「CHERRY AUDIO Voltage Modular Core + Electro Drums」製品レビュー:即戦力となる106種のモジュールを備えたモジュラー・ソフト・シンセ

CHERRY AUDIOVoltage Modular Core + Electro Drums
 CHERRY AUDIOのVoltage Modular(Mac/Windows対応)は、スタンドアローンはもちろんAAX/AU/VSTプラグインとしても動作するソフトウェア版のモジュラー・シンセサイザー。美しいグラフィックス、高品位サウンドの多種のモジュールがセットになっており、自由なパッチングがDAW上でも、スタンドアローンでも行える。

1モジュールが約200円で手に入るセット
ポリフォニックの扱いもシンプル接続

 現在は世界的にモジュラー・シンセ・ブームであるが、そのソフトウェア化も、1990年代から幾つかの製品があった。今まで誰も考えつかなかったような音の流れやモジュレーションを考えて、世界に一台だけのシンセを組み立てるのはなんとも楽しいのだが、ハードウェアでモジュールを一つ一つ集めていると、どんどんセットが大きくなってしまい、かなりの金額になるのは悩みの種だ。そして現在の音楽制作環境の中で問題になるのがパッチングされた“その状態”の音しか出ないという点。“一期一会”のそれこそがモジュラー・シンセのだいご味であるのは言うまでもないが、それでもこういった部分が解消されたら……とも思う。それらをすべて解決するのがソフトウェア化されたモジュラー・シンセだろう。場所を取らないし、最初から多種のモジュールが付属。セッティングを保存することもできるし、何より低価格なのが魅力だろう。そんな中でこのVoltage Modularは筆者も今までで一番気に入った“使える”ソフト・モジュラーと言える。

 Voltage Modularはさまざまなグレードがあるが、付属モジュール数が異なるのみでソフトウェアは共通。今回レビューしているCore + Electro DrumsはCoreパッケージの91モジュールに加えて、MISFIT AUDIOが制作したドラム向けの15モジュールがセットになっている。合計106モジュールが最初から用意されており、自由に組み合わせることが可能だ。なんと1モジュールが約200円という安さ! 基本的なモジュールは最初からすべて用意されているが、開発環境も用意されているので複数のサード・パーティから既に数多くの追加モジュールが発売されている。

 Voltage Modularは高品質の64ビット倍精度演算でオーディオ処理が行われており、音質は非常にハイクオリティ。それでいてCPU負荷もそれほど膨大にはならず、DAW上で使用するのに問題無いレベルだ。

▲画面上部のI/Oパネル。左からCVアウト、ポリCVアウト、MIDI(OUT)、トランスポート、オーディオ・イン、メイン・アウト、AUXアウト ▲画面上部のI/Oパネル。左からCVアウト、ポリCVアウト、MIDI(OUT)、トランスポート、オーディオ・イン、メイン・アウト、AUXアウト

 画面を見ると、まず上部に入出力系。CVアウト、MIDIやオーディオの入出力端子が用意されている。すぐ下に、任意のパラメーターをアサインしてリアルタイムに操作できるノブ/ボタンが並んだPERFORM、左側にはモジュールが分かりやすく表示されたLIBRARYが用意されている。表示サイズも30〜150%で切り替え可能になっているので、大型のセッティングの全体を見渡すことも可能だ。

▲PERFORMには9つのノブと4つのボタンがあり、任意のパラメーターを右クリックするとアサインできる ▲PERFORMには9つのノブと4つのボタンがあり、任意のパラメーターを右クリックするとアサインできる

 モジュールは一般的なオシレーター、フィルター、エンベロープなどに加え、8ステップ・シーケンサー、クロック系やロジック(演算)系なども充実している。MIDIでポリフォニックの演奏情報を受けるとき、一般的にはPoly CV Converterで4音のボイスに振り分け、モノのオシレーターを4セット用意する。Voltage Modularではポリフォニック対応のモジュールがあり、DAWからの演奏情報をCV/GateではなくMIDI OUTから取り出し、ポリフォニック対応のモジュールにポリ用(バーチャル)ケーブルでパッチングを行う。モノフォニック時と全く感覚で簡単にポリフォニックが扱えるのが、Voltage Modularの画期的なポイントだ。

▲左からPoly Oscillator、Poly Envelope Generator、Poly Amplifier、Mini Poly To Mono CV。ポリフォニック信号ジャックは7ピン端子を模している ▲左からPoly Oscillator、Poly Envelope Generator、Poly Amplifier、Mini Poly To Mono CV。ポリフォニック信号ジャックは7ピン端子を模している

定番リズム・マシン系モジュールを搭載
VST/AUプラグインも利用可能

 またElectro Drums収録のモジュールには、Transistor 909 KickやTransistor 808 Cowbellなどの音源となるモジュールが14種類と、ROLAND TR-808のパネルを模したDrum Trigger Sequencerが用意されている。エフェクト・モジュールも充実していて、2系統のセンド/リターン付き12chミキサーまで使用可能。DAWを使わずともモジュラーだけで制作できる環境が整っている。

