「CHANDLER LIMITED TG Microphone Cassette」製品レビュー:EMI TG12345のチャンネル・ストリップを忠実に再現したモデル

CHANDLER LIMITEDTG Microphone Cassette
1960年代から1970年代にかけて、ザ・ビートルズの作品をはじめとする数々の名盤にその音質を刻んだ、EMI/アビイ・ロード・スタジオの歴史的なミキシング・コンソール、EMI TG12345。そのチャンネル・ストリップのリプロダクション・モデル、TG Microphone CassetteがCHANDLER LIMITEDから発売された。早速チェックしていこう。

ブリティッシュ・ロック・サウンドが特長の
マイク・プリアンプTG2

まずはTG12345について少し解説しておこう。1967年、EMIのリサーチ・ラボラトリーは、アビイ・ロード・スタジオの黄金期のサウンドを決定付けた革新的なコンソールを開発した。それがTG12345 MK1コンソールである。従来の真空管コンソール(EMI Redd.)に代わり導入されたこのトランジスター設計のミキシング・コンソールは、12のチャンネルを装備。その各モジュールは“カセット”と呼ばれ、各カセットにはEQセクションとリミッター・セクションを搭載していた。

8トラックのマルチレコーディングが主流だった1968年11月に、アビイ・ロード・スタジオにTG12345コンソールが2台設置されたため、ザ・ビートルズ後期の作品ではTG12345のサウンドが聴ける。特にアルバム『アビイ・ロード』では、TGコンソールならではの分厚くリッチな表現力に優れたサウンドとなっており、「ヒア・カムズ・ザ・サン」や「カム・トゥゲザー」などは、このTG12345のサウンドがなくては完成されなかったとも言われている。そのチャンネル・ストリップのリプロダクション・モデルがTG Microphone Cassetteである。

TG Microphone Cassetteは“TG2マイク・プリアンプ”と“Curve Bender EQ”、そして“TG1 OPTO”の3セクションで構成されている。TG2は1960年代後半から1970年代のブリティッシュ・ロック・サウンドを代表する特徴的なマイク・プリアンプだ。COARSE GAINとFINE GAINを組み合わせることで、同じゲイン設定でも異なる倍音の質感を演出できるため、クリーンなサウンドからひずみ感を強調したファットなサウンドまで、幅広いサウンド・メイクに対応。トータル+70dBゲインまで調整可能で、6段階切り替えのローカット・フィルター(RUMBLE FILTER)、DI入力、LINEスイッチ、+48Vスイッチ、PHASEスイッチを装備している。

次にCurve Bender EQセクションは、伝説のユニットEMI TG12345 Curve Benderを復刻したもので、近年でもザ・ビートルズのリマスター作品などでマスタリングEQとして使用されるほど、エンジニアから大きな信頼を得るブリティッシュ・サウンドを代表するアナログEQだ。構成はTREBLE(8.1kHz、シェルビングEQ)、BASS(91Hz、シェルビングEQ)、PRESENCE(=中域、300Hz、500Hz、1.2kHz、3.6kHz、6.5kHz、ピーキングタイプのEQ)の3バンド。EQ IN/OUTスイッチを使ってバイパスも可能となっている。

TG1 OPTOはオプティカル方式を採用し、TG12413リミッターを再現したコンプ/リミッター・セクション。オート・ゲインのリミッターのような仕組みになっており、コンプレッションのかかり具合をコントロールするHOLDノブで入力レベルと出力ゲインのリダクション量を同時に調整できる。そのほかATTACK & RELEASEノブ、コンプレッション・カーブを切り替えるKNEEスイッチ、最終レベル補正のためのOUTPUTノブ、コンプレッサー&リミッター・セクションのBYPASSスイッチで構成されている。また、2台のTG Microphone CassetteをLINKケーブルで接続することで ステレオ・リンクも可能だ。

音を気持ち良く持ち上げてくれる
シェルビングEQ

ここからサウンドや使い勝手をチェックしていこう。まずはTG2マイクプリ・セクション。音質はNEVE 1073に比べてタイトな印象だ。GML 8304に近いクリスタルなサウンドで、低域の豊かさはNEVE 1073に軍配が上がるが、良い意味で派手で、タイトなサウンドのロックに向いていると思う。

EQセクションはさすがのTGコンソールと言える良い出来だ。特にTREBLEとBASSのシェルビングEQは素晴らしく、ボーカルのザラザラ感やコンガ、アコギなど、指のさらさらした音色などを気持ち良く持ち上げてくれる。またベースやバス・ドラムなどにもオススメで、ローカット・フィルターと組み合わせで使うとタイトで力強い低域サウンドを作ることが可能だ。

次にTG1 OPTO。このコンプはオリジナルの動作に忠実な仕様になっているため、少し一般的なコンプレッサーとは動作が異なり、入力信号の強弱に反応する動的なゲイン・リダクションと出力ゲインを調整する静的なゲイン・アップ・リダクションを合わせて表示する方式を採用している。この点は慣れが必要で、使った印象はスレッショルドの設定が低めなのか、INPUTを下げないとコンプがキツくかかってしまう。しかし、適正な入力に設定すると実に良いコンプ感を得られる。KNEEはSHARPとROUNDEDの2種類から選択可能で、ロック・ボーカルにはROUNDEDでATTACKを少し遅めに設定すると良いと思う。SHARP側では少しキツめのコンプになるので、ロック・ドラムやベースなどにお勧めだ。ただスレッショルドの調整ができないので、INPUTゲインの調整がとても重要になってくる。このコンプの場合INPUTを下げ気味にして最終段のOUTPUTでレベルを上げて調整すると失敗が少ないだろう。

以上、いろいろとチェックしてきたが、さすがCHANDLER LIMITED製品と思わせられる本機での音作りは素晴らしいの一言に尽きる。ルックスを含めやる気を出させる機材は音楽を作る上でとても重要だ。そしてマイクプリ、コンプ、EQがオールインワンで組み上がった本機は、ロックな音楽を目指す人にはお薦めの一台である。

▲リア・パネルは、左からPRE AMP/EQアウトプット(XLR)、DC POWER、LINK(フォーン)、COMPRESSORアウトプット/インプット、PRE AMP/EQインプット(以上XLR)を備えている。電源は外部パワー・サプライ、PSU-1(別売り:34,000円)で駆動 ▲リア・パネルは、左からPRE AMP/EQアウトプット(XLR)、DC POWER、LINK(フォーン)、COMPRESSORアウトプット/インプット、PRE AMP/EQインプット(以上XLR)を備えている。電源は外部パワー・サプライ、PSU-1(別売り:34,000円)で駆動

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サウンド&レコーディング・マガジン 2016年11月号より)

CHANDLER LIMITED
TG Microphone Cassette
350,000円
▪チャンネル数:1ch ▪最大ゲイン:+70dB ▪ハイパス・フィルター:6段階(Out、33、41、47、65、82、110Hz) ▪EQ:Treble/Bass Shelf、Presence(Out、300Hz、500Hz、1.2kHz、3.6kHz、6.5kHz)、Output control、Bypass、XLR Output ▪Opto Limiter:Hold、Attack、Release、Knee、Output、Bypass、Link ▪外形寸法:482(W)×88(H)×272(D)mm ▪重量:約5.77kg