「STEINBERG Halion 6」製品レビュー:音色/エディット機能共に高度化したソフト・サンプラーの最新版

STEINBERGHalion 6
Halionは、Cubaseの開発で有名なSTEINBERGのMac/Windows対応フラッグシップ・ソフト・シンセ/サンプラーです。バージョン6となったことで大きな進歩を遂げていますので詳細を……と解説する前に、まず紹介したいのがVSTだけでなく、AUやAAXのプラグインとしても動作すること! もちろんCubase以外のDAWでも使えますし、スタンドアローンでも動きます。その上Soft-eLicenserを使用すればドングル要らず! そんなHalion 6を詳しく見てみましょう。

ウェーブテーブル・シンセのほか
ストリングスやピアノの新音源も搭載

Halionはサンプラーからスタートしたソフトなのですが、そこにさまざまな要素が足された結果、音作りの一大ワークステーションと言えるソフトになりました。現在もサンプルを扱うのは大得意で、AudioWarp機能によるピッチ・シフト/タイム・ストレッチからスライスなどの編集機能まで多彩に備えています。さらにサンプル以外の発音方式として、バーチャル・アナログやグラニュラー、トーン・ホイール・モデリングなどもセレクト可能。そして今回のバージョン6では、昨今新たな局面を迎えつつあるウェーブテーブル・シンセシスの機能が加わりました。

Halion 6の特徴は、もちろん発音方式だけではありません。例えばクラシック、チューブ、ビット・クラッシュ、“Waldorf”(!)など9種類のフィルター・タイプを備え、それぞれにローパスやハイパスのほか、とんでもない数のモードが用意されています。また、エンベロープ・ジェネレーターやLFOなどのモジュレーション・ソース、単純なアルペジエイター/シーケンサー以上のフレーズを生んでくれる上にDAWへのMIDI書き出しが可能なFlexPhraser、誌面では紹介し切れないほどのエフェクト類まで、膨大な機能を有しています。

詳細は後述するとして、まずはHalion 6に含まれている音色をチェックしてみましょう。イチから音を作ることも可能ですが、膨大な量のサンプル・ライブラリーやインストゥルメントが用意されています。ここではその一端、新搭載の音源に触れてみましょう。まずはウェーブテーブル・シンセのAnima(画面①)。筆者が最も楽しみにしていたシンセです。MediaBay(ブラウザー)を介してプリセットをロードしてみると、本当に素晴らしい音色。ウェーブテーブルと言えば1980年代のイナタい音を予想するかもしれませんが、Animaで展開されるのはそれだけではありません。例えばプラック系の音色をロードすれば、ここ数年重宝されている、まさに今の音。単純なオシレーターでは簡単に作れない、特徴的なアタック音をすぐに使うことができます。もちろんウェーブテーブルお得意の“時間的に変化するパッド”も備えています。

▲画面① 2基のウェーブテーブル・オシレーターを備えるAnima。中央上のグラフィックがウェーブテーブルを表しており、今現在どのポイントが再生されているかなどを視覚的にとらえることができる。モジュレーションの柔軟さなども特徴 ▲画面① 2基のウェーブテーブル・オシレーターを備えるAnima。中央上のグラフィックがウェーブテーブルを表しており、今現在どのポイントが再生されているかなどを視覚的にとらえることができる。モジュレーションの柔軟さなども特徴

続いてはストリングス音源のStudio Strings(画面②)。読み込むと、まずはロード時間の短さに驚きます。昨今の重厚長大なストリングス・ライブラリーではロードだけでも大変時間を取られますし、生々しさを表現するための音色セレクトやアーティキュレーション設定に膨大な時間を要します。Studio Stringsは、そうした大艦巨砲主義というよりは、簡単に扱えてオケの中でちゃんと映えてくれる機能美の塊のようなライブラリーです。もちろん、ありがちな安っぽさとは無縁。1990年代に大流行したロンプラー的な使い方ができつつも、現代的な音源と言えるでしょう。同じことは、ブラス音源のHot Brassやピアノ音源のRaven、Eagleにも言えます(画面③)。単体で聴いても本物と聴き分けがつかない、というよりは“オケを支えるなじみやすい”音源といった方向性です。

▲画面② ストリングス音源のStudio Strings ▲画面② ストリングス音源のStudio Strings
▲画面③ グランド・ピアノ音源のRaven。倍音の豊かさが特徴 ▲画面③ グランド・ピアノ音源のRaven。倍音の豊かさが特徴

