
音色の“レイヤー”で作り込む
ドラムンベースのリズム・トラック
初めまして、C-Show(シショウ)と申します。僕は普段、IMAGE-LINE FL Studioを使って主にクラブ・ミュージックを制作しています。今回は、2014年にリリースし、“Digzトップライナープログラム”のPV曲にもなったEDM系ドラムンベース・トラック「War Machine」を例に挙げ、FL Studioでの音作りを紹介します。

シンセ・ベースのフレーズを
サブ帯域と高域の2音色で構成
この曲は、ドロップ(サビ)の主旋律となっているシンセ・ベースのフレーズから作り始めました。まずはピアノ音源のFL-Keysでメロディ・ラインを作り、そのパターンでNATIVE INSTRUMENTS Massiveを鳴らしつつベース・ラインっぽくなるようブラッシュ・アップ。サウンド面のポイントは2種類の音色をレイヤーしている点で、1つはサブ帯域、もう1つはビキビキとした高域成分を担うものです。複数の音色を重ねる理由としては、音作りの自由度の高さが挙げられます。例えばこのベースは高域にのみフィルターをかけているのですが、それができるのもレイヤーならでは。全帯域が1つにまとまっていたら低域にもフィルターがかかってしまいますからね。また“高域だけステレオ幅を広げたい”といった場合も、ピンポイントなデチューンなどが可能。つまりレイヤーすることにより、目的の帯域を個別に処理しやすくなるわけです。また各帯域がハッキリと出るようになるのもメリット。特にクラブ・ミュージックでは低域の出方が重視されるので、キックなどもロー専用の音色を重ねると良いでしょう。

メリットはまだあります。先のベースに使ったMassiveは3オシレーターのシンセですが、その数ではイメージした音まで作り込めないこともしばしば。その際にMassiveを2台使ってレイヤーすれば最大6オシレーターになるため、1台では難しかった音色も実現できるわけです。
メインのベースに続いては、ほかのシンセ・ベース・リフを作成。過去に作ったフレーズやVENGEANCE SOUNDのオーディオ・ループをチョップしたものが中心で、恐らくシンベだけで10trはあると思います(笑)。
スネアは5つの音色で構築
音作りには“Layer”を活用
次はドラムについて解説します。僕はキックやスネアの音作りをするとき、楽曲のプロジェクトとは別に専用のプロジェクトを立ち上げて作業することがあります。そうすればパソコンのCPUパワーをキックやスネアだけに割けるからです。クラブ・ミュージックではキックやスネアが大事なので、サンプルやエフェクトをふんだんに使って作り込みたいんですよね。そして勘の良い方はお気付きかもしれませんが、ここでも音色のレイヤーが活躍します!
FL Studioには“Layer”というデバイスが備えられていて、これをチャンネルに立ち上げると1つのパターンで複数の音源(またはサンプル)を同時に鳴らすことが可能になります。つまり一度パターンを打ち込んでしまえば、あとは任意のサウンドをロードするだけで音色のレイヤーが楽しめるわけです。Layerの呼び出し方は簡単で、音源を立ち上げるのと同じく“CHANNELS”メニューなどから選択するだけ。そうすれば専用のチャンネルが現れるので、標準装備のステップ・シーケンサーでパターンを打ち込める状態になります。
次に音色を選びます。ここではスネアの音色選びを一例に挙げてみましょう。構成要素はすべて単発のサンプル(ワンショット)で、それぞれを個別のチャンネルにロード。アタックを担う音/スナッピーのような音/ハンド・クラップ/オープン・ハイハット/クラッシュ・シンバルの5つを同時に鳴らします。ハイハットやシンバルは、音量こそ大きくないものの貢献度は高く、高域がスーっと抜けていくような余韻を加えることができます。こうして必要な音色を読み込めたらLayerチャンネルの設定画面を開き、“Set children”ボタンをONに。これですべてのサンプルを一括トリガーできるようになります。


各サンプルはChannel Samplerでエンベロープなどを調整した後、ミキサーに送りプラグイン・エフェクトで処理しています。例えばアタック用の音にはEQのFABFILTER Pro-Qを使用。200Hz辺りの胴鳴りと“硬さ”を担っている1.7kHz周辺をブーストしてソリッドにしつつ、300〜400Hzの重い部分をカットし抜けを良くしています。あとはFABFILTER Pro-Cでコンプレッションしたり、MDA Stereoでステレオの左右に広がりを付与。アタック成分を少し広げることにより、音が前に出やすくなるのを狙います。ほかにはハンド・クラップやハイハットにWAVES Aphex Vintage Aural Exciterをかけています。高域の成分を担う音なので、より抜けが良くなるよう処理しましたが、かけ過ぎると耳に痛くなってしまうので注意が必要です。


すべてのサンプルをまとめたバスにも、さまざまなエフェクトをインサート。FL Studioに標準搭載されているものでは、Fruity Reeverb 2やFruity Limiterを使いました。Fruity Limiterにはノイズ・ゲートが備わっていて、スレッショルドを下回った音がカットされるよう設定しています。これによりFruity Reeverbの残響が長過ぎる部分をカットしているんです。


以上のようにスネア一つ作るのにもこれだけの処理を施しているので、完成までに3時間はかかっているはず(笑)。キックも音色のレイヤーを軸に作っていて、サブ帯域やアタックのサンプル、それからハイハットなどを重ねることもあります。ドラムンベースではベースの余韻と干渉しないタイトなキックが求められるので、リリースを個別に調整できる点でもレイヤーは有利ですね。
さて、次回はFL Studioの標準搭載プラグインについて書いてみたいと思います。お楽しみに!
FL Studio シリーズ・ラインナップ
FL Studio 12 All Plugins Bundle(92,583円)
FL Studio 12 Signature Bundle(パッケージ版のみの販売:31,000円)
FL Studio 12 Producer Edition(22,222円)
FL Studio 12 Fruity Edition(11,852円)
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