iLoud Precision発表会〜IK MULTIMEDIA が目指す新時代のモニタリング

iLoud Precision試聴用セットアップ

発表会会場に置かれた試聴用セットアップは、外側がiLoud Precision MTM、内側がiLoud Precision 5。iLoud Precision 6は発表会のメイン・スピーカーとして使われ、来場者の求めに応じてこちらも試聴できる環境が用意された

去る10月4日、IK MULTIMEDIA iLoud Precision発表会&iLoud MTM Immersive体験会がRITTOR BASEにて開催された。iLoudシリーズで小型モニターに旋風を巻き起こしたIK MULTIMEDIAが“Precision=正確”を名に冠したスタジオ・モニターへ進出したことで、エンジニア/作曲家を含む多くの業界関係者が参加。当日は開発責任者であるダヴィデ・バルビ氏のオンライン生解説が行われ、周波数特性のみならず位相/時間特性もフラットを追求する、iLoud Precisionのコンセプトが語られた。

発表会冒頭では、国内取扱元であるフックアップの代表取締役、伊原正道氏が登壇

発表会冒頭では、国内取扱元であるフックアップの代表取締役、伊原正道氏が登壇。iLoudシリーズの歴史を振り返りながら、「iRigシリーズがギターの楽しみ方を変えてきたのと同じように、iLoudシリーズは発売以来、モニタリングのあり方を変えてきた」と語った

イタリア・モデナのIK MULTIMEDIA本社スタジオからオンラインで登壇したダヴィデ・バルビ氏(画面内)。進行役の同社田村氏(左)は、「iLoud Precisionに先駆けて、iLoud MTMでも時間特性やトランジェント特性も意識した設計が採用されてきたことが、世界中で高く評価されてきた理由」と説明した

イタリア・モデナのIK MULTIMEDIA本社スタジオからオンラインで登壇したダヴィデ・バルビ氏(画面内)。進行役の同社田村氏(左)は、「iLoud Precisionに先駆けて、iLoud MTMでも時間特性やトランジェント特性も意識した設計が採用されてきたことが、世界中で高く評価されてきた理由」と説明した

顕微鏡のような正確性を低価格のモニターに

 iLoud Precision開発責任者のダヴィデ・バルビ氏は、画面越しに「iLoud Precisionで目指したのは、特定の音を持っていない透明な音のスピーカーです」と口火を切る。

 

 「iLoud Precisionは、顕微鏡のように問題点を発見できるツールとするために、周波数領域だけでなく、時間領域、位相についても正確なモニターを目指しました」

 

 周波数特性の補正は、他社でもさまざまなソフトやハードで実例がある一方、時間領域や位相の補正ができるプロセッサーは非常に高額であった。低価格でここまでの補正が行えるのは、iLoud Precisionの大きなアドバンテージだ。まず時間領域について、バルビ氏はグラフを示してこう説明する。

ステップ・レスポンス特性の比較

1ペア100万円を超える価格のモニター・スピーカー(緑&オレンジ)と比較したステップ・レスポンス特性。理想的なフルレンジ・スピーカーの特性(白)をiLoud Precision(水色)は正確にトレースするが、ユニット間のタイム・アライメントを行っていない他のスピーカーはこのグラフのように波形が崩れてしまう。このずれを脳内で補正することが聴き疲れにつながるとバルビ氏は指摘していた

 「ユニット間のタイム・アライメントを考える上で、重要なファクターはステップ・レスポンス……ゼロから最大値に至るまでの時間です。タイム・アライメントをしていない2ウェイ・モニターではこれを正確に再現することは難しいですが、iLoud Precisionでは元の波形のままを保った再生ができます。スピーカーの仕事は原音を再構成すること。その再構築での色付けがなければ、元の音をどうミックスするかの判断ができます。一般的なモニター・スピーカーでは、こうした時間軸上のずれを脳が補正しながら聴くことになり、だから聴き疲れが生じます。iLoud Precisionでのモニタリングは、疲れが少なく、正確なミックスができるというわけです」

ローカットを入れずに保護し正確な位相を実現

 また、位相特性もリニアなのがiLoud Precisionの大きなポイントとなっている。

位相特性の比較

同じく高級モニターとiLoud Precisionを比較した位相特性のグラフ。他のモニター・スピーカー(緑&オレンジ)では450Hz、2kHzなどクロスオーバー周波数の前後で、入力信号に対して大きな位相の変化が生まれている。これに対し、iLoud Precision(水色)は低域も150Hzまでフラットな位相特性を保っている

 「スピーカーに入力される音声には、可聴帯域以下の周波数も含まれています。多くの製品ではユニットの保護のためにローカットをしているため、位相が変化します。一方、iLoud Precisionはローカットはせず、危険な信号入力はリミッターで制御しているため、リニア・フェイズを実現できるのです」

 

 ではなぜIK MULTIMEDIAがこのような技術を採用できるのか? そのヒントをバルビ氏が教えてくれた。

 

 「弊社には長年のDSP開発の経験があったことに加え、AmpliTubeでギター・アンプのキャビネット特性を無数に解析してきました。そこから発想を逆転させ、色付けの無いスピーカーとは何かを考えていったのです」

20種以上のスピーカー特性を再現するプリセット・ボイス

 そして、このiLoud Precisionのために用意されたのが、X-MONITORという新しい専用ソフト。おなじみのARCによる環境に合わせた補正に加え、さまざまな機能を備えている。

