井上幹(WONK)後編〜GENELEC The Ones Load Test

 40年の歴史を誇るGENELECは、2006年にリスニング環境の問題を補正する技術、SAM(Smart Active Monitoring)を提唱した。そのSAMを内蔵したモデルでも特に人気なのは、同軸構造による点音源を実現した3ウェイ・スピーカーのThe Onesシリーズだ。この連載では、そのThe Onesに関心のあるクリエイターに一定期間預け、その実力を試してもらう。前回に引き続きWONKのベーシスト井上幹に、シリーズ最小機の8331Aを自宅スタジオにて検証していただいた。

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部屋の音場補正がこれだけ速く手軽にできるツールは
なかなか無いのですごく便利ですね

今回のテスト・モデル

8331A
オープン・プライス
(ダーク・グレー:市場予想価格278,000円前後+税/1基、ブラック/ホワイト:市場予想価格298,000円前後+税/1基) 8331apk03 同軸ツィーター+ミッドレンジ・ドライバーに、2基の楕円形ウーファーを加えた3ウェイ・ポイントソース構成のThe Onesシリーズのうち、最も小型のモデル。SAMテクノロジーにより設置環境に合わせた自動補正が可能。大型ウェーブガイドの採用で、スウィートスポットの拡大にも成功している

設置位置を調整してSAMの性能をさらに引き出す

 約1カ月の間、自宅スタジオで8331Aを試してきた井上。当初はそのパワフルさ故に近隣への音漏れを気にしていたが、それ自体は全く問題なかったそう。前回気になっていた、スタンド上での設置位置も調整してみたという。

 「スタンドの天板で低域が反射しているのではないか?ということもあり、スタンドの前ギリギリの位置まで移動してみたんです。あらためて測定と補正をしてみると、確かに150Hz辺りのピーク感が減り、より輪郭がはっきりしたような印象がありました。全体としてかなり澄んだスッキリとした音になりましたが、それでいて低域の不足感は無く、どの帯域もクリアに聴こえます。前回も言いましたが、GLMは、特にシングル・モードではすぐ測定が終わるので、本当にこうした調整が手軽に行えますね」

前回はスピーカー・スタンドの中央に置いた8331Aを、スピーカーの前側に合わせて移動。スタンド天板での低域の反射が軽減できたそうだ。下のグラフでは60Hz辺りの特性に読み取れる前回はスピーカー・スタンドの中央に置いた8331Aを、スピーカーの前側に合わせて移動。スタンド天板での低域の反射が軽減できたそうだ。下のグラフでは60Hz辺りの特性に読み取れる
GLMソフトウェアでの測定結果を見て、Rch側の天井コーナーに吸音材を配置。これによってルーム・アコースティックの低域〜中低域特性が改善されたというGLMソフトウェアでの測定結果を見て、Rch側の天井コーナーに吸音材を配置。これによってルーム・アコースティックの低域〜中低域特性が改善されたという

定位感が正確で空間が広く作業が高速化できそう

 井上は、特にGLMソフトウェアのスピード感が気に入った様子。確かにマイクを設置してしまえば、スピーカーの本数分、つまりこのセットアップでは2回、スウィープ音が鳴り、あっという間に測定と補正が完了する。

 「せっかくなので、GLMを利用して部屋の環境をもっと詰めてみようと思ったんです。この部屋はアコースティック・チューニング・パネルを置いていますが、その置き場所や量を変えてみて、そのたびにGLMソフトウェアで測定するということをやってみました。特にスピーカー後方のカーテンの奥や天井コーナーの調整でかなり印象が変わることが分かりましたね。SAMモニターに任せるだけもかなりのレベルで補正ができますが、測定も速いし、これだけ手軽にできるツールはなかなか無いので、すごく便利です。もちろん、8331Aとこの部屋との組み合わせだから出ている効果もあると思います。将来的には、部屋の形状やサイズ、スピーカー位置までGLMソフトウェアに入力すると、ルーム・チューニングのガイドもしてくれるといいですね。“ここのピークを取るには、ここのコーナーに吸音材を置いてみてください”という具合に」

 井上は、1カ月向き合ってみた8331Aの印象をこうまとめてくれた。

 「音質面で特筆すべきは、定位感の正確さと空間の広さだと思います。ダイナミック・レンジが広くしっかりミックスされた音源を聴くと、音の左右はもちろん前後感もしっかりつかめるようになっています。リバーブ成分も明りょうに聴こえ、総合的に全体がくっきりはっきり聴こえる印象でした。自分がミックスするにあたり、各素材のパンニングやリバーブのセンド量の決定が速くなりそうです

GLMソフトウェアでの測定結果を見て、Rch側の天井コーナーに吸音材を配置。これによってルーム・アコースティックの低域〜中低域特性が改善されたという GLMソフトウェアでの測定結果を見て、Rch側の天井コーナーに吸音材を配置。これによってルーム・アコースティックの低域〜中低域特性が改善されたという

井上幹

TheOnesInouePortrait東京を拠点に活動するエクスペリメンタル・ソウル・バンドWONKでベースやエンジニアリングを担当。最新EP『Moon Dance』を7月31日にリリース。Naz、MELRAW、MALIYAなどの作品でもミックス/マスタリングを手掛ける。ゲーム制作会社にてサウンド・デザイナーとしての仕事にも従事

■GENELEC製品に関する問合せ:ジェネレックジャパンwww.genelec.jp