Pro Tools|Carbon Pre バンドレコーディング・レポート feat. 美濃隆章&Fennel

美濃隆章

AVIDのオーディオ・インターフェースPro Tools|Carbonのアナログ入出力を拡張できる8chマイクプリ、Pro Tools|Carbon Preが登場した。今回は、エンジニア美濃隆章氏に2台のPro Tools|Carbon Preでアナログ24chに拡張したPro Tools|Carbonシステムでのチェックを依頼。tricotのヒロミ・ヒロヒロによるソロ・プロジェクトFennelのレコーディングで試していただいた。

AVID Pro Tools | Carbon Pre とは

 Pro Tools|Carbon Preの8基のマイク/ラインプリアンプのうち、4基はインピーダンス可変のVariable Z仕様。Pro Tools|Carbonと2台のPro Tools|Carbon Preを使うことで最大24chのアナログ入出力を持つシステムが、たった3Uサイズで構成できる。

AVID Pro Tools|Carbon Pre(※)

 Pro Tools|Carbonとの接続はAVBで行う。またD-Sub 25ピンの8chアナログ入出力端子と、ADAT入出力、ワードクロック入出力も用意し、単体の8chプリアンプ/AD/DAコンバーターとしても使用可能だ。

Pro Tools|Carbonと2台のPro Tools|Carbon Preを使って
バンド・レコーディングを実践

 レコーディングには美濃氏と親交があるtricotのヒロミ・ヒロヒロによるソロ・プロジェクトFennelに協力を仰いだ。メンバーはヒロミ・ヒロヒロ(b/Vo)、山﨑聖之(ds)、勝あり紗(g)、馬場庫太郎(g)の4名。

 普段のレコーディングでは多くのアウトボードを使用する美濃氏だが、今回は、Pro Tools|CarbonとPro Tools|Carbon Pre×2台のシステムで試していただいた。

Pro Tools|Carbon(上段)と2台のPro Tools|Carbon Pre(下段)。これだけで24chのアナログ入出力が使用できる

 チャンネルの内訳

  • ドラム:1ch〜11ch、13ch〜14ch
  • ルーム:12ch、15ch〜18ch
  • ベース:19ch〜20ch
  • ギター:21ch〜23ch
  • ボーカル:24ch

ドラムセットのマイク:キックイン(SHURE Bata52A)、キックアウト(CAD E100-2)、サブキック(SOLOMON MICS LFRQBKA)、キット(NEUMANN U 87 Ai)、スネアトップ&ボトム(SHURE SM57モディファイ)、ハイハット(AKG C451B)、ライド(AKG C451B)、タム(AKG C414)、フロアタム・トップ(AKG D112)、フロアタム・ボトム(HEIL SOUND PR31BW)、トップ(NEUMANN KM84)×2、以上13ch使用

ルーム用マイク:NEUMANN M149、AUDIO-TECHNICA AT4050×2、COLES 4038×2、以上5ch
ギター用マイク:SENNHEISER MD421W(オンマイク)、AUDIO-TECHNICA AT4081(オンマイク)、AKG C414(オフマイク)、以上3ch
ベース用マイク:NEUMANN U 47 FET、DI:BAE 1073DMP、以上2ch

 レコーディングは、まずはじめに山﨑聖之のドラムとヒロミ・ヒロヒロのベース、勝あり紗のギターによるベーシックなパートを収録。その後、馬場庫太郎によるギターパートがオーバーダビングされてオケが完成した。最後にヒロミ・ヒロヒロのボーカルパートを収録。Fennelの楽曲『confess』のレコーディングが完了した。

 なお、機材搬入からセッティング、音出し、レコーディング、撤収までかかった時間は、ほぼ半日。スムーズに進行することができた。

ヒロミ・ヒロヒロ(b&vo)
山﨑聖之(Dr)
勝あり紗(Gt)
馬場庫太郎(Gt)
山﨑聖之(ds)、勝あり紗(g)、馬場庫太郎(g)

Fennel 『confess』
by the courtesy of cutting edge/8902 RECORDS

美濃隆章氏が語る
Pro Tools|Carbon Preのインプレッション

美濃隆章

 レコーディングを終えた美濃氏にPro Tools|Carbon Preを使ってみた感想について伺った。

24chを同じプリアンプで録音する機会ってなかなかないですよね

─ レコーディングお疲れ様でした。初めてPro Tools|Carbonシステムで24chを録音した感想はいかがでしたか。

美濃隆章(以下、美濃) すごくよく録れましたね。普段はいろんなアウトボードで前処理して録っているので、今回のようなレコーディングは正直ドキドキでした。恐らく今っぽい音で録れるんだろうなぁとは予測していたんですけど、思った以上のクオリティで驚いています。

─ 最近の美濃さんは、ビンテージにこだわるつもりもない、とおっしゃっているのを耳にしましたが、どのような心境の変化があったのでしょうか。

美濃 ワイドレンジで低音が強調されている音楽が主流になってきてる感じがするので、自分の趣味がそちらに自然とシフトしていった感じです。最近は低音をどんどん入れても曇らない音楽が増えていてすごいですよね。プリアンプも割とクセのないものがだんだん好きになっているので、ちょうどPro Tools|Carbon Preのような新しいプリアンプに興味を持っていたところでした。

─ Pro Tools|Carbon Preの録り音はいかがでした?

