで創業した音楽ソフトや周辺機器を取り扱うメーカー。近年は、コンピューター上へ簡単に音を取り込めるIRig関連の製品が爆売れだったのも記憶に新しいのではないでしょうか。今回レビューするのは新作スピーカーのILoud Precisionシリーズで、その中でも一番大きなILoud Precision MTMです!

ワンボタンでプロファイルやプリセットを切り替え可能

 IK MULTIMEDIAのスピーカーと言えば、卓上スピーカーながら本格的なサウンドのILoud Micro Monitorが有名で、持ち運びにも適しており多くのユーザーから支持を受けています。今回リリースされたILoud Precisionシリーズは、ILoud Precision 5/6/MTMの3種類。5は5インチのウーファーに1.5インチのツィーター、 6は6.5インチのウーファーに1.5インチのツィーター、MTMは5インチのウーファー×2と1.5インチのツィーターというラインナップです。

 シリーズの特徴として、IK MULTIMEDIAの音響補正技術、ARC Systemによるキャリブレーション機能がスピーカーに内蔵されており、付属品の測定用MEMSマイク、解析/補正アプリケーション・ソフトのX-Monitorと組み合わせて音場を好みに調整できます。既にARC System 3という音場補正ソフトをリリースしているIK MULTIMEDIAが、ILoud Precisionシリーズに補正機能を組み込むのは自然な流れかもしれません。

付属品のARC測定用MEMSマイク(無指向性)

付属品のARC測定用MEMSマイク(無指向性)

ILoud Precisionシリーズ用コントロール・アプリケーションX-Monitor。ARCキャリブレーションの視覚的確認や、リア・パネルよりも詳細なEQ調整が可能となっている

ILoud Precisionシリーズ用コントロール・アプリケーションX-Monitor。ARCキャリブレーションの視覚的確認や、リア・パネルよりも詳細なEQ調整が可能となっている

 本体背面には、バスレフ・ポート、各種接続端子、±5dBのレベル調節トリムのほか、EQ調節などの5つのボタンを配置。これらのボタンの機能はX-Monitorでもコントロール可能で、より細かい調整が必要ならばX-Monitorから行う方がよいでしょう。

リア・パネル。上段左から、LF EXTENTION(35/50/65/80Hzを選択できるハイパス・フィルター)、LF(ロー・シェルフ:100Hz)、HF(ハイ・シェルフ:10kHz)、CAL/PRESET(キャリブレーション/プリセットの切り替え)、オート・スタンバイの各種ボタン、±5dBのボリューム調節つまみ、USB-B端子、リモート・コントローラーのIN/OUT、オーディオ入力(TRSフォーン・コンボ)、測定用マイク入力(XLR)

リア・パネル。上段左から、LF EXTENTION(35/50/65/80Hzを選択できるハイパス・フィルター)、LF(ロー・シェルフ:100Hz)、HF(ハイ・シェルフ:10kHz)、CAL/PRESET(キャリブレーション/プリセットの切り替え)、オート・スタンバイの各種ボタン、±5dBのボリューム調節つまみ、USB-B端子、リモート・コントローラーのIN/OUT、オーディオ入力(TRSフォーン・コンボ)、測定用マイク入力(XLR)

 X-Monitorメイン画面の下段中央にある4つのボタンには、プリセットやユーザーが補正した各種モニター・プロファイルを割り当てるだけでなく、補正以外の用途として、ミュート、ディム(−20dB)、さらにボイスというさまざまなスピーカーの聴こえ方を再現したプリセットもアサインできます。このボタンは、実物のリモート・コントローラーとして発売されています。コントローラーの4つのボタンに一度覚えさせておけば、X-Monitorを開かなくても手元でパッと切り替えできるので、かなり便利な印象を受けました。

別売りのリモート・コントローラー、ILoud Precision Remote Controller(オープン・プライス:市場予想価格11,110円前後)。4種類のX-Monitorボイスの切り替えや、ミュート/ディムを手元でコントロールできる

別売りのリモート・コントローラー、ILoud Precision Remote Controller(オープン・プライス:市場予想価格11,110円前後)。4種類のX-Monitorボイスの切り替えや、ミュート/ディムを手元でコントロールできる

 実際に音を聴く前に、X-Monitorで部屋の音場補正をしてみます。測定用MEMSマイクをセッティングしてケーブルをスピーカーに接続。スピーカーとコンピューターをUSB接続し、あとはX-Monitorの指示通りにマイクを4カ所に立てて測定するだけなので、数分で完了。画面上で補正された周波数特性を見ると、低域から高域までフラットなのが視認できます。部屋の持つ周波数特性が確認できるのと同時に、自分の好みの聴こえ方に追い込めるようEQ補正も合わせてできるので、ユーザーの自由度が高いと感じました。

“仮想同軸“により定位が分かりやすい

 それでは音を聴いていきます。まずは補正をバイパスした、そのままのILoud Precision MTMから。ロック、R&B、Jポップとジャンルを変えて試聴したところ、スタジオの大音量でも5インチ・ウーファー2つの性能ゆえか、パワー感もあり全く破綻無し。ただ、若干低域がもたつく感じがあります。次に、先ほどフラットに補正したプロファイルに切り替えてみると、少し遅く聴こえていた低域が収まって、メリハリのあるバランスになり好印象でした。ジャズやクラシックといった空間のある音楽だと少し高域が物足りなく感じたので、EQ補正することで残響のリリースまで感じることができました。

 この補正機能が使える時点で一般的なスピーカーよりも利便性がありますが、シリーズ最上位機種のILoud Precision MTM は、ハイファイ・オーディオの世界で“仮想同軸”と呼ばれる、MTM(ミッド・ウーファー/ツィーター/ミッド・ウーファー)配置によって、音がツィーターの一点から聴こえ、定位が見えやすく、より精度の高い音像を実現しています。リニアな位相/周波数特性により脳内補正せずに長時間作業できるおかげで、本当に疲れにくく、クリエイティブに集中することができるでしょう。

 今回は試聴という形でしたが、実際の録音にも使用したエンジニアに感想を聴いたところ、ドラムなどピークのある楽器でもスムーズに作業できたと言っていたので、自宅だけでなくスタジオ・ワークでも問題無さそうですね。最後に価格を見て、コスト・パフォーマンスがすごいの一言です。

 

加納洋一郎
【Profile】ミキサーズラボを経てフリーランスのエンジニアとして活躍。泉谷しげるやLM.Cなどの作品を手掛ける。また、映画『サマーウォーズ』などの劇伴や、Blu-rayのサラウンド・ミックスにも携わっている。

 

IK MULTIMEDIA ILoud Precision MTM

オープン・プライス

(市場予想価格:191,400円前後/1台)

IK MULTIMEDIA ILoud Precision MTM

SPECIFICATIONS
▪構成:5インチ・ミッドウーファー×2+1.5インチ・ツィーター ▪アンプ:クラスD、175W RMS ▪最大音圧レベル:119dB ▪周波数特性:45Hz〜30kHz(±1dB) ▪クロスオーバー周波数:1.9kHz ▪感度:−4dBu/93dBSPL ▪DSPサンプリング・レート:96kHz ▪付属品:ARC測定用MEMSマイク、マイク・ホルダー、USB-B to Aケーブル(2.5m)、ILoud Isolation Pods(専用インシュレーター×4) ▪外形寸法:177(W)×442(H)×223(D)mm ▪重量:9.9kg

製品情報

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