ギターを入れたいトラック・メイカーは全員買うべき
ラインだけで“使える”バリエーション豊かな音が得られます
一本でエレクリックとアコースティックのサウンドを兼ね備えた話題のギター、FENDERのAcoustasonics。Telecaster、Stratocasterに続いて、Jazzmasterが登場した。そのボディ・サイズによって低域〜中域の厚みが増すとともに、新開発のパワフルなハムバッキング・ピックアップShawbucker、FISHMANとの共同開発によるエレクトロニクスとの組み合わせで、さらなる進化を果たしている。今回はAwesome City Clubのギタリストで、プロデューサーとしても活躍するモリシーに、トラック・メイキング視点でAmerican Acoustasonic Jazzmasterをチェックしてもらった。
Photo:Yusuke Kitamura
Amecican Acoustasonic Jazzmaster
297,000円
ハムバッキング・ピックアップのAcoustasonic Shawbucker、ピエゾ・ピックアップのFISHMAN Under-Saddle Transducer、鳴りをとらえるボディ・センサーFISHMAN Enhancerという3つのピックアップとエレクトロニック・システムにより10種類のサウンドを実現。従来のAcoustasonicシリーズに加え、4つの新しいアコースティック・ボイシングが追加されている。ボイス・セレクターでの切り替えと併せて、ブレンド・ノブによって2つのボイス・タイプのブレンドが可能だ。ボディ&ネックはマホガニー、指板はエボニーで、カリフォルニアのFENDER工場で製造されている。カラーはオーシャン・ターコイズ(写真)のほか、ナチュラル、タバコ・サンバースト、タングステン(モリシー試奏モデル)、アークティック・ホワイトの5色。
ラインで録るだけで使えるアコギの音に
モリシーの自宅スタジオにAmerican Acoustasonic Jazzmasterを持ち込むと、早速ギター・アンプのFender Blues Jr.に接続。以前はJazzmasterをメイン・ギターとし、TelecasterやStratocasterのAcoustasonicを試奏したことがあるという彼は、弾きながら終始笑顔が止まらない。
「ギター・アンプを通してもこれだけアコギっぽい音が出るのにまず驚きました。今回はアコギ弦が張ってありますが、普通にエレキギターを弾いている感じに近いので、ギターを始めたての人やアコギが苦手な人にもいいかもしれません」
オーディオ・インターフェースのHi-Z入力に直結してのチェックも。試しながら、「アンプ・シミュレーター・プラグインよりも、チャンネル・ストリップ系の方が合う」とモリシー。「これは、ギターを入れたいトラック・メイカーは全員買うべき楽器ですよ」と続ける。
「制作時にエレキからアコギに持ち替えるのは面倒じゃないですか? アコギのフレーズを思いついたから入れてみようと思って、持ち替えたときにはもう忘れている。これだとボイス・セレクターとノブで即座に切り替えられるから、そういうのが無くなりますよね。そのアコギの音が嘘っぽくないのがすごい。トラックに入るギターだったら、ラインだけで本番として使えるクオリティで、いろんなバリエーションが録れますよ」
American Acoustasonic Jazzmasterは30万円弱と、そう手ごろではないが、その用途の広さと優れたコスト・パフォーマンスを考慮すると決して高くないとモリシーは言う。
「10万円のギターを3本買うよりもいい。アコギは特にそうですね。それに見合うマイクやマイクプリも買わなければいけないし、それを買っても狙った通りの音で録れるとは限らない。そうやって僕も機材をそろえてきましたが、やはり部屋の限界もありますから」
モリシー自身、近年のトラック制作の中では、アコギの生々しさが邪魔になると感じられることもあったという。
「ある仕事で録音したアコギで、ラインとマイクと両方を渡したんですが、ラインだけ採用されたことがありました。トラックの中ではマイクで録ったアコギの情報量が多過ぎても使いづらいんだと思います。そう考えると、ラインだけでちゃんと録って処理したような使えるアコギの音からエレキまでが得られるのは大きなメリットですね。エレキはハムバッキングらしい音で、例えばTelecasterの音が欲しいならTelecasterを使うべきですが、トラックに入れるものならこれで十分です」
名演の音からインディー・ポップまでをカバー
Acoustasonicで得られるアコギのサウンドを“嘘っぽくない”と評したモリシー。さらに深く聞いてみた。
「ポジション5Aの“Rosewood Dreadnought”を選ぶと、ついジョン・メイヤーやエリック・クラプトンみたいなフレーズを弾きたくなる。“ザ・ビートルズっぽいサウンドにしたいんだよね”と送られてきたデモだったら、ポジション4Aの“Mahogany Jumbo”で録ってみよう、とか。ボイス・セレクターのポジションに加えて、ブレンド・ノブのコントロールで2種類の中間にもできるから、ボディ・サイズを調整するEQ的な使い方もできますね。生音も出ていますが、よほど壁の薄いアパートじゃなければ、夜中でも録れますし」
Acoustasonicは、既存モデルの再現に限らない。その独自のサウンドも実用的だとモリシーは指摘してくれた。
「ポジション2Aの“Lo-Fi Piezo”は、いわゆるピエゾ・ピックアップの点のような感じではなく、ちゃんとディケイがある感じ。2Bの“Lo-Fi Piezo Crunch”にすると、今のインディー・ポップっぽい少しひずんだサウンドで、エレキのフロント・ピックアップのような音としても使えます」
すっかりAcoustasonicを気に入った様子のモリシー。「正直、ここまでのものとは思っていませんでしたね。ギターがあまり得意でなくても、これをずっと弾いていたら、気付いたらギターがうまくなっていると思います(笑)」と結んでくれた。
モリシー
【Profile】「勿忘」を収録したアルバム『Grower』がヒット中のAwesome City Clubでギターを担当。ソロでは作編曲家としても活動しており、DAOKO、須田景凪、Mega Shinnosuke、mihoro*などのサポートでも活躍中
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