▲Drum Trigger Sequencer。一度に表示されているのは16ステップ×4trだが、実際は8tr仕様。32種までパターンが保存でき、それを組み合わせてソングとすることも可能だ ▲Drum Trigger Sequencer。一度に表示されているのは16ステップ×4trだが、実際は8tr仕様。32種までパターンが保存でき、それを組み合わせてソングとすることも可能だ

 そのほかユニークなモジュールを紹介しよう。Sampler Iはオーディオ・ファイルを読み込んで再生できるシンプルなサンプル・プレーヤー。Plug-In Hostは所有しているAU/VSTプラグイン・インストゥルメント/エフェクトを呼び出して使用することができる上、そのパラメーターを最大12種までモジュレートできるというものだ。

▲ビンテージライクなルックスのSampler 1はロービット/レート再生が可能なサンプル・プレーヤー。スタート/エンド/ループ・ポイントもCVコントロールできる ▲ビンテージライクなルックスのSampler 1はロービット/レート再生が可能なサンプル・プレーヤー。スタート/エンド/ループ・ポイントもCVコントロールできる
▲AU(Macのみ)/VSTプラグイン・エフェクト/インストゥルメントが読み込めるPlug-In Host。この画面では筆者所有のNOMAD FACTORY Magnetic IIを使用し、パラメーターを12個のノブにアサインしている ▲AU(Macのみ)/VSTプラグイン・エフェクト/インストゥルメントが読み込めるPlug-In Host。この画面では筆者所有のNOMAD FACTORY Magnetic IIを使用し、パラメーターを12個のノブにアサインしている

 また、地味だが利用価値が高いのはBLANKモジュール。ただの白いパネルだが、ここにテキストでメモを残せる。パッチングの意味を後で思い出せるのでとても重宝するが、ハードならこんな使い方はスペースがもったいなくてとてもできないだろう。

▲ジャックをクリックすると、6ウェイのマルチジャックが表示される。分岐/サミングのモジュールを介さなくても、1つのジャックに6系統の接続が可能。ポリ接続も6ウェイで使用できる ▲ジャックをクリックすると、6ウェイのマルチジャックが表示される。分岐/サミングのモジュールを介さなくても、1つのジャックに6系統の接続が可能。ポリ接続も6ウェイで使用できる

 パッチングに使うバーチャル・ケーブルは色や透明度、アニメーションなどさまざまな設定が可能になっているのもうれしい。混雑するケーブルをチェックするときに、そのほかのケーブルが周囲に広がってくれたり、信号の流れがアニメーション表示されたりと、分かりやすさと美しいグラフィックへのこだわりがすごい。またジャック部分をクリックすると六角形の形で端子部分が分裂し、最大6つまでのパッチングがスプリッターを使わなくても行える。同様に、INPUTもスプリットするので、ミキサー無しでもミックスができてしまう。

複数モジュールをキャビネットとして登録
サード・パーティ追加モジュールも豊富

 モジュールの選択、使用は左に表示されているLIBRARYからモジュールからドラッグして配置するだけ。また、横一列に複数のモジュールを組み合わせたセットをキャビネットとして扱える。例えばドラム・キットなど、お気に入りの一連の構造/組み合わせを横一列で保存しておけば、後で別のセットに呼び出して組み合わせるといった応用が可能だ。また、追加のモジュールは、Voltage ModularまたはWebからデモ/購入が可能。追加モジュールにはKORG MS-20やROLAND TB-303を意識したオシレーターやフィルターなど、魅力的なものが多数あるようだ。前述のサード・パーティ製のモジュールもここで購入可能になっている。

 Voltage Modular Core+Electro Drumsはプリセット・サウンドもかなり充実しており、シンプルなシンセからアルペジオを駆使したセット、パターンを演奏するリズム・マシン・セット、ポリフォニック・シンセなど多数。いつでも同じ状態でサウンドを呼び出せるのはやはり便利だ。ハードウェアの安いモジュール1つ分くらいの価格で、一般的に使用するモジュールをすべてと、無限大サイズのケース、パッチ・ケーブルを手に入れることができる。もちろん、ハードウェアとは別物ではあるが、DAW内で使う際の便利さはやはりソフトならでは。ハードウェアにこだわっているユーザーも、一つ持っておく分には安いものだし、またこれからモジュラー・シンセを始めようと思っている人にとっては、予備知識/練習としても相当便利で価値のあるものではないかと思う。

サウンド&レコーディング・マガジン 2019年9月号より)

CHERRY AUDIO
Voltage Modular Core + Electro Drums
20,370円(beatcloud.jp価格)
▪Mac:OS X 10.9以降(64ビットのみ対応)、AAX/AU/VST2&3対応のホスト・アプリケーション(スタンドアローンでも使用可能) ▪Windows:Windows 7(64ビットのみ対応)、AAX/VST2&3対応のホスト・アプリケーション(スタンドアローンでも使用可能) ▪共通項目:8GB以上のRAM、クアッド・コア以上のプロセッサー推奨