X-MONITOR

iLoud Precisionのコントロールが行えるX-MONITOR(Mac/Windows対応)。スピーカーとはUSBで接続。ARCキャリブレーションのサポートや複数設定の切り替え、プリセット・ボイスやスピーカー・プロファイルの切り替え、iLoud Precision Remote Controllerの設定などが行える

 

 「まず、プリセット・ボイスとして、厳密なリニア・フェイズのPrecisionに加え、リスニング・ポイントを拡大するWide Dispersion、高域を強調したHF Presence、中低域にフォーカスしたComfortを用意しています。また、カスタムEQでの補正はもちろん、20種類以上のモニター・スピーカーの周波数特性と位相特性を再現することも可能です。これは、正確なモニタリングに加え、複数の視点をユーザーに持っていただくために搭載しています」

iLoud Precision Remote Controller

iLoud Precision Remote Controller(市場予想価格:11,110円前後)。ボイスの切り替え、ミュート、DIM(−20dB)、ARC補正のON/OFFなどが可能に

 こうした信号処理が優れていることは言うまでもなく、スピーカー研究の結果はエンクロジャーやユニットなどのハードウェア・デザインにも及んでいるという。

 

 「コーティングしたペーパー・コーンのウーファーと組み合わせたのは、1.5インチ径という大きめのツィーターです。2ウェイで中域をカバーすることを想定したもので、これまでの経験をすべて盛り込んだ革新的なスピーカーとなりました。結果として、私の生涯でベストなスピーカーが完成したと考えています。幾らでもスピーカーの話はできますが、ぜひ皆さんご自身の部屋でじっくり試していただきたいと思います」

iLoud Precisionラインナップ

iLoud Precisionラインナップ

X-MONITORソフトウェア、MEMSマイクに続いて、iLoud Precision 5、iLoud Precision 6、iLoud Precision MTM

iLoud Precision 5

市場予想価格:143,550円前後/1台
5インチ・ウーファー+1.5インチ・ツィーター、110W+25W
46Hz〜30kHz(±1dB)、6.1kg

iLoud Precision 6(写真中央)

市場予想価格:159,500円前後/1台
6.5インチ・ウーファー+1.5インチ・ツィーター、120W+30W
45Hz〜30kHz(±1dB)、7.7kg

iLoud Precision MTM(写真右)

市場予想価格:191,400円前後/1台
5インチ・ウーファー×2+1.5インチ・ツィーター、145W+30W
45Hz〜30kHz(±1dB)、9.9kg

iLoud MTM Immersive Set

iLoud MTM Immersive Set

 iLoud MTM Immersive Bundle 11(市場予想価格:616,000円前後/11台)+他社サブウーファーで組んだ7.1.4chでDolby Atmos試聴できるコーナーも設置。Dolby Audio Room Design Toolに入力した部屋の大きさを参考に、すべてのiLoud MTMをマイク・スタンドでマウントし、1時間半ほどでセットアップが完了した。ドラムへのマルチマイキングと同等かそれよりも簡単にイマーシブ・モニターが組めるのは魅力的だ。


発表会に参加したプロの声

ナカシマヤスヒロ

ナカシマヤスヒロ

 iLoud Precisionは、普段使っているiLoud MTMの解像度をさらに上げて、顕微鏡のように精緻な音像。まさに業務用のモニター・スピーカーだと思いました。一方、iLoud MTMのImmersiveセッティングは、マイク・スタンドを使った設置の自由度で、映画館のような音響を自宅に導入するハードルを大幅に下げた革命的製品になったのではないでしょうか。

鈴木Daichi秀行

鈴木Daichi秀行

 iLoud Precisionのタイム・アライメントされたサウンドは、クロスオーバー・ポイントを意識することなくストレスの無いモニタリングができると思いました。特に個人の作業環境では低音が膨らみすぎていたりモニター環境として問題点がある場合が多く、スピーカー単体で音響補正できるモニター・スピーカーはとても有用だと思います。

森元浩二.

森元浩二. Photo:Hiroki Obara

 これからの時代、スピーカーはリニア・フェイズになっていくと思います。経験上、脳で位相特性を補正しなくてもよいリニア・フェイズのモニターは疲れにくく、楽に作業ができます。一方、リニア・フェイズにも慣れが必要なので、聴き込んで脳をエイジングしてください。リニア・フェイズを実現するFIRフィルターは遅延が問題になりがちですが、iLoud Precisionは遅延と音質をうまく両立しています。

古賀健一

古賀健一 Photo:Hiroshi Hatano

 iLoud MTMは発表当初、そのスペックと価格に驚き、事前予約して購入。リズム録りに耐え得るパワーやレコーディング・スタジオ外の環境での自動補正などで重宝しています。Dolby Atmosが話題の昨今、iLoud MTMはイマーシブ環境へ絶対にマッチすると思っていましたし、実際にお勧めしたこともあります。今回初めて、7.1.4chで聴かせてもらいましたが、その直感は間違いないと確信できました

ニラジ・カジャンチ

ニラジ・カジャンチ Photo:Hiroki Obara

 Dolby Atmos用にモニター・システムを組むと1,000万円級の投資が必要となるので、ずっと手を付けずに我慢していました。でも、今回iLoud MTM Immersive Setを体験し、即購入を決断。10畳くらいのスペースで研究を始めましたが、このサイズの部屋にはバッチリです。iLoud MTMはこのサイズに対して低域の解像度が高いのに驚きました。単体のサウンドで言えば、iLoud Precison MTMがそれ以上に好みでした。

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