オーディオ・サンプルを読み込んで
音作りできるウェーブテーブル・シンセシス

ここからは、Halion 6でどういったシンセシスが可能なのかを、ウェーブテーブルを一例に詳しく見ていきましょう。まずはウェーブテーブル・シンセシスの機能をオンにしてみます。アクティブになったウェーブテーブル・タブには、何とオーディオ・サンプルを読み込むことができます。1つの波形からは複数のウェーブテーブルを抽出できますが、これらのウェーブテーブル間の遷移もグラフィカルに編集可能。ウェーブテーブル間で移り変わるエンベロープをマウス操作だけで簡単にエディットできます。例えば、エンベロープ・カーブが直線なのか少し膨らむのか、はたまたしぼむのかなど。シンプルなエレピの単音を読み込んでウェーブテーブル化してみると、エレピのニュアンスを残しながらもキャラクターの濃い、オケの中でキーになりそうな音色がすぐに現れます。

音色をより奇抜なものにしたい場合は、ウェーブテーブル自体を変化させることも可能。抽出されたウェーブテーブルには、その音色の状態(倍音の振幅と位相)が表示されています。それを鉛筆ツールで描き直すだけで、いわゆるウェーブテーブル的な、特徴的な音が出てきます(画面④)。目的に応じて倍音構成を変えたい場合は、偶数/奇数倍音のみの編集や、範囲選択による変形など、さまざまな手段で変化させることが可能。もちろんプリセットのウェーブテーブルを使用することもできますよ。

▲画面④ ウェーブテーブル・シンセシス機能の画面。読み込んだオーディオ・サンプル(画面上方)から複数のウェーブテーブル(画面最下方)が生成されている ▲画面④ ウェーブテーブル・シンセシス機能の画面。読み込んだオーディオ・サンプル(画面上方)から複数のウェーブテーブル(画面最下方)が生成されている

ウェーブテーブル・シンセシスはHalion 6を構成する一要素ですが、単体でもここまでの音色作成が可能です。音を作った後“Rate Red KF”というタイプのフィルターを選んでキー・フォローを有効化し、音が高くなればなるほどサンプリング・レートが上がっていくという特殊なアルゴリズムでさらにキャラクターを足してみました。それからFlexPhraserでパターンを作ると、それだけで楽曲の骨子になるようなシーケンスが生まれました。

サンプラー・トラックからの転送機能など
Cubaseとの連携性が高い

Halion 6は、Cubaseとの連携も非常にしやすくなっています。Cubase上のオーディオをドラッグ&ドロップでHalionに持っていけるのは当然ですが、Cubase 9から搭載されたサンプラー・トラックを使用中に“もっと細かくシンセサイズしたいな”と思った場合、サンプラー・トラックにある“Transfer to HALion”メニューを選ぶと、自動的にHalion 6が立ち上がり、設定を引き継いでくれるのです(画面⑤)。ほかにも“ライブ・サンプリング機能”や“マクロ・ページ・デザイナー”、スクリプトによる制御までさまざまな新機能が搭載されています。

▲画面⑤ Cubaseのサンプラー・トラックのメニューから“Transfer to HALion”を選ぶと、サンプルをHalion 6に転送することができる ▲画面⑤ Cubaseのサンプラー・トラックのメニューから“Transfer to HALion”を選ぶと、サンプルをHalion 6に転送することができる

“あまり細かいところまで触らないから、音源だけを手軽に使いたい!“という方には、細部のエディット機能を省き、一般的なシンセとして扱えるHalion Sonic 3(オープン・プライス:市場予想価格28,000円前後)も発売されています。Halion 6を購入すればHalion Sonic 3も付いてきますので、普段はHalion Sonic 3を使用して、ここぞという音色はHalion 6でエディットする……という使い方もできます。Halion 6は最初の1台としても、これだけですべてをまかなう決定版の1台としても、その期待に応えてくれるでしょう。

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サウンド&レコーディング・マガジン 2017年5月号より)

STEINBERG
Halion 6
オープン・プライス(市場予想価格:38,000円前後)
REQUIREMENTS ▪Mac:OS X 10.11もしくは10.12、VST3/AU/AAX対応ホスト・アプリケーション(プラグインとしての使用時) ▪Windows:Windows 7/8.1/10(すべて64ビット版のみ)、VST2/VST3/AAX対応ホスト・アプリケーション(プラグインとしての使用時) ▪共通項目:64ビットのINTELもしくはAMDマルチコア・プロセッサー(INTEL Core I5以上の性能を推奨)、4GBのRAM(8GB以上を推奨)、40GB以上のディスク空き容量、1,366×768ピクセル以上のディスプレイ解像度(1,920×1,080ピクセルを推奨)、OS対応オーディオ・デバイス(ASIO対応デバイス推奨)、インターネット環境(インストール、アクティベーション、ユーザー登録など)