美濃 率直に自分の好みに近いサウンドでした。レンジも広いしハイファイだしスピード感もある。だからといって変なピークもないし、悪く言う人はいないんじゃないでしょうか。倍音足したり歪ませたりという味付けは、後でプラグインを使えばいくらでもできますからね。

─ 全チャンネルを同じプリアンプでレコーディングできるのも魅力です。

美濃 8chのプリアンプは持ってても、24chも同じプリアンプで録るってことはしないので、このような機会ができてよかったです。やはり音に統一感がでますね。

─ それは立ち会っていて感じました。

美濃 楽器によってプリアンプを分けることは、それはそれの良さがあるんですが、カチっとしたハイファイな曲にするのであれば、おそらくPro Tools|Carbon Preの方が相性が良いでしょうね。

─ ほかのプリアンプとオーディオインターフェースで実現しようとするとレイテンシーの問題がつきまといます。

美濃 そうですね。Pro Tools|Carbonのハイブリッドエンジンのおかげで何の問題もなくレコーディングできました。しかもD-Sub25ピンから全チャンネルのライン出力ができるので外部のサミングミキサーを使うこともできるし、単独送りもできる。しかもそれがレイテンシー無しでできるってすごいことですよ。

─ マイクプリが統一されたおかげでマイクのキャラクターが引き立ちました。

美濃 録れてましたね。マイクはいろいろ持ってきました。特にリボンマイクはプリアンプとの相性があるんで気になっていたんですが、すごく良かったです。インピーダンスを50kΩや5KΩ に切り替えたりとか。リボンマイクだとすごく明確にわかりました。ハイインピーダンスにした時の方がなんかきらびやかになるし、キャラクターもいじれるんだって。面白かったです。

─ Pro Toolsの画面上でコントロールできるのもいいですね。

美濃 この一体感がもうめちゃくちゃ便利ですね。Pro Tools|Carbonシステム自体がミキサーだと思って使える感じが。目線の移動が少なくて済みますし。アウトボードによっては6dBごとしか調整できない場合もありますが、Pro Tools|Carbonシステムは1dB単位で調整できるので結構追い込めました。レコーディング直後に聴いてもらった仮ミックスは、ドラムにコンプを使ったのと、溜まった低域をEQでカットした以外は、ほとんど素の状態です。音量のバランスしか取っていませんでした。

Pro Toolsのミキサー画面でプリアンプのゲインやインピーダンスを操作できるため、目線の遷移が少なく作業に集中できる

─ このシステムだけで一曲まるごと録れたという事実がすごいなと思います。

美濃 新しい発見だらけでした。自分のバンドでもよくある話で、プリプロのレコーディングのうち、数トラックをそのまま本チャンでも使うことがあるんですが、一部を差し替えるためだけに、毎回たくさんアウトボードを持っていくのは面倒。Pro Tools|Carbonシステムがあればそんな悩みも解決できそうですね。

─ そのほかの使い道としてどんなことができそうでしょうか。

美濃 コントロールルームと仕切られていない空間でレコーディングするときなど、小さいスタジオの方が利点がありそうですね。楽器から最短距離でプリアンプまでつないで、ちょっと離れたところでPro Tools画面を見ながらゲインを調整できるという。これなら横を向いてゲインノブに手を伸ばさなくてもいいのはよいですね。

─ ヘッドフォンアウトがフロントに4基搭載しているのも、そのような想定で考えられているかもしれません。

 あと、CarbonとCarbon Pre共々、ファンの音が静かだということもポイント高いです。マシンルームに入れなくても使える前提の機材という感じがしますね。

美濃隆章
[Profile]ポストロック・バンド、toeのギタリスト/エンジニア。クラムボン、mouse on the keys、ゲスの極み乙女。、Chara、bonobos、LUCKY TAPESなども手掛ける。

Fennel(フェンネル)
[Profile]tricotのベース、ヒロミ・ヒロヒロのソロプロジェクト。2021年10月13日に1stミニアルバム『slow down』をリリース。サポートメンバーでのバンドセットでライブも行っている。
https://fennel-official.com/ https://linktr.ee/hiromihirohiro

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slow down - EP

slow down - EP

  • Fennel
  • オルタナティブ
  • ¥1530

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